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馬がとりもつ恋もある  作者: 東雲 さち
6/14

可愛いと言ってはいけません

結局シイナさんに贈るものが見つかったのは、夕方だった。更に一度お茶休憩をいれて、やっと見つかったときには、ジークさんはほっとしたように深く溜息をついたのだった。


時間がかかるだろうと思っていたけど、まさかこんなにかかるとは自分でも思っていなかった。


この店は私が好きそうなものが山盛りチョイスされた私のためのセレクトショップかと思うような店だった。


「この店に一番に入っていたら、こんなに時間かからなかったんですけどね」


 言い訳がましいかもしれないが、これは本音だ。


「可愛い……」


 あまり可愛いものが似合う私ではないが、色とりどりの花を布でコラージュしたものとか、見ているだけで幸せになる。


 シルヴィー殿下もなにか買い求めていたようで、趣味があうのねと純粋に嬉しい。


「たしかに落ち着く感じの店ですね~」


 私がシイナさんに選んだのは青い小花と白い小花をあしらった髪留めだ。値段もプレゼントにちょうどいいくらいで、なによりシイナさんの綺麗な金の髪につけてもらえれば、清楚さが引き立つだろうと思われる。


 ジークさんは、私が目的の品を手に入れたことでやっと落ち着いたらしく、店の中を眺める。


「ジークさんも彼女に何か選んでみたら?」


 赤い花の絵が端に刺繍されたハンカチをみているからそう言ったら、ジークさんは目尻を赤くして「そんな人はいませんよ」と言う。気になる人がいるのがバレバレって気付いていないのだろうかと思うと可愛い人に思えた。


「ジークさんて可愛いひとですね」


 ついつい口にしてしまったのは失敗だった。


「私が可愛いですって?」

「ジークが可愛いだと?」


 店の右端と左端にいたジークさんとシルヴィー殿下の両方が叫んだから、私は慌てて口を押さえた。そんな失礼なことをいったのだろうか。


「私はどうだ? 可愛いか?」


 シルヴィー殿下が電光石火といえる早さで私の前にやってきて、そんな事をいう。


 いや、まぁ可愛いなと思うことだってある。年下だしね。でも、シルヴィー殿下は可愛いというよりも格好いいとかそっちだと思うんだ。いや、どちらかというと綺麗ってのがしっくりくる。

