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太陽の勇者と月の巫女  作者: 涙花
勇者召喚されたけど人違いでした。
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秘密の共有

森の中を注意深く歩いていく。森の出口まで後少しだ。


「大丈夫ですか?アンドリューさん。」


今までより、ゆっくりとしたペースで歩いているが、アンドリューさんの息が上がっている。顔色もかなり悪い。当然だ、右腕を食われたのだ。血も大量に失っている。一度どこかで休憩した方がいいだろう。


「ハア、ハア、、すまない。少し休ませてくれ。」

回復薬ポーションを飲みますか?」

「いらん。」


最後の回復薬ポーションを渡そうとしたが断られてしまった。このやり取りも、もう何回も繰り返している。


「そんな顔するな。」


この言葉も何回目だろう。俺はそんなにひどい顔をしているのだろうか?


「はぁ、お前が回復薬ポーションを多く持っていたから、俺は助かった。お前の回復薬ポーションがなけりゃ死んでただろう。俺はお前に感謝しているんだ。」

「でもっ!俺がもっと…もっと周囲を警戒してたら…、俺が不意打ち喰らったりしなきゃ、アンドリューさんの腕は・・・・・・。」


俺が不意打ちで吹っ飛ばされたりしなければアンドリューさんが腕を失う事なんて無かった。


「休憩は終わりだ。行くぞ。」


アンドリューさんは立ち上がると、俯いた俺の頭を軽く叩いて歩き出す。


(俺が『勇者』だったらこんな事にならなかったのか?)


そんな考えが頭をよぎる。俺が勇者だったら……。


「ルーカスボケっとするな!行くぞ!」


ハッとして顔を上げるとアンドリューさんが厳しい顔で俺を見ている。急いで傍に行くと、拳骨が降ってきた。


「気を抜くな。さっさと行くぞ。」


再び歩き出したアンドリューさんの後を、今度は遅れないようについていく。

そして、漸く森を出る事が出来た。そのまま、森を少し離れたところで再び休憩をとる。


アンドリューさんは座って水を飲んでいる。俺は立ったまま周囲の警戒を行う。

しばらくそのまま警戒を続けていたが、さっきからずっとアンドリューさんが俺をジッと見ているのだ。気にしないようにしていたが、そろそろ限界である。


「そんなに見つめられると困るんですけど。…もしかして回復薬ポーションですか?」


森は抜けたし、もう大丈夫だろう。ポーチから回復薬ポーションを取り出そうとしていた時だった。


「ルーカス、お前はどこから来たんだ?」


アンドリューさんが真剣な表情で俺を見ていた。


「……遠くからです。ここからずっと遠いところから来ました。」


嘘ではない。世界を越えてるんだからかなり遠い。


「遠くからか……。まさか神の世界からとかじゃないよな?」


神の世界ってなんだ?少なくても俺のいた世界は神の世界では無い。


「ハハハ、面白い事言いますね。神の世界なんてある訳ないじゃないですか。そんなことより、回復薬ポーションを」

「『神の世界なんてあるわけない』か。お前は勇者はどこからくると思う?」


「別の世界からとかですかね。」


今までも、勇者召喚ユウカイしてるんだ。別の世界からくるのが普通だろう。うん?もしかしてそこが神の世界だって思われてるのか?


「勇者は世界に争いが満ちた時、神より遣わされる者と言われている。これは小さな子供でも、どんな田舎でも知られている事だ。神が遣わせるんだから、神の世界からくるのは当たり前だろう?」


心臓の鼓動が早まる。俺は答えを間違えたのだ。この世界の住人なら間違えるはずがない答えを、俺は間違えた。


「お前は、別の世界から来たのか?」


顔を上げられない。だって俺は『勇者』じゃない。人違いで召喚されてしまった一般人だ。

でも、アンドリューさんは俺の沈黙を肯定と受け止めたようだ。


「そうなんだな。」

「違う!俺は…、おれは……!」


とうとう膝をついて座り込み項垂れた俺の頭を、宥めるように撫でる。


「王家に口止めでもされてるのか?」


否定する事も出来ず、だからといって肯定する事も出来ずに俺は口を閉ざした。


「最近は聴かなくなっていたが、王家が勇者を召喚しようとしているって噂が流れた事があった。」


『勇者』という言葉に身体が震える。


「お前は勇者なのか?」


その言葉を俺は首を横に振って否定する。


「でも、別の世界から来たんだろう?」


アンドリューさんは俺が別の世界から来たと確信している。誤魔化す事は無理だ。それに、親切にしてくれたアンドリューさんに、これ以上嘘をつきたくなかった。


「俺は…人違いで召喚されたんだ。『勇者』じゃない、偽物だって言われて、殺されるところだったのをお姫様が城からの放逐ってことにしてくれて、その時に約束したんだ。異世界からきた事は誰にも言わないって…。その代り、この世界の服とお金を貰った。」


