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チートな俺と歌姫な俺と  作者: 真幸
◆◇ 第二章 -幸運と不幸- ◇◆
54/54

3-22 <変わりたい日常。だがそれは消える日常>


 あの集団PK化事件、通称レッド祭りが終わった直後の話。

 PKをしたプレイヤーは名前が緑から赤に変わり、街入口に存在する最強の衛兵により侵入を妨害される。つまり言えばPKをした赤ネームは街に入れないわけだ。

 およそ一〇〇名ほどの赤ネーム集団はガウルの港前で右往左往していた。

 あと一歩踏み込んだら衛兵が構える大剣で一撃だろう。

 誰もがオドオドと身震いする中、一人の命知らずがこう発言したのが発端だった。


「この人数なら衛兵にも勝てるんじゃね?」


 それがきっかけにおよそ一〇〇名ほどの赤ネームによる衛兵強襲作戦(祭り)が開催された。

 まさかものの数分で赤ネーム集団が半壊し、たった一人の【最強】だけが一時間以上戦い続けることとなるとは、それはまた別の話。




 * * *




 あの集団PK化事件、通称レッド祭りから数日後の話。

 俺はガウルの港にあるシュウの店でソファーに身を委ねていた。

 フカフカなソファーは俺をダメにし、飲み込む。助けて、気持ちよすぎて出られない。


「ふぅ……やっぱりここが落ち着くね」


 さすがに超が四つくらいつくレア素材を使ってるだけあって、格別なソファーである。

 そこに、一人の人物がゴマをすりながらやってきた。

 無視だ、無視しよう。

 アレ(・・)があんな顔するのは良からぬ事を考えている顔だ。


「あ、ユキさん。いらっしゃってたんですね」

「……」

「なんだか今日は体調が優れないようですね? どうかされましたか?」


 この言葉使いを聞いて、いったい誰がシュウ(・・・)だと思うだろうか。

 ていうかキャラ崩壊してて幼馴染である俺ですらドン退きだ。


「ささ、ユキさん。今日も対戦相手の方が見えておられます」

「もぉ! なんで俺が毎日毎日そんなことしなきゃならないんだよぉ!!!」

「だってニブルとの試合は、お前の気まぐれなんだろ? ニブルと戦いたいとか思ってたんじゃないんだろ?」


 毎回毎回この男は……っ!!


「お、思ってないし! べ、別になんとも思ってないし! ただの気まぐれだし!」


 そうだ。俺はべ、別にニブルを俺よりも各上の魔法剣士と認めているわけではない!!

 確かにあいつから学べるとこがたくさんあるなと思う所はある。それにちょっと、ほんのちょっとだけ(Str)型の使用体感とか聞きたいと思ってたり思っていなかったり?

 別に今回のことで友達になれたらとか、考えてもないんだよ?


「なら気まぐれで、試合してもいいだろ? それともやっぱりニブルを敵として尊敬してたってことなのか?」

「違うし! わかったよ、やってやるさ。もぉ……どこ行けばゆっくりできるのかなぁ……」

「へへへ……こちらでございやす」


 レッド祭り(あれ)からやたらと試合を申し込まれるようになった。

 ぶっちゃけ、このゲームは対人(PVP)よりも対モンスター(PVE)に重きを置くゲームだから、こんな事が上手くなっても誇れない。

 野良で一〇〇人倒すよりも、最難関のクエストをソロでタイムを競う方が重要なのだ。


 そもそも、こんなことになった原因は


「対戦する前に一つ問うぞ、【ブリューナク】。本当に、お前はあのアスキラ(・・・・)に勝った(・・・・)のか?」

「……」


 そう、これだ。原因だ。

 あの戦いは観客がいないものだった。そのため結果を知るモノは当人達しかいない。


「なるほど。言葉でなく剣で語れと言うのだな」

「……ん?」

「では参ろう! いざ尋常に!」


 それを面白がるアスキラさんもアスキラさんで「どちらが勝ったかだって? そんなもの【ブリューナク】と戦えばわかるさ」なんて言うものだから、俺と試合をしたがる人が後を絶たない。


