スパルタ授業 1日目 午後
ツキドリの串焼きはおいしかった。アンドリューさんが秘蔵のタレなる物をもっていて、少し分けてもらったのだ。どこで買えるのか教えてもらえなかったけどな。踊るシルフ亭のおかみさんにもらったお弁当もアンドリューさんと二人で分けて食べた。調味料や香辛料について聞いてみたら。塩や砂糖は普通に買えるらしい。ただ、海から離れているので塩は高い。でもこれからの事を考えると、せめて塩は欲しい。買えそうだったら、買っておこう。
「休憩は終わりだ。初級魔法を教えてやるからやってみろ。」
「よろしくお願いします。」
いよいよ魔法だ。ドキドキする。
「さっき俺が詠唱した言葉を覚えているか?」
「確か、『炎よ集え、ファイヤーボール』ですよね。」
「覚えてたか。それじゃあ、あの木に向かって撃ってみろ。」
いやいや危ないだろう。火事になったらどうするんだ。
「火事になりませんか?」
「ファイヤーボールにそんな威力はない。いいからやってみろ。」
(本当に大丈夫なのかな・・・。)
「炎よ集え、ファイヤーボール!」
「「・・・・・・」」
なにも起きなかった。
「もう一度やってみろ。」
「はい。炎よ集え、ファイヤーボール」
「「・・・・・・・・・」」
やっぱり何も起きない。
「お前どうして魔力を集めない。」
魔力を集めるってどういうことだ?
首を傾げる俺を見て、アンドリューさんは顔をしかめた。
「まさか、いままでのも全部無意識だったのか。」
いままでのもって、どういう意味だ?
「お前は今日戦ってるとき魔力を使っていたのに気付いていたか?」
「いいえ。俺は魔力を使ってたんですか?」
「剣や体に魔力を通して身体強化やら武器強化をしてるな。そうじゃなきゃ素手で魔物を殴り飛ばせるものか。」
そうだったのか。自分の事だけど知らなかった。
「まずは、魔力を感じろ。魔法はそれからだ。」
「わかりました。」
残念だ。でも魔力を感じるってどうすればいいんだろう。
魔法の練習は打ち切り、森の更に奥に向かって歩いていく。
襲ってくる魔物を片っ端から倒して、剥ぎ取って、解体する。延々とその作業をしていると血しぶきで結構汚れてしまっていた。
「はぁー。これって洗ったら落ちますかね?」
ため息交じりにアンドリューさんに訊いてる。
「洗わなくても、魔法できれいにして貰えばいいだろうが。」
魔法できれいにってそんな魔法があるのか?
「おいおい。本当に物知らずだな。まあいい。街に戻ったら教えてやる。くだらん心配してないでさっさと手を動かせ。」
街に戻ったら教えてくれるというのだ。そして、汚れも落とせるならいいか。
剥ぎ取り作業を再開する。ミスれば拳骨だ。集中しないと。
「よし。そろそろ引き返すか。これ以上は持てなくなる。」
剥ぎ取った素材のお陰でかなりの荷物になっている。そういえばこの世界ってアイテムボックスとかは無いのかな。
「無限に収納できる袋とか無いんですかね?」
「アイテムボックスならあるぞ。」
そんなのあったらいいですねって感じで振ってみたら、あっさり存在を肯定された。
「あるんですか!?」
「なんだよ。これも知らなかったのか。昔は普通にあったらしいんだがな。今持ってるのはA級の上位とS級ランク、王族や高位の貴族ぐらいだろう。」
「どうしてですか?昔ってどのぐらい前なんですか?」
「2,000年ぐらい前だな。今は滅んだ種族だけが作る事がだけが作れたらしい。だから今は出回らん。」
なんということだ。でもそんなのが作れる種族が滅ぶってどうしてだ?
「どうして滅んだんですか?」
「どうしてって…そんなこと知るか。突然姿を消して、今までどこの国でも確認されてないから滅んだとされたんだろう。」
そうなのか。でも2000年も姿を見せないなんて、滅んだ可能性が高いのも事実なのだろう。残念だ。
俺は気付かなかった。
アンドリューさんが俺を観察するような、探るような目で見ていた事に・・・。
「おい。行くぞ!」
アイテムボックスと滅んだ種族について考えていたら、アンドリューさんに呼ばれた。
置いてかれないようにしないとはぐれたら迷子になる自信がある。俺は慌てて後を追いかけた。
街に戻る道中も行きと変わらず、倒す、剥ぎ取る、解体する、を繰り返す。漸く街に戻った時には大分日が暮れていた。
そのままギルド支部の冒険者ギルドのカウンターに行き、受付のお姉さんに買い取りをお願いする。今日はお休みなのかネイダさんはいなかった。
「お待たせいたしました。12,221ソルですが、よろしいでしょうか?」
「おう。小金貨じゃなくて銀貨でくれ。」
「かしこまりました。……では銀貨12枚、小銀貨2枚、銅貨2枚、小銅貨1枚です。」
「ありがとうよ。」
お金を受け取ると、ギルド支部の建物から外に出る。
「お兄さん達、洗浄魔法はいかがですか?お1人様小銀貨1枚ですよ!」
俺と同じぐらいの女の子が声を掛けてきた。洗浄魔法?
「頼む。こいつもな。」
俺の頭をポンポン叩きながらアンドリューさんが依頼する。
「ありがとうございます。では、大きなお兄さんからしますね。」
女の子が杖を構えて小さな声で詠唱を始める。
「***************** クリーン」
杖から飛んだ光が、アンドリューさんの全身を包みこむ。光が止んだ時には、アンドリューさんの服には一切汚れは無かった。続いて俺にも女の子が魔法を掛けてくれる。
光が消えた時には、血や汗で汚れていた俺の服も身体もきれいになっていた。汗臭くない。
「終わりました。」
「ありがとよ。」
俺が茫然としている間に、アンドリューさんが支払いを済ませていた。
「あっすみません。俺の分払います。」
「素材を売った金から支払ったからいい。…ほら、お前の取り分だ。手を出せ。」
言われて出した俺の手には銀貨7枚と銅貨2枚、小銅貨1枚が乗っていた。
「アンドリューさん多いですよ。」
多い分を返そうとしたが、結局受け取ってくれなかった。ガキが遠慮するなって拳骨まで貰ってしまった。明日も今日と同じ時間に南門で待ち合わせる事を約束して、アンドリューさんは帰っていった。
明日もあるのだ。早めに休んでおこう。
宿に戻って、夕飯を食べるとベッドにダイブした。目を閉じると俺の意識はすぐに闇の中に沈んでいった。
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おかしい。知らない事が多すぎる。魔法を見た事が無いほどの田舎から出てきたのなら、計算だって時間がかかるはずだし、言葉も訛りがあるはずだ。それなのに、アイツの言葉には訛りも無いし計算も早い。渡した報酬を見てすぐに多い事に気付いた。悪い奴ではないと思うが……。
そういえば、あの噂は本当なのだろうか?王家が神に勇者様を遣わしてもらう為の儀式をやろうとしている。その為に生贄を捧げているだなんて馬鹿らしい噂だったが………。
「まさかな。」
アイツが勇者様だなんて事があるわけないだろう。
何度も書き直してみたのですが、うまくいかず、この話だけで1日が過ぎてしまいました。
拙い文章を読んでいただきありがとうございました。