3-9 <アイギス。だがそれは面倒>
【全ての魔を跳ね返す盾】の"えるにーにょ"初登場。
「お、お待たせしま―――」
慌てて店に出ると、目の前に少女の顔があった。
驚きのあまり後退り、停止した思考はまともな考えを浮かべず。ようやくそれが起動した頃には、丸くしていた目も眉をひそめ、その少女を見つめた。
今にもカウンターを乗り越え、そのまま奥に行きたそうに乗り出している。
システム的に、アクセス権限を持たない者には見えない壁に阻まれ、こちら側に来れない用になっている。
乗り出そうとしてもすぐカウンターから降ろされる。まるで届きそうで届かない所へ、手を届かせようとピョンピョンと跳ねている風に見えた。
―――"あぁ。妹の小さい頃を思い出す"。
一難去ってまた一難。
君子危うきに近寄らず、といきたいところだが……客は神様だ。
「ん~~……あっ!?あ、あのーっ!!今ここにクーちゃ――クオリアちゃん来てましたよね!?」
なんだよその『もうちょっとで向こうに行けそうなんだけどなぁ………。あ、なんか人がいた。ちょっと聞いてみよう』的なノリは。
「はぁ……そうだけど。君は?」
「申し遅れました。ギルド『SEED』所属、"えるにーにょ"と申します」
その場で敬礼した少女、"えるにーにょ"。
シュウの茶髪よりも明るい、ライトブラウンの髪に、前髪を二つに分けたショートボブ。首から下は女性用の重量装備で固めている。
女性用の重量装備は男性用のバケツを被ったガチガチの金属鎧のようなものではなく、布地のドレスに要所要所を守る金属を、その上に着込んだものになっている。彼女のそれはお姫様ドレスタイプで、全体的に青と白、覆う金属もまた蒼白の鉱石、オリハルコンを使用していた。
この手の装備は作ったことも見たこともないが、けだし現状最高装備だろう。
さらには背負った現状最高性能の盾―――。
「なるほど。君があの【全ての魔を跳ね返す盾】か……」
『絶対魔法反射』のえるにーにょ、SEEDのアイギス、アスキラの戦艦、など言われている有名なプレイヤーだ。
盾持ちの接近タイプなのに、魔法を反射するという反則級のスキルを持つ。
またそのスキルもクオリアの『魔道士の心得』と同じ、入手条件が明らかになっていないスキル、"ユニークスキル"。
クオリアと対をなす存在であり、クオリア本人も苦手意識を抱いているとか抱いてないとか。
しかし本物を見るのは初めてだったが……なんとも『間抜けそうな娘』。それがシュウが抱いた彼女の印象だった。
「クーちゃんに会わせてくださいっ!?」
そもそも、なぜ彼女はクオリアに会いたがっているんだ?
クオリア本人、【アイギス】を拒絶している。だから彼女もまた、【魔道姫】に犬猿の関係を持っているものだと思っていた。
違うのか?
「えっと……合わせるのは別に構わないんだけど。あいつ来るなりすぐ用事あるとかで落ちちゃったから……なんか要件あるなら伝えとくけど?」
「いいえ。そんな大したことじゃないので………」
一瞬にしてえるにーにょは項垂れた。
もしかしてコイツ。
「もしかして――クオリアと友達になりたいのか?」
「ど、どうしてわかったんですかぁっ!?もしかしてSですかっ!!」
「いや……なんとなく。って、なんでSかMになるんだよっ!!」
「なら教えてあげましょう。なぜあたしがクーちゃんと友達になりたいかを!!」
「いや、言ってないし。別に聞きたくもないし」
「えぇ~~……なんでですかぁ~~?やっぱりSなんですね」
「本当は聞いて欲しいだけなんだろ?ついでにSとか関係ねーよっ!!」
「関係ありますよぉっ!!ほら、あなたの名前の頭文字!」
「帰れ」
営業妨害対策、『来店拒否リスト』に"えるにーにょ"の名前を入力した。これに名前を記入されたプレイヤーは瞬時に店の外へ追い出され、二度と店に入れなくなるというもの。
これだから女って奴は――ん?