 ジークさんだって、恥ずかしがっているのが可愛かっただけで、けして可愛い男の子という感じではない。


「ご、ごめん……なんだかわからないけど、シバは可愛くない」


 サッとシルヴィー殿下は青褪めた。


「私は可愛くなくて……ジークが可愛いのか……」


 口元を押さえて、搾り出すようにシルヴィー殿下は呟いた。オロオロとジークさんが、シルヴィー殿下の後ろを右往左往している。


「か、帰ろうか……」


 それからシルヴィー殿下は何も言わなくなってしまった。気まずい雰囲気を醸し出すシルヴィー殿下に王城の部屋まで送ってもらったが、私は迷いながらお礼を言った。


 声をかけてはいけないような雰囲気があったのよ。


「シルビー殿下……今日は街に連れて行ってくれてありがとうございます。シルビー殿下は可愛いって感じじゃないけれど、格好いいですよ」


 よいしょするつもりで言ったのではないけれど、シルヴィー殿下の落ち込みが酷すぎて、私はそれだけは伝えようと思った。あまり浮上しなかったから失敗だったようだけど。


「そうか……。楽しかったなら連れて行った甲斐があった。これを……お前に選んだんだ」


 シルヴィー殿下は小さな箱を差し出した。開けていいというので、包みを綺麗に解いて、開けてびっくりした。


 小さな真珠のような白い玉が花のように配置されている髪飾りだった。きっと私のお気に入りの店で買ってくれたのだろう。


「お前の黒い髪に似合うと思ったんだ。私は可愛くないかもしれんが、それは……髪が伸びたらつけてくれ」


 今の格好じゃ似合わないかもしれないけど、髪が伸びて女の子の格好ができるようになれば、きっと似合うだろうと思われた。


「ありがとう……ございます」


 あまりに消沈しているシルヴィー殿下に突っ返すなんてことは出来なかった。嬉しいという気持ちを込めて、笑顔でお礼をいうと、シルヴィー殿下はいきなり私を抱き寄せた。


「あ、あの……っ」


「いつか……。いつかお前に可愛いと言わせてみせる」


 シルヴィー殿下が抱きしめた私の耳元で囁いた。その低い声に背中が震えた。


 内容がおかしいとは思うものの、私は焦ってシルヴァー殿下から離れた。

 シルヴィー殿下は、引き止めることもなく、離れた私に「覚えておけ」といって、去っていった。

 

 思っていたより、随分筋肉質な身体だなと思った。細く見えるのに、結構鍛えているようだった。


 あの身体を知っているような気がする……。


 筋肉質な腕、硬い胸……。銀色の髪と紫の瞳から想像するような冷たい身体じゃなく、熱い抱擁を……。あの声を……。


「ユキさんこんな所で何しているの? あら、顔が赤いわね。疲れて熱でも出たのかしら?」


 仕事を終えて帰ってきたシイナさんが扉の前でぼんやりたっていた私の手を引く。


「ちょっと掌も熱いわよ」


 いや、熱じゃないと思う。色々と知らないはずのことが頭に溢れてヒートアップしただけだ。


「ううん、大丈夫。あの、これ、シイナさんにプレゼント買ってきたの。いつもお世話になってます」


 私が買ってきた箱を渡すと、目を細めてシイナさんは嬉しそうに笑った。


「まぁ、素敵ね。いいの? もらって」


「シイナさんに似合いそうだと思って」


 パチンと髪に留めたそれを見て、頑張った甲斐があったと満足した。


「ありがとう。嬉しい」


 シイナさんも気に入ってくれたようだ。


「シイナさん、聞きたいことがあって……」


「なあに?」


 さっきの二人がおかしすぎるから、何か理由がありそうな気がしたのだ。


「可愛いってどういう意味なんですか?」


「可愛いって可愛いっていう意味だけど……」


「ジークさんに可愛い人だっていったら、反応が変なんです……」


「ええ? ジークさんのことが好きだったの? 気付かなかったわ」


 好き? 可愛いって好きっていう意味なんだろうか。


「好きって、愛してるとかそういう好きってことですか?」


「ええ、小さい子とか猫とかにも愛らしいという意味で使うけど。そうね、愛しいとか運命を感じるとかそういう意味もあるわよ。例えば、この髪飾り可愛い! とかだと私のためにあるっていう意味だし」


「……じゃあ私はジークさんに、愛を告白したってことになるんですか?」


「ええ、普通に聞いたらそうね……」


 口をパクパクと開閉し、息を吸ったら、眩暈がした……。


「ちょ、ちょっと、ユキさん!」


 フラリと揺れた私を支えてくれたシイナさんが、私をベッドに連れて行ってくれた。


 シルヴィー殿下は何て言ったっけ?


『いつかお前に可愛いと言わせてみせる』


 それって、告白じゃないの――?


 いつかお前に運命の相手だと言わせてみせる……。


 あの声は冗談なんか言っているようには聞こえなかった。


「あ、もう疲れた……」


 私は服を脱ぎ、シイナさんが持ってきてくれた果実水を飲み干して、ベッドに沈み込んだ。


 考える事はとりあえず、放棄した。考えたって、意味がないことくらいはわかっている。


「あの人は……王太子殿下なの……。異世界の人間で……」


 ちゃんとわかっている――。


 シーツを被り、私はあの声を、体温を思い出さないように眠りについた。

こんにちは。プレゼントが選べない東雲です。五時間、普通だよ。うん。


ちょっとラブってきました?ジワジワジリジリがんばります(笑)。

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