1-7 <実践。だがそれは前編>
プロローグラスト前編です。
「ん?」
たまたま間違えてアイルにワープしてしまった少女はもう一度ガウルに戻ろうとしていたときにふと小奇麗な格好をした初心者を見かけた。
「………大鳳の卵。しかもあれユニークじゃないっ!!」
何かが彼女の癪にさわった。自分だって明日のオーディションのためにレアそうな装備を作っていたのだが、素材である覇王竜の素材が足りずしぶしぶワンランク下のエピック装備で断念したのだ。それを低レベルが二人、しかも二着も………。こればかりはフツフツと何か心の奥底で煮えたぎるものを感じずにはいられなかった。
そこで彼女は思い出した。そういえば倉庫に面白いものがあると―――。
* * *
「さて、それでは実践です」
「待ってましたぁ~~!!」
パチパチと拍手するラファを一瞥するなりアリスは一つ頷いた。小休憩を挟んでスキルと魔法で消費したMP回復ができたようだ。スキルレベルを見るとMP自然回復も経験値として蓄積されレベル三になっていた。順調順調と口ずさみ、この調子なら今日中に十くらいにはいくだろうとアリスは次のステップに進むことにする。
「んじゃまずは低級モンスターの『ドラゴンスライム』いってみようか」
いちおうこのゲームは竜を狩り尽くすという名目のゲームだ。だから出てくる敵モンスターは対外ドラゴンの名前を称している。中にはこれって恐竜でしょぉ!!と突っ込みたくなるものもいるが、竜なんだから仕方ないと言うしかなかった。
話は戻って目の前のドラゴンスライムについてだ。この名前を見ればどこぞのコンビニで肉まんになった某ゲームのマスコットキャラクターを思い浮かべるだろうが、このゲームだと逆だと言っておこう。『ドラゴンの形をしたスライム』なのだ。
寒天のようなゼリー状のドラゴン。翼を生やし、頭に角二つ、四足歩行。しかしラファとアリスの膝くらいまでしかない大きさなのでそれほど脅威に感じなかったラファは少し近づいた。
「これ………斬れるの?」
「ついでに攻撃すると攻撃し返してくるから」
「あ―――」
ラファという少女は人の話を聞かないと通信簿に書いてあったのだろう。そう納得しながら襲われているラファを見ながら浸るアリスであった。
「ちょ、火噴いた!!あつぅ!!アリスどうしたらいいのぉ――――っ!!」
「ちゃんと人の話聞こうよ………とりあえずは前しか攻撃してこないから横に逃げて」
今度は人の話を聞いていたラファはすぐさま敵の横に逃げると、間隔をあけてラファのところに振り向いた。
「こ、こっち向いたぁ!!」
「知ってる。けどわかったでしょ?横に逃げると約二秒間隙ができるからそこに双剣スキルのダブルを当てる」
なるほど。と呟いてアリスはもう一度横に逃げるなり、何十とやってみせた双剣初級スキル『ダブル』がライトエフェクトを発しながら発動する。
「まだ死なないよ!!硬直とけたらすぐさま逃げる!!そしてスキル、―――よし」
「むぅ………あたしばっかずるくない?アリスも狩りしてみてよ!!」
「いいけど………つまんないよ?」
「あたしも慌てふためく姿見て楽しむんだもん!!」
いちおう忠告したからね。と念を押して魔方陣を空に描く。このキャラは後衛であり、魔法使いだ。だからやることといったら―――。
受け皿である三角に右から左へとVの字を描き、対象を奥にいるモンスターに向ける。アリスの指先から氷の礫がモンスター目掛けて空を切って命中する。するとゼリー状だったドラゴンスライムが本当に固まった寒天のように凍りついた。―――相変わらずの狂った強運ですわね。とストーキングしてたクオリアが漏らす。―――そうとは知らずにアリスは予定通りと右手で三角を描き、左から右へとVの字を描いてまた狙い、それと同時に左手でもさっきと同じように右から左へとVの字を描いた。炎の弾命中と同時に礫がまた命中で凍結………以下ループであった。
「つまんない」
「だから言ったのに………」
アリス自身もこの狩りかたはつまらないとわかってるのでさらにモヤモヤした。
「最初はこんな感じだけど奥にいけばもうちょっと歯ごたえあるのいるから」
「んじゃ奥行ってみよ。せっかくパーティー組んでるのに二人で狩れるようなのがいいなぁ~~」
「………それもそうだね。もうちょっと奥行ってみようか」
にやりとラファは笑い、二人は奥にいる少しレベルの高いモンスターを相手することにしたのであった。
* * *
「こっちきたきた………」
物陰から二人を覗く人がいた。その人はアイテム欄から取り出した一本のお札を出した。
『封印されたお札』というアイテムだ。
それはやぶくことによってその場にモンスターを召還するアイテムだ。低確率でボスクラスのモンスターも出るのでよくお祭りという名のテロ行為で大量にやぶく者がいるのだ。彼女はそれをしようとしているようだ。
少女は手持ちの数を確認すると約十枚。そんな数では中層クラスの奴が出てくるのが関の山だと思ったが、様子を見た限りあの二人はどう見ても低レベル、中層クラスのモンスターが出ても倒せない。そう思い立った彼女は即座にそのお札を破くのであった。