「どうして冒険者になろうと思ったんだ?」


「冒険者になれば、いろいろな所にいけると思ったから。どこかで元の世界に戻る方法が見つけられるかもしれないって、そう思って。」


「・・・・・・王家は元に世界に帰してくれなかったのか?」


「帰す方法は分からないって、魔王を倒せば帰れるかもしれないけど俺は『勇者』じゃないから…。」


全て話してしまった。また、『偽勇者』とか言われるんだろうか?

アンドリューさんの顔を見るのが怖くて、顔を上げる事が出来なかった。


「ルーカス。」


ビクッ!

名前を呼ばれて、大きく肩が揺れた。顔を上げられない。

アンドリューさんが立ち上がる気配がした。俺に近づいてくる。殴られるのだろうか?

俺の前で立ち止まり、手を振り上げる。


(殴られる!)


歯を食いしばり、衝撃に備えた。


ポスン、ワシワシワシワシ・・・・・・


髪をかき混ぜるように乱暴に、撫でられた。


「帰りたいよな。親もいるんだろう?」

「うん。」


必死に涙を堪える。


「……泣きたいなら泣け。」


必死に首を振って否定する。泣いてもどうしようもない。泣いても帰れないのだから。


「強情な奴だな。」


呆れたようにそう言うと撫でていた手を止めた。そして………拳骨が降ってきた。かなり痛い。思いがけない痛みに涙が零れる。


「なんだ、泣くほど痛かったのか?仕方ねえな、見ないでいてやるから泣け。」


また俺の頭を撫でながら、呆れたような口調で言う。でもその声はひどく優しくて、俺は我慢できなかった。アンドリューさんは、声を殺して泣く俺の頭を撫でていてくれた。俺が泣き止むまで、ずっと。


しばらくしてようやく涙も止まった。


「……すみません。ありがとうございました。」

「落ち着いたか?」


コクリと頷くと、軽く頭を2回叩いてアンドリューさんの手が離れていく。

恐る恐る顔を上げると、アンドリューさんは笑っていた。


「何度も言うが、俺の腕は俺の責任だ。お前のせいじゃない。」

「でもっ!!」


「じゃあ、お前の世界には魔物はいたのか?」

「そんなこと関係な」

「いいから答えろ。」

「っ……危険な動物はいるけど、魔物はいない。」


「魔法は?」

「ない。」


「お前が自分の意志で、生き物…動物を殺したのは?」


手が震える。初めて命を奪ったスライムとウルフ、そして今日まで殺してきた魔物たち。俺が生きて、元の世界に戻る為に奪った命。吐き気が込み上げてくる。

必死に吐き気を堪える。自分で決めたのだ。この世界で命を奪うことを躊躇わないと。命を奪い利用することを、俺が自分で決めたんだ。


「………一昨日。スライムとウルフ。」


「ルーカス、まだ冒険者を続けるか?それとも辞めるか?」


冒険者を続けても、帰る方法が見つかるとは限らない。冒険者を続ければ、またこんな思いをするかもしれない。それどころか、死ぬかもしれない。死んだら終わりだ。ゲームのように生き返ったり出来ない。それだったら、『勇者』が魔王を倒してくれるのをおとなしく待っていたほうがいいのかもしれない。


「よく考えろ。続けるのか、辞めるのか。焦る必要はないんだ。それと、この事は誰にも言わんから安心しろ。あと、明日から当分の間、俺に付き合え。いいな。」」

「………………うん。分かった。」


アンドリューさんは俺が異世界から来た事も黙っててくれるらしい。どうして、そこまで良くしてくれるのか俺には分からない。


異世界に来たら冒険者になるのがテンプレだ!帰る方法を探す為にも、冒険者が最適だとそう思った。でも、本当にそうだったのだろうか?俺が安易に冒険者になったせいでアンドリューさんを巻き込んで、腕を奪った。


(俺はどうすれば良かったんだ?)


「そろそろ行こう。暗くなっちまう。」

「……はい。」


そうだ。今は早く街に戻って、しっかりとした治療をしてもらわないといけない。後のことはそれからだ。まずは、街に戻って、腕の治療をしてくれるところに行こう。

ありがとうございました。

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