 さすがにあの剣を使えるのであれば負けはしない。

 倒れる彼に手を貸し、起き上がるなり納得した。


「なるほど、確かに強い」

「そりゃどーも」

「アスキラに勝てたのも納得だ」

「ん?」

「もう一戦頼めるか?」

「え?」

「おい、ユキ。次は負けろよ、賭けにならねーだろうが」

「親友をダシにしていうセリフかな、それ?!」


 もうアスキラさんも人が悪いよ。

 俺は負けたのにさ。




 * * *





「こんにちはユキさん。あ、今は【ブリューナク】さんとでも呼ぶべきでしょうか?」


 再度、お気に入りのソファーに全身を沈め今を愁いていると、見知った顔がこちらを覗いていた。

 なんか近所で犬の遠吠えとカラスの声が聞こえた気がする。


「ク~リン……。【ブリューナク】(それ)やめてよ……」

「あはは……大変そうでなによりです」


 ぶっちゃけ、条件が一緒なら俺よりもクーリンのが強いと思う。わりとまじで。


 そういえば最近ちょくちょく顔を見せにくるクーリンだ。

 なんかすごくウキウキ顔で来るんだけど、シュウの前に立つとガチガチに固まるんだよな。


「よぉクーリン。遅かったじゃねーか」

「ど、どうもです。シュウさん」

「あんまり虐めるなよ、シュウ」

「なにがあ、なにがあ?」

「ん? シュウが新しいおもちゃをもらってご満悦の様子だ」


 ラファの声が聞こえたもので、俺はソファーから立ち上がった。

 さて、さっさとここから逃げないと、また挑戦者が現れるかもしれない。


「あれ、ユキどこ行くの?」

「ん~。ちょっと外の空気でも吸いに?」

「ならあたしも行くぅ~~!」


 外へ出ると、休日の昼間だけあってガウルの港は相変わらずの騒がしさだ。

 裏路地から表通りへと出ると人が洪水のように流れている。

 息がつまるほどの人ごみに眉を寄せ、後ろを振り返ると変わらぬ顔でニンマリと笑うラファの姿が見えた。


「じゃあ、あたしあそこ行ってみたい。なんだっけ? シアン?」

「何その水色。えっと、リアンかな? 一緒に行く?」

「わあい! ユッキとデート! ユッキとデート!」

「はいはい」


 先導を歩く俺。

 ラファがちゃんと付いてきているか確認する度、心配させまいと微笑みを返すラファ。

 歩きづらそうにする姿に痺れを切らした俺はラファに近づき、手を握った。


 すごく冷たくて、すごく小さくて、柔らかかい手。


 今まで触れたことのないもの。女の子の手だと思うと体全体に電流が走った。

 空いた手で頬に触れる。

 絶対顔が赤くなっているだろうな。


「えっと……はぐれたらまずいからね。そ、それだけだから」

「……」

「ラファ?」

「ふふ……」

「ら、ラファ?」


 あれ。なんか急に静かになって。

 とりあえずそのまま手を繋いで行くこととした。


「……変わったね。ユキ」


 ポツリと後ろから言葉が聞こえた。

 それは俺に投げかけるものではなく、どこか独り言のような言葉だった。


 変わった、か。


「そう見える? ラファ」


 彼女を見据えた。

 寂しそうな表情と、何か不満のようなものを感じ取れた。


「俺らしく、ないかな?」

「そう、だね。ユキはもっと……」

「からかい甲斐があった?」

「そうだね。そっちのユキの方が可愛かったかも」


 微笑が聞こえるも、暗い笑顔。

 そうか。そうだよな。


「今回のことで色々あってさ、ラファにも色々聞きたいことがあって、そのついでで言おうとしてただけど、先に言うよ。俺、もう少し自分を出して行きたいと思ってる。友達の前くらい、さ」

「……友達?」

「俺、もっとみんなと仲良くなりたい。もちろんラファとも」


 ふと、ミャーミャー鳴くウミネコの姿を見つけ、空を仰いだ。

 データ上の、何度も流れる風景の彼らだが、そのときだけは何か束縛されない自然な姿に見えた。

 空は青く、雲は白く。

 はっきりとした色がそこにあり、無色透明な俺には透けるようで怖かった。

 

「俺は何色なのか、俺はなんなのか知りたい。そういうの、一緒に探したいんだ」

「自分がなんなのか……」


 ポツリと言葉を零すなり無言が続く。

 あれ? 滑った? 台詞がくさかったかな。 

 もしかしたら友達と思ってたのは俺だけで実際は……。


 迷走していく思考。

 このまま顔真っ赤にしてログアウト(落ちる)か、一人で逃げるかの選択を迫られていたときだ。


「あらぁ? ユキ様とラファさん?」

「クオリアと。テルプ? 久しぶり、予選以来。いや、この前の祭りぶり? というかすごい組み合わせだね」

「そ、そう(りゃ)ねぇ……」


 思いっきり噛んむテルプ。顔真っ赤にして目線を合わせようとしない。

 面白いものを見つけたばかりにニンマリ顔のクオリアに寒気に近いものを感じる。


「それよりも、どうなされたんですか? 手を繋がれてるようですけど」

「ち、ちがう! これは……」


 俺はラファと繋いだ手を放そうとする。

 ふっと右手から温もりが消えようとしたところでギュッと握りしめられた。

 そのまま俺の腕を絡め、む、胸が……ラファさん?


