初クエスト達成と豪華な夕飯
ちょっと長めになりました。
重い足取りのまま街に戻り、ギルド支部に向かう。
冒険者ギルドのネイダさんの列に並ぶ。
しばらく待って俺の順番がきた。
「おかえりなさい。ルーカスさん。どうでしたか?」
採取してきた物をカウンターに並べていく。
「まさか今日一日で全部集めちゃったんですか!?」
すごく驚かれた。クコの実は見つけるのは大変だったが、1本の木から集めることができた。
他のも、クコの実を探し回っている間に見つけることができたので難しくはなかったのだが。
どこかおかしいのだろうか?
「頑張りました。」
「初日から頑張り過ぎですよ!?うっかりして分布図を渡していなかったのに!」
分布図なんてあったのか。しかもうっかりしてたって酷い。
「ちょっと取り過ぎちゃたんだけど、これって買い取ってもらえたりする?」
「もちろんですよ。余った分は全部買取でいいですか?」
「はい。あとこれもいいかな?」
ウルフの牙を2本カウンターに置く。
「これはウルフの牙ですね。怪我はなかったですか?」
「大丈夫。そうだ、どこかで剥ぎ取りの仕方教えてくれる所ないかな。」
「剥ぎ取りの仕方知らなかったんですか?」
呆れたように聞かれる。どうやら常識らしい。冒険者には必須だもんな。
「うん。どこかない?」
「剥ぎ取りのできる冒険者に教えてもらうしかないですね。」
残念だ。当分剥ぎ取りは無理か。
「薬草の鑑定をするのでしばらく待っていてくださいね。」
ネイダさんがサクサク鑑定をしていく。ぼんやりと鑑定が終わるのを待っていると、後ろから肩をたたかれた。
振り返ってみると、アンドリューさんだった。
「よう。ルーカスじゃねえか。」
「こんにちは。アンドリューさん。」
昨日と変わらず怖い顔だ。
「さっそくクエストを受けたのか?」
「はい。採取のクエストを受けて、今鑑定中です。アンドリューさんもクエストですか?」
「おう。だがいいのがなくてな。仕方ないから何日かゆっくりしようかと思ってな。」
「ルーカスさん、お待たせしました。」
アンドリューさんと話している途中、ネイダさんから声がかかった。どうやら終わったようだ。
「採取してきていただいた物に問題はありませんでした。初クエスト達成おめでとうございます。余った分とウルフの牙の買い取りですが全部で3,032ソルになります。こちらの金額で買い取らせて頂いてもよろしいですか?」
薬草採取でも意外と稼げるんだな。頑張ってよかった。
「お願いします。」
「ありがとうございます。ではギルドカードを出してください。」
カードを預けると、依頼を受けた時と同じように水晶玉の上にかざしている。
「お待たせいたしました。ギルドカードをお返しします。こちらが報酬です。クエスト報酬分と合わせて銀貨6枚、銅貨3枚、小銅貨2枚です。どうぞ。」
「ありがとう。」
「おい。ルーカス!」
ネイダさんとのやり取りが終わるのを待っていたアンドリューさんが、声を掛けてきた。
「はい。話し中だったのにすみませんでした。」
「それはかまわん。時間があるなら飯でも食いに行かないか?」
「すみません。宿に食事代を支払っているので宿で食べないといけないんです。」
「どこの宿だ?」
「踊るシルフ亭です。」
「踊るシルフ亭か。あそこの飯はうまいからな。よし、行くぞ。」
「・・・はい。」
結局一緒に食べる事になったけど、まっいいか。
腹も減ったし、宿に帰ろう。
アンドリューさんと宿屋に戻った俺は、扉を開けて中に入る。
「おや、ルーカスおかえり。怪我はしなかったかい?」
昨日と同じくおかみさんが俺に気付いて声を掛けてくれる。
「ただいま。怪我はしてないよ。」
「そりゃあ良かった。アンドリューも久しぶりだね。」
「おう。昨日帰ってきてたんだが忙しくてな。それより飯と酒を頼む。飯は任せる。あと、コイツにもなんかなにか付けてやってくれ。」
俺の頭をポンポン叩きながら注文をしていく。
アンドリューさん、頭叩かないでください。痛くないけど、背が縮みそうな気がします。
「あいよ。」
アンドリューさんと一緒に空いている席に座って、料理が来るのを待つ。
「お待ちどう。ビールとオレンジジュースだよ。」
アンドリューさんの前にビール、俺の前にはオレンジジュースが置かれる。
アンドリューさんは、グビグビとビールを飲んでいく。
俺もジュースを一口飲んでみると、程よい酸味と甘さがあっておいしかった。
「それにしても、よくあれだけ見つけられたな。」
薬草のことか。ネイダさんも驚いてたけどなんでだろう。
「普通は見つけられないんですか?」
「1ヵ月ぐらい前にポーションが大量に必要になってな。その時に、大分採っちまったから、最近は見つけるのが難しいんだ。なんで、お前さんが一日であんなに見つけてきたのが不思議だ。」
そうだったのか。そうなると俺も不思議だ。なんであんなに簡単に見つけられたんだ?
