ミケとかタマみたいなもの
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「いくぞ」
今日は週に一度のお休みで、ゆっくり寝ているべきかそれとも一度城を出て街にいってみるべきか、迷っていた。本当は街にいきたいんだけど、少しだけ怖いのだ。王城にいれば、王城に勤める人間が使える店が外郭のほうにあるから、いるものはそこで全部揃うし。
シイナさんが何度か一緒に行こうかと声を掛けてくれたんだけど、折角の休日を私のためにつかってもらうのもなんだか悪くて、そのままズルズルと半年……。
シイナさんはシルヴィー殿下専用の侍女なだけあっていい部屋をもらっている。家族申請したから広くなったんだよと言っていたが、家族五人は暮らせそうだ。小さいながらもバルコニーがあって、そこで私はイチゴなんかを植えている。
馬を触っているのもそうだが、土に触れるのも癒されるんだよね~。
「おい、いくぞ」
あ、そういえば……半年たったけど、お母さん心配してるだろうな~とぼんやりしていたら、頭を小突かれた。
「あっ、痛い……?」
プランターを覗き込んでいて気付かなかったが、振り仰げば、機嫌の悪そうなシルヴィー殿下がそこに立っていた。
「えっ、あのシイナさんはお仕事いってますけど?」
部屋にシルヴィー殿下は訪れることがある。シイナさんがお迎えして、シイナさんとお喋りして帰っていくのだが、残念ながら今日はシイナさんは仕事だといっていた。
「知ってる……。だから暇だろうと思って誘いにきた。街に行くぞ」
シルヴィー殿下は本当に優しい。拾った人間のアフターケアもちゃんとしてくれる。
「街に連れて行ってくれるんですか!」
嬉しくて思わず声を弾ませたら、シルヴィー殿下は頭をクシュクシュと撫ぜた。
「あ、だめですよ。くちゃくちゃになっちゃったじゃないですか」
文句を言っても、全く堪えないけど、言う事はいっとかないと。
「くちゃくちゃでも一緒だろう? 大して変わらん」
くー! ムカつく! そりゃ綺麗にしても馬しかみてくれないけどさ、私だってドレス着せてもらった時はいけてるんじゃね? と思ったりもなんかもしたんだけど。
「お忍びだからその格好でいい」
髪は肩くらいまでは伸びてきたけど、まだ駄目みたいで、男の格好のままなんだけど、これでいいらしい。
そういえば、いつもと違ってシルヴィー殿下もキラキラ、ゴテゴテした衣装ではなかった。シャツの上に上着は着ているけど、房とかついてないし、宝石とかキラキラしていない。
お忍びか~、小説や漫画みたいで楽しそうだ。
「お忍びっていっても護衛とかついてくるんですね」
王城にあるにしては地味目の馬車に乗り、街に入るまでしばらくかかった。このお城広い上に、護る事を考えてか直線に道を作ってなんだよね。地味に坂だから大変そうだ、馬が。
馬車の窓から後ろをみると護衛が馬を走らせている三騎と少ないように見えるが、実は既に街に配置しているらしい。
シルヴィー殿下は、髪の色を染めていた。
「染め粉なんてあるんですね……。染めようかな――」
前の座席に座るシルヴァー殿下の茶色くなった髪をジッと見ていると、フイッと顔を逸らされてしまった。別にシルヴァー殿下を見てたわけじゃなくて、髪の色をみていただけなんだけどな。
「染めなくていい……。お前にはその黒髪が似合っている」
どっかのお姫様には不吉だといわれたけどね。
「でもあまりいないんでしょう?」
「ああ、だから目立っていい。迷子にならないだろう?」
子供じゃないんだけどと思って、気になるから触ってみた。シルヴィー殿下はビックリしたようだけど、ジッと触らせてくれた。
「茶色もいいけど、シルビー殿下は銀がいいですね。なんかキラキラしてて、綺麗……」
銀色の髪の毛なんて、テレビの中でしか見たことがない。紫の目もだ……。
同じ人間とは思えない美しさだ。
「綺麗とか言うな……。そんなのは男への褒め言葉じゃない」
ふてた様にいうから、なんだか笑えた。いつもシルヴィー殿下は私を笑わせてくれる。
「格好いい? とかがいいんですか? 頼りがいがあるとか?」
思いつくまま男性の褒め言葉を捜したが、私の少ない語彙では出てこなかった。
チョーイケテルとか、褒め言葉じゃないよねと二十八歳独身女性は思うのだ。それって見た目がいいって事だけだもん。ああ、そっか、綺麗も一緒なんだ。だから気に食わないのだ。
「シルビー殿下はいつでも凛々しくて、いい男ですよ」
見た目も中身もいい男だと思う。
「いい男は好きか?」
そう聞かれて、うーんと悩んでしまった。
いい男と言われた人に振られたんだよね、ここに来る前に。だから、髪の毛をばっさり切って旅にでたわけなんだけど……。だから、いい男が好きかと聞かれると困ってしまった。
「いい男は好きじゃないです。でもシルビー様は好きですよ、……リオの次くらいに」
そうごまかしながら言ったら、隣に座っていた殿下の側付きのジークさんがブハッと咽た。
「ジーク、汚い……。お前歩いて帰れ」
そうシルヴィー殿下が酷い事をいって、ジークさんを苛めている。
窓から見える街並は、どこか日本人が想像する中世のような雰囲気だった。日本から出たことがないからわからないが、テレビでみたことのあるイタリアのバザールのように活気が溢れて、沢山の野菜や果物が売っているのがみえた。
「シルビー様、あれ、あれ食べたい!!」
クレープのようなものが売っているのが見えて、思わずはしゃいでしまった。
ええ、二十八歳でも甘いものにはテンションが上がるんですよ。まぁ、永遠の十八歳だからいいか……。
「シルヴィーではあれだから、シバと呼べ。様もつけるなよ」
シバって……、なんか柴犬みたい。シルヴィー殿下を犬に例えてもぜったい柴犬じゃない。何チャラアフガンとかそんなのだ。
「シバ? じゃあ私は?」
「ユキだろう? ホリカワ ユキ。ユキでいい」
「ユキってこっちじゃ男の名前なんですか?」
私は今男の格好をしているし。日本と違ってズボンをはいている女の子なんていないからね。
「ユキは……猫に多いな。雄も雌も」
「え、じゃあミケとかタマみたいなもの……」
「ミケ? 可愛いな。ミケにするか?」
「いえ、ユキでいいです……」
シルヴィー殿下は思いのほかミケが気にいったようで、何度もミケと呟いていた。
読んでもらえているようでとても嬉しいです。特に激しい山はない予定ですが(午後10は山がでかい><)ほのぼのしたらいいなぁと思ってます。