「クオリアには関係ないでしょ! べぇー!」


 ちょ、ラファさん!


「へぇー。ユキ様はすごい困ってるみたいですけどぉ~?」

「そこは空気を読むでしょ。ユキも!」

「そそそそ、そうよラファ! は、はにゃ、離れなさい!」

「そんな興奮して喋らないでよ。何を言ってるかわかんないよ」

「お、おいラファ……」


 やたらと油を注ぐな、今日のラファは。

 それよりも、さすがに大通りなもので人の目線がやばい。

 さっきから「【ブリューナク】」って単語がめっちゃ聞こえる。

 あれ? これはまさか、本来の目的が阻害される?


「おい! 【ブリューナク】! 俺と勝負――」


 はい、きたよ。

 なんか見知ったギルドのエンブレム、【SEED】のエンブレムが見えたけど俺は逃げるぞ!

 ここで戦闘なんてはじめたらアスキラさんみたいに一〇〇人斬りさせられるに決まってる。

 だって、みんな祭りが大好きだからな!! それは前回の衛兵突撃で思い知ったもの!


「みんな! ごめん」

「きゃ」


 ラファを両腕で持ちあげ飛んで逃げる。

 軒を連ねる屋根に着地し、そのまま走った。

 後ろを振り返ると、付いてくるクオリア達の姿が見えて呪いたくなった。あいつ絶対面白がって付いてきてるだけだ。合流した際には笑顔で遠回しに俺をなじる。俺が困ってるのを見るのが死ぬほど好きな奴だからクオリアって奴は。


「ユ、ユキ?」


 腕の中で縮こまるラファが言葉を零す。


「ご、ごめんラファ。手荒な真似するけど、今撒くから――さっ!!」


 なんかクオリアと俺に釣られて名の知れた猛者すらも追いかけてきている。

 ちょっと、ここに住んでいる人達、お祭り好き過ぎじゃないかな?


 まぁいい。追いかけてこいよ。

 こいつら全部を撒けば俺の勝ちってことだからなっ!!




 * * *




 盛大な鬼ごっこ二時間を繰り広げ、最終的にはどこからか現れた【最強】と【絶炎】に勝負を挑まれかけた。がなんとか撒けた。


「【ブリューナク】! 次は挑ませてもらうぞ!」

「アリス殿ぉおおおおおお――どこでござるかぁ――――――っ!!!!」


 あぁ、うるさいうるさい。

 黙ってINしないアリスを待ってろよ。


「あの人達、なんだったの?」

「俺が聞きたいかなぁ……」


 なんとか撒けた。

 路地裏の赤レンガに挟まれ、肩を上下する俺に苦笑するラファの姿。

 アスキラさんがきたとき、これは助かった? と思ったらまさか勝負を挑んでくるとは思いもしなかった。


「ていうかなんで逃げたの?」

「えっと……なんでだっけ?」

「……」

「……」

「「っぷ、ははは………」」

「本当に変わりたいの? ユキ」

「努力はしてるよ」

「でも、それを望んでない人もいるよ。それでも、あなたは変わりたいの? ユキ」


 目だけが笑っていない顔をするラファ。

 今ならわかる。これは、この彼女は、変わりたくないんだ。

 彼女は俺と自分を照らし合わせているんだ。


 一度決めたこと、決意させた過去を忘れ、真新しい自分を作り出すことを否定しているのだ。

 彼女の過去はわからないが、決めた決意は理解している。復讐だと。


「あぁ俺は変わりたい。俺はさぁラファ。

 歌手になりたいんだけど、致命的な欠点があるんだよ。

 俺は自分の歌が聞けないんだ。自分の声がコンプレクスで聞こえる声が俺の声だって、思うと気持ち悪いんだ。

 良くある自分の声(・・・・)じゃない(・・・・)と思えばいい。だけど分かるんだ、俺の声が女のそれだって、聞こえるんだ。それが堪らなくキモチ悪いんだ……」

「なら、そう思うようになった原因があると思うの。

 それを、あなたは、消したいと、思わないの?」

「えっと、考えもしなかったかな。

 そうだよね、原因さえなくなれば……」

「ふふ。なにそれ」


 その考えはなかった。

 あのとき俺を貶めた奴をなんとかしたら、今の俺が抱えているものが消えるのか?