視界に『えるにーにょ』という名前が浮かんだ。念話だ。
うるさい。とばかりに念話受け取りを拒否すると、しつこく視界にポップする。
何度かこのやり取りを繰り返していく内に心が折れた。
「………はい」
『ど………どう゛じでね゛ん゛あ゛ぎう゛んでう゛がっ!!』
「………は?」
『どうじで念話切うんですか………』
「もしかて………マジ泣きしてる?」
鼻水をすする音が聞こえる。
ちょ、ちょっと待て。『来店拒否リスト』に追加すると、店の外へ追い出すんだよな……。
シュウは慌てて店の外へと飛び出す。
そこには大観衆に囲まれ、えぐえぐと泣いている少女の姿があった。
シュウが現れたと同時に、周囲はざわつき始めた。
――嫌な予感がしてならない。
シュウの背筋に冷たいものが流れる。
「依頼したら追い出されたらしいよ―――」
「忙しいからって『来店拒否リスト』に突っ込んだだって………」
「うわ……こわ。何?ここってそんなに“変態”なの?」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
シュウは慌ててメニュー画面を動かし、すぐさま えるにーにょを店に連れ戻した。
外では「泣いてる幼女を連れ込んだ」とか、「変態だ!!本当に変態だ!!」とか。俺のイメージがどんどん悪い方向へ進んでいく。
悪いのは俺じゃないのに……。
「ふ、フフ………げいざん通り………」
「計算通りって言いたいんだろうけど。マジ泣きしてる時点で、計算も糞もないからなっ!!―――ほら、鼻かめ………」
「―――っ!?隙あり」
「あまい」
ティッシュでこいつの鼻をかませようとしたが、男の急所へと蹴りが飛ぶ。
ふふふ………あまいな【アイギス】。この手の攻撃は兄妹喧嘩で慣れているんでね。
「む………兄以外にこれを避けられるなんて―――はっ!?もしかして。兄さん!?」
「いや、俺の妹はドがつくほどのアナログ人間だから違う」
アナログというか機械音痴だからな………未だに携帯端末使いこなせてないからな。このご時世にメールはおろか、電話すらまともにできない。
未だに手紙っていう物を使ってる女子高生はあいつくらいだ。
「あなたはSです。シュウの頭文字だけ―――」
「お前、少し黙れぇ………」
「ン~~……」
えるにーにょの鼻をつまみあげる。うちの馬鹿によくやる手だ。
妹も猪突猛進で、暴走するたびにこうやって止めてっけな、と懐かしんでいると。
「~~……っ!!」
両手で払えばいいものの。摘まみ上げる手に噛み付こうとしている。
「お前………ホントに妹そっくりだな」
「ううさーーーいっ!!!!はあせぇ――――っ!!」
「わかったわかった」
最後に思いっきり引っ張る。
えるにーにょは盛大に悶えた。
真っ赤に染まる鼻先に、両手で押さえ涙目を浮かべている。
『お前は赤鼻のトナカイかッ!!!!ハッハハ――ッ!!!!』
とツッコんでやりたかったが、流石に見ず知らずの女の子に追い討ちをかけづらかった。―――今更だけど。
「それで?お前何がしたいんだよ………」
「えっと。そうッ!!クオリアさんに―――」
「さっき落ちた」
「なら連絡―――」
「俺は連絡先なんて知らん」
「なら―――」
「ここで待つのもダメ。ここは俺の店。泣いたら―――"燃やす"」
最後の一言でビクっと反応を示す えるにーにょ。
よく妹に言い聞かせた脅し文句だったんだが………結構効くもんだな。
何を燃やすかって?そりゃ、妹の机の一番下の引き出しを外した先にある薄い……おっと。誰か来たようだ。
堪えたのか。えるにーにょは泣きべそ一歩手前の顔で項垂れていた。
「―――ったく。なら伝言くらいなら伝えといてやるから。それで機嫌直せ」
「………ホント?」
「あぁ。本当だ」
それで機嫌を直してくれたらしく。涙をぬぐい、えるにーにょはその幼い笑顔を輝かせた。
はぁ………めんどくせぇ。なんで俺の周りに来る女ってどうしてこうもめんどくさいのばっかりなんだ?女難の相とか出てんのかな?