「そう言われると俺も不思議です。」
「なんか見つけるコツでもあるんじゃねえのか?」
「無いですよ。適当に歩きまわって見つけただけなので。」
本当の事だから仕方ない。ネイダさんのうっかりで分布図も貰ってなかったし。
「そういえば、ウルフの牙も出してたな。一人で倒したのか?」
「はい。なんとか。」
「毛皮はどうした?」
やっぱり訊かれるよな。
「剥ぎ取りの仕方が分からなくて。毛皮はそのままです。」
「・・・・・・お前、剥ぎ取りの仕方も知らんかったのか。」
すっごい呆れられてる。そして残念な子を見る目で見られてる。仕方ないじゃないか。日本じゃ毛皮を剥ぐ
機会はめったにないと思う。
「すみません。どこか教えてくれるところは無いですか?」
「剥ぎ取りが嫌で覚えなかったんじゃないのか?」
「覚える機会がなかっただけです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ」
アンドリューさんが何か言いかけた時、おかみさんが料理を持ってきた。
「おまちどうさま。モーモー鳥の塩焼き、トントン豚と季節の野菜のシチュー、オムレツ、野菜サラダ、パンだよ。足りなかったらまた言っとくれ。」
目の前に並べられた料理に涎がでそうだ。
「まずは腹ごしらえだ。遠慮なく食え!」
「いただきます!」
アンドリューさんがなにを言いかけたのか気になるが、目の前の料理の誘惑には勝てない。
遠慮するなとのお言葉もいただいたので、目一杯食うぞ!
「お腹いっぱいです。ご馳走様でした。」
「見かけによらずよく食ったな。ルーカス。」
成長期だし、しかも奢ってもらえるのだ。食べないでどうする。
「歩き回ってすごくお腹が空いてたんです。」
「まあ初クエスト達成祝いだ。今日は奢ってやる。」
「ありがとうございます。」
自分の金だったら絶対こんなに食ってない。大満足である。
あっ、忘れるところだった。
「そういえば、料理が来る前、なにか言いかけませんでしたか?」
「覚えてたのか。」
意外って顔に書いてありますよ。アンドリューさん。食べるのに集中してましたけど、大事なことや気になったことはちゃんと覚えてます。
「気になっていたので。」
「そうか。いや、お前明日もクエスト受けるのか?」
「はい。早くランクを上げたいので、できたら毎日受けたいと思います。」
「じゃあ明日からしばらく俺に付き合え。」
じゃあってなんだ。俺はクエストを受けたいのだが・・・。
「ったく。剥ぎ取りを教える場所なんてあるわけねえだろ。仕方ねえから明日から俺が教えてやる。ついでに戦い方も見てやるから明日の朝、南門で待ってろ。」
えっマジで!?アンドリューさんめっちゃいい人。
「ありがとうございます!!」
「俺は甘やかさねえからな。じゃあ明日の朝、南門に8時だ遅れるんじゃねえぞ。」
「はい!お願いします!!」
慌ただしく席を立って帰っていくアンドリューさんの顔が赤くなっていた気がしたが、きっとお酒のせいだろう。
さてと、お腹も一杯だし、このままベッドにダイブしたら速攻で寝れる。だがその前に汗もかいたし風呂に入りたい。風呂ってあるのかな?
「すみません。おかみさん。」
分からない事は聞くしかない。このままってのは嫌だしな。
「おやルーカス、いい食べっぷりだったね。」
「今日のご飯もすごくおいしかったよ。」
「あの食べっぷりを見てればよくわかるさ。そういえばルーカスは魔法が使えるのかい?」
なんだ?急に話が変わったな。
「魔力はあるけど、魔法は使えないよ?」
「そうなのかい。昨日お湯を使わなかったから使えるのかと思ってたよ。」
お湯?もしかしてお風呂の事か?
「昨日は疲れてて、そのまま寝ちゃたんだ。今日は使いたいんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。銅貨1枚だけどいいかい?」
「はい。お願いします。」
ポケットから銅貨を1枚取り出しておかみさんに渡す。
「じゃあ後で部屋にお湯を持っていくからね。」
持っていくって、お湯だけ部屋に持ってくるのだろうか?
部屋に戻ってしばらく待っていると、おかみさんが桶を持ってきてくれた。
「使い終わったら残ったお湯は外に捨てて、桶は下のカウンターに置いといてくれればいいからね。」
軽く説明してお湯の入った桶を床に置くと、おかみさんはさっさと出て行ってしまった。
「体を拭くぐらいしか出来ないってことか。」
残念に思いながら、なにか拭くものがあったかなと荷物の中身を思い出す。
・・・・・・無いな。俺タオルとか石鹸は買ってないや。どうするか。でもこのままってのは嫌だしな。
結局、昨日腕輪を拭いたTシャツで体を拭いた。明日タオルとか石鹸とか必要な物買ってこよう。
翌日、アンドリューさんに剥ぎ取りを教えてもらっている時に、それとなくお風呂について聞いてみた。湯船につかるお風呂に入れるのは、貴族や王族、お金持ちぐらいで、一般庶民は川や湖で水浴びしたり、お湯で体を拭くだけだと知り、ショックを受けたのはいうまでもない。
いつも本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。