スパルタ授業 2日目 午前
次の日の朝、昨日と同じく南門でアンドリューさんが来るのを待っている。
暇なので、今日も入ってくる人や出ていく人を観察していると、大きな馬車が入ってきた。馬車が俺の目の前を通り過ぎていく。なにげなく、視線を向けた馬車には頭に猫耳や犬耳、うさぎの耳がある人達が鎖につながれて乗せられていたのだ。驚いて馬車を凝視していると、誰かに肩を叩かれた。
振り返るとアンドリューさんだった。
「ようルーカス。今日も時間通りだな。」
「…おはようございます。アンドリューさん。」
「お前さっき何に驚いてたんだ?」
「馬車に鎖に繋がれた人が乗っていたので…。」
「人?おいおいちゃんと見たか?獣人だっただろう。」
動物の耳がある人の事は獣人っていうのか。でもアンドリューさんの言い方、獣人ならおかしくないって感じだよな。
「はい。でもどうして鎖に繋がれていたんですか?」
「お前、本当にどこから来たんだよ。」
異世界からですが、なにか?
「この国の獣人は奴隷だ。捕まれば、獣人は奴隷に落とされる。あの馬車に乗せられていたのも、捕まった奴らだろう。」
なにもしていない彼らを捕まえて、奴隷にしてるのか。胸糞悪い。
突然アンドリューさんに頭をワシワシと撫ぜられた。驚いて顔を上げると、ポンポンと軽く頭を叩いてから手を離した。そして俺の腕を掴んでそのまま門の外に連れて行かれる。無言で橋を渡り、森に向かってしばらく歩いたあたりでアンドリューさんは掴んでいた腕を離した。
「奴隷を見たのは初めてだったのか?」
無言でうなずく俺をみて、大きな溜息をつくと、真剣な顔で俺に向き直った。
「お前が、奴隷についてよく思わないってのは分かった。だが、少なくても兵士や貴族、王族の前では、そんな顔するな。奴隷の否定は王家の否定だ。分かったな?」
分かってる。アンドリューさんは心配してくれているのだ。あからさまな奴隷否定の態度は、難癖付けられて処罰される可能性があるのだろう。理解はした。納得はしてないけどな。
「分かりました。ありがとうございます。アンドリューさん。」
「どういたしまして。ほら、しょぼくれた顔すんな。行くぞ。」
励ますように肩を叩かれ、なんとか笑みを浮かべて頷く。すると、また頭を撫でられた。子供扱いされるのは嫌だが、アンドリューさんの撫で方は父さんに似ていてすごく懐かしく感じたんだ。
やる事は昨日と同じで、工程も昨日と同じだ。黙々と剥ぎ取りと解体をしていく。
「大分上手くなったな。これならもう大丈夫だろう。」
そして今日、午前最後の魔物の剥ぎ取りと解体作業を見ていたアンドリューさんからお墨付きをもらう事が出来た。俺も大分と自信がついた。教えてくれたアンドリューさんに感謝してもしきれない。いつか恩返ししよう。
昼食を食べ終わると、少し早いが街に引き返すことにした。元々剥ぎ取りを教えてもらうのが目的だったのだ。他にも、戦い方のコツや魔物の弱点やらを教えてもらった。これ以上アンドリューさんに迷惑を掛ける訳にもいかない。
帰りの道中もこれといった事は無く、順調に進んだ。
襲ってくる魔物を倒し、剥ぎ取り、解体する。そして今もまた、倒した魔物-ブラウンベア(名前の通り茶色い熊のような魔物だ)から毛皮を剥ぎ取っていると、鋭く名を呼ばれた。
「ルーカス!」
警告を含んだ声に手に持っていた剥ぎ取り用ナイフを構えようとしたが、それより早く茂みから襲いかかってきたのは赤黒い毛並みの大きなウルフだった。
ドン!!
体当たりされ勢いよく撥ね飛ばされる。俺の体は地面に叩きつけられながら転がっていく。
途中で樹にぶつかり、ようやく体が止まった。だが、樹にぶつかったとき、自分の体から何かが折れるような変な音がした。
全身が痛い。特に痛むのは腹と背中だ。額に汗がにじんでくる。
(早く起き上らないと・・・このままじゃあいつに喰われる!)
「ルーカス!」
焦ったように、俺を呼ぶアンドリューさんの声になんとか目を開けると、さっきの赤黒いウルフが俺に向かって歩いてきていた。
(俺死ぬのか?)
動く事も出来ず、ただ近づいてくる赤黒いウルフを見ている事しか出来ない。そして、とうとう俺のすぐ近くまでやってきた。
俺を喰らう為に、大きく口を開ける。そこにはするどく尖った牙が並んでいた。
(あんなのに噛みつかれたら、死ぬだろうな。)
ぼんやりとそんなことを思った。
ありがとうございました。