巨乳愛好家と訳されました
ブックマークありがとうございます♪
シルヴィー殿下は意外なことに女の買い物に付き合えるタイプの男だった。
私には兄がいるんだけど、これが買い物に付き合ってもらえば、「さっさと買え」という人で、繁華街まで出ているというのに、買いたいものだけを買ったらさっさと帰るような人だったから、男っていうものはそういう生き物なのだと思っていた。
ついでに言うなら父も同様だ……。
「シイナさんに何か選びたくて……」
この国というかこの世界に来てから世話になりっぱなしのシルヴィー殿下の侍女であるシイナさんは、さすが王太子殿下に仕える人なだけあって、実は男爵令嬢なのだそうだ。お貴族様だよ、お姫様だよ、と驚いていたら、お姫様っていうのは侯爵令嬢とかその辺だと教えてくれた。
ちなみに男爵令嬢は、お嬢様って感じらしい……。
そんな高いものは買えないけど、センスのいいものが欲しいなと思って、出店から王都にしかないような高級な店まであちこちを歩いて回った。
私は誕生日プレゼントを選ぶのにほぼ五時間ほど掛かる女だ。
「これはどうですか?」
曖昧に説明したものの既に二時間うろついているので、ジークさんが手当たり次第に勧めてくる様になってしまった。
「それはなんか色が……」
「じゃあこれは?」
「そんな大きなものじゃなくて……」
「これは?」
「あ~おしい!」
自分で言ってても思うよ、おしいって何だって……。
もうそうなると余程気に入らないと頷けなくなる。こういうところが強情って言われるところなんだろうなとは思うんだけど……。
「お腹が空いてるんじゃないか?」
「え……」
シルヴィー殿下が青い髪飾りを見つめて「うーん……うーん……」と唸る私に尋ねる。
「あそこは女性に人気のあるレストランだ。なんでもデザートが秀逸だとか聞いている。お前、甘いもの好きだろう?」
シルヴィー殿下の目が猫じゃらしを猫の前で振る飼い主のような顔をする。
なんだかいい様にあしらわれているような気がしたが、もうお昼を越えているので空腹かもと思うと、とてもお腹が空いていることに気付いた。
「好きです!」
「好き……か」
なんだかシルヴィー殿下に告白しているようだと思ったら、ちょっと顔が赤くなってしまった。つられた様にシルヴィー殿下まで頬に朱を走らせるものだから、慌てて言い直した。
「甘いものが大好きです!」
何だかなぁ、好きなものは甘いものであって貴方じゃないって言い直しているのがむなしい……。でも、もう痛い目にあうのも嫌だし、怖ろしく高い身分の壁やら世界の壁があるから、素直になんてなれないよ。
「大好きか……」
シルヴィー殿下は、噛みしめるようにもう一度そんな風に言うから、私は思わずシルヴィー殿下の袖をひっぱって、店にむかって歩きだした。
「お勧めってなんでしょうね」
恥ずかしいから、地面を見つめながら、どうでもいいことを呟く。
ジークさんの笑い声がなんだかとっても楽しそうで……、ムカついた。
そのお店は洋服の感じから、中級クラスのレストランのようだった。ちょっと裕福な市民の奥様がわんさかいる。
「ちょっと雰囲気が……」
「違いますね」
ジークさんがきっぱりと言い切ってくれた。言うなれば、裕福なマダムの園のようなところで、男の人が入りにくそうな雰囲気なのだ。
「誰に聞いたんですか」
ジークさんは、確認するようにシルヴィー殿下に尋ねた。
「エリーゼだ」
少し年のいった侍女の一人で、確かに彼女にはお似合いかもしれない。
「なんて聞いたんですか?」
「エリーゼの知っている女性の好きそうな店はどこだと聞いた」
「ああ……、間違ってませんね。ただ、三人とも男の格好してますから、問題なんでしょうね」
私が女の格好をしていれば、二人を連れていてもテラスかなんかで食べれば、問題はなかっただろう、女の格好をしていればね……。
「そうだな……」
シルヴィー殿下は少し戸惑っているようだった。
「髪の毛が伸びて、女の格好が出来るようになったら、また連れて来てくれますか?」
テラスで食べている女性達はとても美味しそうに食べている。
図々しいかなと思ったけど、シルヴィー殿下は優しく微笑んで「喜んで」と言ってくれた。嬉しくて、微笑み返すと、「珍しく素直だな」とシルヴィー殿下は少し目をそらして、そんなことをいう。
私はいつでも素直なんだけど……。
「女性にはどうかとおもいますけど、美味しいお店に案内しますよ」
ジークさんは、大通りから離れた路地を曲がり、少し離れた雑多な感じの店に案内してくれた。
「ここは肉が美味いです。ユキさん、肉大丈夫ですよね?」
「はい、好きです」
シルヴィー殿下が、複雑そうな顔をしているような気がしたが、気のせいだろう。
結局ここの支払いはジークさんがしてくれた。甘辛い鶏の照り焼きが美味しかった。居酒屋のような酒の飲む場所だったが、よく考えれば、この国は日本と違ってワインやら蒸留酒やらを水のように飲んでいるのだから、居酒屋イコール食堂なんだろう。
皆さん、昼真っからよくこんなに飲めるものだと思いながら、私も麦芽酒を二杯飲んだ。そんなに強くはないが、結構好きなのだ。
子供は一杯までと言われて、危うく二十八歳で十歳ほどサバよんでるとゲロしそうになったが、「私の国では十八歳で成人です」と機転をきかせてみた。
「胸がそだってから言え」
素面なのか、酔っているのかわからないセクハラじみた言葉を吐いて、シルヴィー殿下はジークさんに「シバ、胸の大きな女の子好きですもんね」と言われていた。
くそ、このまま育たない胸を馬鹿にされながら生きていくのか……と思うと悔しいので、ちょっと潤んだぽい目でシルヴィー殿下を上目遣いに見上げた。
ビックリしたような顔になったから、上目遣い成功! と密かに喜ぶ。余り女性のスキルがないんだな、私は――。
「シバ……、おっぱい星人なんですか……?」
多分、正確に伝わってはいないと思うのだが、二人は顔を真っ赤にして、私の口を押さえた。
「お前、意味わかって言ってるのか?」
「え、意味……?」
どう伝わったのか知りたい。いや、知りたくない。知ってはいけないような気がする。
「こんなところで、口にしちゃ駄目ですよ」
「ジーク、お前忘れろ」
「あっ、はい。忘れます」
このテンポのいい主従は、そうやってワタワタとコントを繰り広げて、酔ったせいで低くなった笑いのツボを押してくるのだった。
私が笑うのを見て、二人は「もう飲ませるな」と密かに約束したそうだ。
読んで下さってありがとうございます。書くペースが大分遅くなってきてます。体調がよくなるまでしばらくこんな感じかもです。よろしくお願いします。