 いや、答えはわかってる。


「それでも、俺のトラウマやコンプレクスは消えるとは思えない」

「そうだね。あたしのそれとユキのそれは違う。

 あたしは神城を殺したい。ユキは歌いたい。

 だから、ごめんね」


 つまるところ、ラファは俺が変わることに協力できないってこと、なのかな?

 何か誤解のようなものが生まれているような気がする。


「そうだユキ。あたし、ユキの歌が聞きたい」

「俺の、歌?」

「うん。あたし、ユキの歌好きだよ。なんか、懐かしくて」

「そう言われると気恥ずかしいものがあるけど。うん、いいよ」


 えっとどれを歌おうか。

 誰でも知ってる曲が一番だろう。

 そうだな。だったらちょうどいい歌がある。

 俺の因縁でもある曲。


 もーにんぐ・すまいりーの曲を。




 思いっきり息を吸い込む。お腹を膨らんでいることを理解し、吐きだす。

 ガウルの港の海側に来てしまったのか、磯の香りが強くツンと鼻を刺す。


 よし。

 探したメロディーを紡ぎ、正しい音を繋ぐ。

 声のチューニングを確認したあと、声が歌になる。

 喉、口上が震えるのが心地いい。

 目の前にある赤レンガが楽譜に見え、横線を手でなぞる。ざらざらとした手触りがリズミカルで面白かった。

 

 こちらを見つめるラファの目線がするどく、少し怖かった。

 ギュッと握りしめた手と唇が震えていた。

 逃げ出したいのか? 俺の声が、いや俺の選曲が悪かったのか?


「終わ、るの?」

「ごめん。この曲はダメだったね」

「いや、歌ってユキ」


 辛そうなのに?

 彼女の復讐に共通あるのだろうか。


「わかった」


 歌い終えるまで、彼女は震えていた。

 終わりに近づくにつれ、彼女は耐えていた。奥歯を軋ませ眉間を歪ませていた。


 止めるも「止めないで!」と言われて止められずにある。

 なにこの状況。

 俺の因縁のある曲、これはラファにもあるのか?




 歌い終わるも、拍手もなく無言。

 すごく居たたまれない。


「えっと、あの……ラファ?」

「っ――」


 泣いてるのか?

 あの強い子が、いつも元気な姿を見せる彼女が泣いている。

 訳が分からなくて俺自身ぐちゃぐちゃしていた。


「えっとね。ありがとうユキ。聞かせてくれて」

「いや、俺は別に……」

「そして、ごめんね。辛かったよね」

「ラファ……?」

「ごめんねあたし、あたしね」


 何か言いたげなラファ。

 言葉を濁し、少しまで出かかっていたがラファは。


「ごめんね、ユキ」





 そういってラファは俺達の前から消えた。





 終わりです。


 すいません。綺麗に終わらせるつもりが、設定した〆切が近づくにつれ話が思いつかなくて、また更新ストップするくらいならプロットまんま使ってしまおうと思いました。申し訳ありません。


 大丈夫です。歌姫かどうかはわかりませんが、ユキちゃんなら歌手になれます。

 それがどんな道のりだとしても。


 こんなにも長い間待たせといて、こんな終わり方して本当に申し訳ないと思っています。

 ですが中途半端にしておくよりも、区切りをつけて終わらせたかったので書きました。

 重ね重ね申し訳ありませんが、お待たせして申し訳ありませんでした。


 正直この4話書いてて辛かったです。

 書かなかった時期に色々な作品にふれ、自分の力不足を理解し、今こうやって書いて「なんじゃこれ。くそつまんねーぞこれ」と打ちのめされ、自分のレベルの低さが気持ち悪くて書いてて辛かったです。

 どこぞの冴えないなんちゃらの紅坂○音の言葉を借りるならば、目が肥えた、頭が肥えたという奴なのでしょうか。


 とりあえずこの二週間でこの4話書きましたが、辛かった。(完全に〆切やぶってましたが、あと大学の課題をぶっちする理由としてやってたのもある)


 やっぱりノープランで書くとこうなるよねっていうのが露見。

 ですがそういった反省は次回作に生かして行きたいと思っています。


 とりあえず、ノート1冊分の設定考えてから新作投稿します。


 今までありがとうございました。

 真幸でした。


 またどこかで!

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