女に恨まれまくった男の霊でもとりつかれてるんじゃないか?
今度お祓いでもしてもらうと、ため息をつくと同時。えるにーにょから手紙を受け取った。
「なにこれ?」
「これをクオリアさんに渡してください」
「そんなんでいいのか?ていうか手紙って………」
手紙なんてこのゲームに存在していたこと自体びっくりだ。
「はい。読ま―――」
「読まねぇよ!!」
「エ―――」
「Sじゃない」
「エ―――」
「Mでもないっ!!首傾げるながら聞くなっ!!」
「………」
「なんだよ」
「あ、そういえばここ。素材の買取とかしてます?精算してもらいたいんですけど?」
「急に話が変わったな………」
こんなハイテンションガールについて行ける俺が、我ながら凄いと思えた。
まぁ……なんか懐かしくて自分でも楽しんでるのもあるかな。アイツとは半年前から会ってないし。
目の前に表示されたトレード申請を受理されるなり、表示されたアイテムに目は丸くせずにはいられなかった。
そういえばこのアホの娘は、【最強】のギルド、SEEDのメンバーだったと思い出す。
出されたアイテムは今流行の、最高レベルの狩場『タフルの城』でのドロップ品だ。
それで作った装備は、なかなか高性能で。今一番市場で賑わっている品だ。
こんだけ大量に素材があれば装備一式は作れるだろう。
「ほら。おまけしてこれくらい」
「おぉ………こんなにいいんですか?本当にあの【変態】のシュウですか?偽物ですか?」
「おい。なんだ?今なんか変な言葉聞いたが?」
「い、いえいえ。なんでもないです………と、トレードお願いします」
無事に?取引を完了するなり、えるにーにょはそそくさと店を後にした。
しまった。フレンド登録するの忘れてた……。まぁ、いいか。色々とめんどくさかった割には最後は美味しい思いができた。
この素材で装備一式作ればいい値で売れる。
シュウはホクホク顔で店を後にし、仕事場に戻ると――。
「遅かったじゃない。あとお茶っぱきれたわよ?」
忘れてた。めんどくさいのがまだいた。
「って、おい!!カラじゃねーーーかっ!!!!」
あのバカ高い紅茶様が跡形もなくなくなっていた。
たった数分の間に―――。
「まあまあだったわよ。早く新しいの出してよ。同じのばっかで飽きたわ」
この女………。いったいあれがいくらしたと思ってんだ………。
今手に入れた素材で作る装備と同じ値段だぞ………。
っくっそぉ――――これだから女って奴はあ――――――――――――――っ!!!!
・補足・
***【シュウの妹】***
名前はアカネ。
高二のシュウとユキの一個下。今年高一になり、半年前から全寮制の女子高に通っている。
機械音痴であり、扱いやすいアナログをこよなく愛しているとか。
何故か実の兄であるシュウを呼び捨てにし、幼馴染であるユキを"お兄"と呼んでいる。
*****************
チョコチョコ出していたアイギスさんを、ようやく書く事ができました。
クオリア強すぎるということで急遽作ったキャラ。設定はあったんですが、いざ今回登場させ、あれ?性格考えてなかった………と少し迷走していた次第です。
本来ならもう少し先まで書いてから投稿しようと思ってたんですが、あまり時間が取れなかったというのもあって、今回はここまでです。申し訳ないです。
感想、評価等していただけたら幸いです。
不躾なお願いですが誤字脱字等ありましたら報告していただけたら嬉しいです。




