異世界で生きることになりました
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「ユキさん、なんで殿下にだけあんななの?」
馬のボロは重い。それをせっせと運んでいると同じ仕事をしている先輩であるリナンが不思議そうに聞いてきた。
「え、あんなのって?」
リナンは呆れたように鋤を新しい寝藁に差込み、ザクザクと馬の寝る場所に運び込む。
「あんな馬鹿みたいな……」
言葉が悪いと気付いたのか最後は聞こえない。
馬鹿……。だよね~馬鹿みたい。
ヴィーが発音できないわけないじゃない。
「馬鹿って酷いですね。……私の住んでいたとこにはあんなに気さくな王子様なんていなかったんですよ。一般の人には一年に一度か二度遠くのバルコニーから手を振るのを見ることができるかどうかで……」
「いや、ここも殿下も本来そんな人だから……」
慌てたように私の知識を訂正するリナンさんに私は笑う。
「殿下って、めちゃくちゃ親切なんですよ。雪道で倒れてた私を助けてくれて、こうやって仕事までくれて、有難すぎて……笑っちゃいますよね、好きになっていい人じゃないのに」
ボロを運びながら、男の人相手に恋ばなって寂しいけど、恵まれていると思う。たとえば、日本で異世界から来たとかいって困っている人がいたとして、そんな人に親切に出来る? 春だな~とか思われてそれで終わりか、救急車か警察を呼ばれて終わりだろうと思う。
「それならあんな態度とらなくてもさ……」
「駄目ですよ、身分が違いますからね」
「身分て……あんな態度で普通なら不敬罪でチョンだよ」
手で首を切る形をとる。
「殿下はそんなことしませんよ。口はあれだけど本当に優しいんですから」
そう思うなら……とかブツブツといっている。
そう、雪山で拾われた私はシルヴィー殿下が本来行く予定だった離宮に運ばれたのだ。意識の戻らない私を自分の寝台で温めてくれたらしい。
帰りたい……と泣く私の頭を撫でて、背中をトントンと叩いてくれたのは、恥ずかしながら覚えている。
これでも異世界トリップでショックを受けて、少し錯乱していたのだと思う。
帰りたい……と何度も泣く私の涙を唇が拭ってくれた。
泣くな……と言う声を聞きながら眠った……。
って、キャ――! 恥ずかしい!
え、そこは絆されるところだろうって? 二十八歳独身をなめるなよ!
我に返ったは三日くらいグスグスと泣いた後だった。
「離宮内は安全ですから、庭でも散策されますか?」
シルヴィー殿下の侍女シイナさんがそう言って、私でも似合いそうなドレスを用意してくれた。お姫様のドレスだと喜ぶ私にシイナさんは、「お似合いですよ」と褒めてくれた。
自由にしていいと言ってもらっていたから、庭を散策していたら、綺麗なお姫様達に囲まれたのだ。
「みすぼらしい、何この不吉な黒い髪」
「あら、目の色も黒よ。薄汚い……殿下が側にいることをお許しになるなんて信じられないわ」
「この短い髪は、きっと娼婦なんでしょうよ。随分小さい胸だけど、誑し込む術でもお持ちじゃないのかしら?」
「殿下もお優しいところがおありなのね、道端で拾ったらしいわよ」
三人のお姫様たちは、とても綺麗なドレスを着ていた。フワフワの綿菓子のようなのに、口から零れるのは、どこの会社の秘書課のお局だよと思われる言葉だった。
金の髪に緑の瞳が一番多い国だというから(シイナさんから少しづつこちらの世界の話を教えてもらっている)黒は珍しいんだろう。
言い返すくらいなんでもなかったが、世話になっているシルヴィー殿下に迷惑が掛かるかもしれないと思って、私は何も言い返さなかった。困ったように下を向いていたら、シイナさんが迎えに来てくれて、連れ出してくれた。
「あの人たちはだれ?」
シイナさんは、「殿下の婚約者候補の方々です。殿下も二十三歳になられましたから、そろそろ結婚をと言われているんです。何か言われましたか?」
私は、シルヴィー殿下が二十三歳、五歳も年下だという事に驚いた。
え、社会人一年生みたいなもん? あの落ち着きは三十五といっても頷ける。
「いいえ、あの……何も言われていません」
あんなのは唯の嫌がらせだ。気にしたら負けだ。ただ、気になったのが髪の毛の事。
「あの、この国の女性は皆髪の毛が長いですよね」
「あっ、ええ。あの……基本的に女性は髪を伸ばすように躾けられています」
言いづらそうにしているということは、先ほどいっていた娼婦どうのこうのは本当のことなのだろう。髪の毛が短い間は、私は男の格好をしているほうがいいようだ。
シルヴィー殿下ももしかしたら、そんな風に思っているのだろうか……。そう思うと落ち着かなかった。
無理、無理、娼婦とか技とか無理だし! ずっとグズッて眠っていたから、一緒の寝台で寝てたけど、もしかして、そういうのを期待されているのではないかと思ったら、居た堪れなくなって、夕方視察から戻った殿下に「私は娼婦じゃないので一緒に眠れません」と伝えた。
酷く怒った顔をしていたから、やっぱり期待していたのだと気付いて、密かにショックを受けた。シルヴィー殿下は侍女に耳打ちして、それまで優しいだけだったのに「チッ!」と舌打ちをした。そして部屋を出て行った。
次の日も庭を散策したけれど、お姫様たちに会うことはなくてホッとした。
そして、明日は視察を終えて王宮に帰るという日に、私はシルヴィー殿下にお願いをした。
「私、リオの側にいたいんです。お願いします、馬の世話係りに雇ってください。髪の毛短いから男の格好で働きたいんです!」
リオはもう既に馴染んでいたけど、私が知っている人といえば、シルヴィー殿下とシイナさんしかいないのだ。他の人は顔は知っていても喋ってはいけないといわれている。この前娼婦と間違われた髪のせいかもしれないけれど……。
シルヴィー殿下は、呆気にとられた顔で私を見た後、しばらく逡巡し、頷いてくれた。
「お前は私のものだから、勝手にいなくなることのないように」
二十三歳の癖に偉そうだ……。まぁ、このときにはもう既に十八歳ってことにしていたけどね。永遠の十八歳。そういったら、バレるだろうか。
まぁその時は、その時だ。気にしてはいけない。
王宮では、シイナさんが同室になってくれた。知識のない私を心配してくれてのことだけど、男の格好しているからシイナさんまずいんじゃといったら、弟ということにしたという。シイナさん、金髪なのに……。
そうして、私は馬の世話係として今日も精をだして働いている。
一話、テンション高すぎたような気がしますね、ちょっと明日時間あれば修正を掛けたいと思います。うん、結構好きな感じになってきたので、嬉しいです。どこまでコメディがいいのか甘いのがいいのか、ギリギリ危険なまでいっちゃっていいのか、馬出したら話が馬で終わっちゃうとか色々ありますが、とりあえず頑張ります。『午後10』の息抜きにちょうどいいかも。