スパルタ授業 2日目 午後
死ぬ。元の世界に戻る事も出来ずこんなところで俺は死ぬのか。
・・・・・・嫌だ、死にたくない。俺は元の世界に帰るんだ。こんなところで死んでたまるか!!
ドクン。心臓の鼓動強く感じたその時、今まで感じた事のないモノが俺の中にあるのに気付いた。心臓の鼓動にあわせ、大きく息づいている。
「ほの、お、よ、つど、え、 ファ、イ、ヤー、ボー、ル」
今まさに俺を喰らうため、開いていた口の中に炎の球が飛びこんだ。
「ギャッ」
火の球を喰らったウルフがのたうちまわる。
その間に、思うように動かない腕を動かし、ポーチの中からポーションを取り出す。
蓋を開けて、なんとか口に突っ込む。流れてくるポーションを嚥下しようとするが、なかなか飲み込めず半分以上零してしまった。だが、少しでも効果はあったらしい。痛みが治まっていく。さっきより楽に動かす事が出来るようになった腕を動かしもう1本ポーションを取り出して飲み干した。
刺すような視線と殺気を感じた。視線と殺気の飛んで来る方向を見ると、そこには、食事を邪魔された揚句口の中を焼かれたウルフが怒りと憎悪の入り混じった目で俺を睨んでいた。
一気に距離を詰めて襲ってきたウルフの攻撃を転がって避けて立ち上がり、剣を抜く。
剣を抜いた俺に警戒したのか、それとも、どうやって喰うか考えているのか俺の周囲を歩きまわる。
なんの情報もなく相手をするのは分が悪い。『眼』を使い情報を集める。
名 前 ブラッディウルフ(変異種)
レベル 30
耐 性 なし
弱 点 炎
説 明 ブラッディウルフの突然変異。
普通のブラッディウルフより凶暴で凶悪。
体躯も2周りほど大きい。
備 考 身体と剣に魔力を纏い、身体強化・武器強化をする。
剣で牽制しつつ、魔法を使えばいいと思うよ。
頑張れルーカス!
※ いつかコイツより大きくなれるといいね!
変異種ってゲームだったらレアモンスターとかになるのかな。レベルは30で、弱点は炎か。あれ?今まで弱点ってあったけ。まあいいや。初めて備考が身長ネタ以外と思ったら最後にしっかり書いてあった。でもアドバイスは感謝する。でも、
(魔力を纏うってどうすればいいんだよ!!)
ブラッディウルフと睨みあいながら、どうすればいいのかを考える。魔力があるのは分かった。今も感じる。でも、どうやって使っていたのかが分からない。
『魔力を身体に巡らせるんだ。魔力を血液だと思えばいい。』
突然頭の中に声が響いた。魔力を身体に巡らせる?血液?
急いで血液の流れをイメージする。すると、ゆっくりとではあるが、魔力が流れていくのを感じた。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。もう少しで全身に魔力が満ちる。
あと少しで魔力が満ちるって時にブラッディウルフ(変異種)が飛びかかってきた。攻撃をかわしながら、魔力を巡らせると同時にどうやって魔法をぶち込むかを考えていたら、前足での攻撃を喰らって吹っ飛ばされる。
転がったまま動かない俺に、ブラッディウルフが近づいてきた。そして口を開けたところで、俺は躊躇なく腕を突っ込んだ。そして、
「炎よ集え!ファイヤーボール!!」
魔力を腕に集中させ、口の中で直接魔法をぶっ放すと同時に腕を引き抜いた。
「!!!!!!!!」
声もあげられず、身体の内側から焼かれる苦しさに暴れまわる。しばらくのた打ち回っていいたが、動きが鈍ってきたところで、剣で貫いて止めをさす。
吹っ飛ばされたダメージは魔力を纏っていたお陰なのか、あまりない。魔力ってすごいな。
やっと動かなくなったブラッディウルフを見て、俺はようやく力を抜いた。そして、そこでようやく思い出す。アンドリューさんはどうしたんだろう。
周囲を見渡すと、俺が倒したブラディーウルフ以外の個体が3頭倒れていた。そして、その近くにアンドリューさんが座り込んでいた。
急いでアンドリューさんに駆け寄ると、濃い血の匂いが漂ってきた。
「アンドリューさん!」
声を掛けると、顔を上げて俺を見た。
「無事・・・だったか・・・。」
急いでポーションを取り出す。さっき2本使ったけど、まだ残り3本ある。
蓋を開けて、アンドリューさんに渡そうとして気付いた。
アンドリューさんの右腕が、無くなっている事に。
「情けねえな。ブラッディーウルフごときに片腕持ってかれるとはな。」
俺の視線に気づいたのか、そう言って苦笑を浮かべる。
手に持っていたポーションを握りしめ、思い切りアンドリューさんの口に突っ込んだ。
「ぐっ!?!?」
問答無用でポーションを口の中に流し込む。空になると2本目の蓋を開けて再度突っ込んで流し込む。3本目の蓋を開けようとしたら腕を掴まれた。アンドリューさんが、残った左手で俺の腕を掴んでいた。
「出血は止まった。大丈夫だ。念の為、それはとっておけ。」
青白い顔をしながら、そう告げる。迷ったが、おとなしくアンドリューさんの指示に従う。
「こいつら、普通のブラディーウルフじゃねえ。変異体だ。おい、さっさと剥ぎ取っちまえ。」
「そんなことより、街に戻る方が先決だろう!?早く街に戻って病院に行こう!」
「びょういん?・・・よくわからんが、いいから早く剥げ。変異体はギルドに報告する必要がある。毛皮と、牙と耳と尾もだ。持ち帰らないといかん。だから早く剥げ。お前が早く剥げばそれだけ早く帰れるぞ?」
最後はおどけた口調で剥ぎ取りをするように言われ、仕方なく剥ぎ取りを始める。
丁寧に、でも急いで、必死に解体をしていく。ナイフがなにかに当たった。肉を大きく斬り裂いて見てみると、石のようだった。
「どうした?」
俺の動きが止まったのに気づいたアンドリューさんが声を掛けてくる。
「石があります。俺の拳ぐらいの大きさの。取り出して見ますか?」
「ちょっとまて。そいつは魔石かもしれん。先に他の部位を切り取ってから取り出せ。」
言われた通り、毛皮、牙、耳、尾を先に切り取り、最後に石を抜き取る。石を抜きとった数秒後、ブラッディーウルフの死骸は細かな砂になって消えてしまった。
「ルーカス、それは魔石だ。たまに身体の中に持っている奴がいるが、抜き取ると身体は消えちまう。魔石の抜き出しは一番最後だ。分かったな。」
「はい。」
返事をして、俺は残りのブラッディーウルフの剥ぎ取りと解体に取り掛かった。その結果、魔石は4つになった。なんと、4頭とも魔石を内包していたのだ。こんな事滅多にないらしい。
だが、そんな事はどうでもいい。急いで街に戻らないと。
「アンドリューさん。早く帰りましょう。」
「あぁ。だが、ルーカス。周囲の警戒は怠るなよ。こいつらだけとは限らん。」
「はい。」
周囲を警戒しつつ、俺たちは歩き出した。
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