「え、え。えええええええ――――っ!?」
ちょ、ちょっとこれやばいって………まさか一枚目ですごいの引くなんて………慌てて少女は逃げ出した。「無理無理!!あんなの倒せないって!!」と言いながらアイルの村へと逃げるのだが、その行為自体モブを引き連れて途中に出会ったプレイヤーキャラクターに攻撃させる『トレイン』という行為になんら変わりない行動だったのであった。
* * *
「無理無理――――っ!!」
「ん?」
こちらに向かってくる女の子がいた。またその少女の着ている服がアリスとラファの格好に類似していて、彼女もオーディションの参加者かな?と想像していると、少女の後ろから大変珍しいモブを引き連れていることに気がついた。
「やば。あれって結界竜じゃんっ!!!!」
「けっかいりゅう?」
「そ。正式名称はアンチエレメントドラゴン。魔法、スキル全般効かないモブ!!」
「なにその強敵」
「前に一回イベントで出たんだけど。あまりの強さに実装が後回しになったんだよ。なんであれが………」
「倒す!?」
「だから無理だって!!カンストキャラのレイドパーティー(十八人)でも倒せなかったんだから!!レベル一の僕らじゃ太刀打ちできない!!」
「んじゃ………」
「逃げる――――っ!!」
「あ、早っ!?待ってよ―――っ!!」
Agiの差で走る速さが全然違うことに気がついたアリスはラファの手を掴んで走るのであった。これだったら抱えた方がよかったかもと、ドンドンと結界竜との距離が縮まる。
そこでアリスは結界竜から逃げている少女に話かけた。
「そこの逃げてる人!!」
「あたし!?あたしは………そう、ただの通りすがりの………」
なぜか知らず、少女は慌てふためいた。まさか自分達をけしかけるためにお札を使ったら最強がでてきたなんて言えるわけがなかった。
そんなこともお構いなしにアリスはラファの手を引きながら少女に質問した。
「レベルいくつ?スキル構成は?」
「はぁ!?なんで低レベルにそんなこと―――」
「いいから!!デスペナ食らいたいの!?」
デスペナという単語にぐうの音も出なかった。少女のレベルはカンストの九十九レベルだった。デスペナ―――デスペナルティはレベルに応じた時間過大なステータスダウンがついてしまう他に、自身の装備の耐久度が大幅に減少してしまう。上位層である彼女にとってこれだけは絶対に避けたいペナルティだ。彼女はしばらく考えて、何か打開策でもあるようなアリスの目を見て諦めるように言い放った。
「―――カンストの鎌と闇!!」
いい放つとアリスはラファの腕を引っ張り、走りながら持ち上げ物のように彼女に渡した。
「わかった。彼女をお願い!!」
「はぁ!?あんた一人だけ逃げる気なのね!!」
「このままじゃキャラチェンできないでしょうが!!」
モンスターが沸いているフィールドではキャラクター選択画面に戻るために十秒間何も食らわないでいる必要がある。だからこの走っている少女はログアウトできないで走っているのだ。「戻ってきたらログアウトしていいから!!」それでシブシブ了承した少女はラファを持ち直し、鎌を振ってヘイトを取った。
「必ず戻ってくるんだよおおおおお――――」
「言われなくても―――」
正直なところアリスとラファが死んだところでレベル一のデスペナなんてたかがしれていたが、狩りをしにきてるのに狩れないという状況はよろしくない。そのためにも準備していたユキを起動させずにはいられないだろうとキャラクター選択画面へと飛んだ。
いつ見てもかわいい我が分身であるアリスを左にスライドするなり、この一年間わが身としてもう見慣れたイケメンアバター。ユキが視界を占領する。
『このキャラクターでプレイしますか? Yes/No』
そしてその下にあるYesのボタンを押してから気がついた。
―――あれ?これだとアリス(♀)=ユキ(♂)だってばれるんじゃね?
* * *
「あんな子信じて引っ張ってみたけど………たとえカンストキャラできてもこれ相手は無理でしょ―――!!絶対逃げた―――!!」
ラファを抱えながら少女はいまだに結界竜から逃げていた。こんなことならさっさと二人にタゲ移させてログアウトすればよかったと後悔するのであった。
「大丈夫だよ。アリスは強いもん」
「はぁ?さっき彼女が説明してたの聞いてた?スキル効かないのぉ!!レイドパーティーでも倒せないのぉ!!」
「でも―――アリスならできるよ!!だってアリスは―――」
装備欄から『氷覇王竜・逆震』を外し『覇王竜・森羅』に変える。目標は二人を追いかける結界竜。彼は駆け出した。
「あたしの王子様だもん!!」
一瞬で追いつき、サイドから両手で振り抜いた大剣を結界竜にぶつけタゲを奪った。
「助太刀する。早く逃げろ」
その発言はあたかも通りすがりです。と言わんばかりの態度でユキは吐き捨てたのであった。
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