目が覚めたら異世界でした①
4人が驚いたように俺を振り返る。俺が起きているのに気づいていなかったようだ。
パトリックと呼ばれていた頭部が残念な親父が目を吊り上げて怒鳴る。
「偽物の分際で、高貴な我らになんという口のきき方だ!」
「偽物偽物ってうるさいんだよ。寝ている俺を間違えて召喚したのはそっちだろう。自分たちが人違いしたくせに人を偽物扱いするな!」
苛立ちのまま怒鳴り返す。勝手に召喚しといて偽物扱いってなんなんだよこいつら。
「なんだと!」
パトリックが顔を真っ赤にして更に怒鳴ってくる。言い返そうとした時、
「落ち着いてくださいませ。パトリック宰相閣下、そして、異世界の方も。」
落ち着いた声音でお姫様が止めに入った。
「しかし、偽物の分際でこのような無礼な態度…!」
「召喚に失敗し、勇者様以外の方を召喚してしまったのは私たちの責任です。異世界の方、ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません。」
お姫様が頭を下げて謝罪してきた。
「じゃあ元の世界に帰してくれ。」
「出来ません。」
即答されました。
「……今までの勇者達で帰った人いないの?」
「伝承では魔王を討伐後に帰られた方もいらっしゃるようですが、帰還方法までは伝わっておりません。」
「魔王を倒せば帰れるかもしれないけど、魔王を倒せるのは召喚された勇者だけ。勇者が召喚されて、その勇者が魔王を倒すまで俺は帰れないってこと?」
「そのとおりですわ。」
勇者(被害者)が召喚(誘拐)されて、魔王を倒すまで帰れないか・・・。
いや、それも絶対ってわけじゃないからな。とりあえず魔王については勇者(被害者)に任せるか。俺は他に帰る方法がないか探して、もし見つかったら勇者(被害者)と一緒に帰ろう。うん。そうしよう。
「さっき俺の事は放逐するって言ってたよな。」
「ふん。王女殿下のお慈悲に感謝するのだな。」
パトリック宰相が忌々しげに口を挿んでくる。いちいち煩い奴だな。
「放逐ってことは俺は自由に行動していいってことでいいんだよな?」
煩い宰相は無視してお姫様に確認する。
「はい。ただ、異世界から来られた事は秘密にしてください。」
「分かった。俺もこれ以上面倒な事に巻き込まれたくはないし、秘密にするって約束するよ。」
「ありがとうございます。」
お姫様に嬉しそうにお礼を言われた。
それにしても出て行くのはいいが、このまま追い出されるのは勘弁だな。
寝てたから着てるのは、Tシャツとスウェットのズボンだけ。服と靴、しばらく生活できるぐらいのお金は欲しい。むしろそれぐらいは貰ってもいいと思う。
「出て行くのは構わない。だけどこのままってのは困る。服と靴、あと金が欲しい。」
俺がそう告げると、お姫様がきょとんとした表情で見返してきた。
「服と靴とお金ですか?」
「あぁ。この世界でこの服は変だろ?寝てたから裸足だしな。金は仕事がすぐに見つかるとも思えないし、1ヵ月・・・いや、3ヵ月ぐらい生活できるぐらいの金が欲しい。それだけ貰えたら、後は自力でどうにかする。そっちには今後一切関知しない。」
金はあっても困らないからな。多めに貰っておこう。
「よろしいでしょうか?お父様。」
お姫様が陛下に確認する。
「よかろう。そのかわり受け取ったらすぐに出ていけ。」
「分かった。貰ったらすぐ出ていってやるよ。」
そう返事を返すと、陛下は俺を睨みつけてから部屋を出て行った。その後を宰相が追いかけていく。
こいつも俺を睨んでいくのは忘れなかった。
「異世界の方、準備をしてまいりますのでこちらの部屋で少々お待ちくださいませ。」
そう言い残してお姫様も出て行ったしまい、残ったのは俺と神官長のみとなった。
静寂と異様な緊張感に包まれた部屋の中でじっとしていると、神官長が口を開いた。
「申し訳ありませんでした。」
俯きながら、そう謝ってきた神官長を見て俺は溜息をついた。
「はぁ。もういいよ。誰だって失敗する事はあるんだし、失敗したもんはしょうがない。」
「本当に申し訳ありません。」
「いいって。それよりこの世界の事教えてくれよ。やっぱりギルドとかあるのか?」
これ以上暗い雰囲気になるのがいやなので、この世界について聞いてみる事にした。
「ございますよ。冒険者ギルド、魔法ギルド、商人ギルドなどがございます。」
おお。やっぱりあるのか。ここはやっぱり冒険者ギルドだよな。
「へえ。ギルドに入るにはどうすればいいんだ?」
「ギルドに入られたいのですか?」
驚いたように聞いてくる。
「あぁ。なんかいるのか?それとも制限とか試験とかあるのか?」
「いえ特に制限や試験などはありません。ギルドに行って登録すれば入れますよ。」
良かった。試験とかあったらどうしようかと思った。
「ありがとう。ここを出たら行ってみるよ。」
「まさかとは思いますが冒険者ギルドに入られたいのですか!?」
「えっ?なんか問題でもあるのか?」
そんなに驚かれるとは思わなかったな。
「いえ、問題などはございませんが、危険ですよ。」
「でもせっかく異世界に来たんだしな。この世界でしか出来ない事やりたいからな。」
「・・・・・・そうですか。」
神官長が若干呆れを含んだ目で俺を見ているが、仕方ないだろう。
異世界と言えば冒険者これは鉄則だ。きっと俺じゃなくても冒険者になる奴はいる。絶対に。
「お待たせいたしました。」
そんな話をしているとお姫様が戻ってきた。
読んでいただき、ありがとうございました。