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チートな俺と歌姫な俺と  作者: 真幸
◆◇ 第二章 -幸運と不幸- ◇◆
36/54

3-4 <迷い。だがそれは小さな痛み>

 バトルは書いてて楽しいです。

 ツララを壊した手応えしかなかった。

 辺りを見渡すがアスキラの姿は見あたらない。ユキは二、三度キョロキョロと視線を動かす。


「移動先を制限させてそこから大技をぶつけるまではよかったが………相手が悪るかったな」


 後ろっ!?


 ユキが振り向くと同時―――自身の右腕から流血エフェクト。頭上に浮かぶ自分のHPを確認すると極小であるが削れている。

 物凄いスピードですれ違い。その間に攻撃がヒット―――した割りにはダメージが小さすぎる。どういうことだ?

 後ろから正面へ。アスキラが体勢を立て直しそのまま正面から来る。

 先ほどよりも速いっ!!


 だがまだ見える。

 振り下ろされた剣を下段から飛翔させ弾いて反撃。それでこちらもダメージを与えられると思考するのだが―――。


 剣を持つ右腕があがないっ!?

 行動が遅れ、無抵抗のまま肩口から斬られ一割ほどゲージが動いた。

 そのまますれ違い、またこちらに向かって走ってくる。それもさっきよりも加速して。


「出たっ!!アスキラさんの【種割れ】だっ!!!!」

「あれを出すなんて自由正義運命以来じゃないか!!!!」


 もうどうなってるのかわからない。

 分かることと言えば『右腕が動かない』、『アスキラの体が黒い』―――黒い?

 よく見るとさきほどまで赤い印象だった服装は一転して黒一色に変化していた。違う。あれは装備を変えたのだ。最初の装備も軽量だが、どちらかと言えば攻撃力をあげる装備だ。だが今のは完全に敏捷力、つまりは素早さを上げる装備に切り替わっている。


 ―――だが。それと右腕が動かない理由イコールにはならない。

 どうやら肩は動くようだ。ダメージの大きな正面に右肩を動かし、右腕全体で正面を守るように置く。正面からの攻撃を防ぐことができたが、次は他の箇所に攻撃が集中するようになった。

 両足も完全に動かない。右目も機能を停止し真っ暗だ。

 つまりは"攻撃された箇所の機能を停止する"攻撃のようだ。


 なるほど。

 装備で攻撃力を落とす代わりに、武器で相手の行動を制限する。

 となると、これは彼が持つ短刀のように刃が短い双剣。それのエンチャント効果だと予想する。


 徐々に加速していった結果。すでにアスキラの動きを捉えることはできず、ユキはサンドバッグのように攻撃を受け続けた。極小のダメージがガリガリとゲージを削り、既に彼のHPは五割を切っていた。

 この攻撃も長くは続かないと予想するも、攻撃の激しさは衰えを見せない。


 打開策は無いことは無い。だがリスキー過ぎてあまりやりたくはない。

 右腕で守り続けたことでユキの"左腕"だけは無傷で存在している。バレないよう左手を動かす。グー、パー。うん、問題ない。

 攻撃も早すぎるのもなんだが、"リズム"がある。その一定のリズムに合わせてカウンターで攻撃を与える。

 しかし自信がなかった。この一手で勝負が決まる。そう思うだけで思考が行動を拒否する。負けたくない自分とこのまま投げ出したい自分が入り混じり。どうすることもできずにただ立っている自分がいる。


 残りHPが三割を切った。

 どうせこのままやっても負け確定だ。俺はアスキラには勝てない。そう思うと少し重い心が軽くなった気がする。

 その油断にも似た心の隙に気づいたアスキラは、勝負をつけるためガードしていたユキの右腕を弾き飛ばしダメージが大きい正面を開ける。

 よろめきながらアスキラを目で追うと大きく旋回してるのがわかる。


 次の一撃で勝負がつく。仕掛けるならここしかない。

 右手で握った剣で左手を隠し、紋章を描く。大魔法系でもよかったが、避けられてしまった場合硬直して次の行動に移れない。ならば初級魔法で攻撃を当て、怯んだそこに剣を持ち替えてスキルを当てる。

 それしかない。とカウンターを準備する。


 ―――来るっ!!


 線になるアスキラを、音とリズムだけで判断する。どうせ負けるなら一矢報いろっ!!!!


 ―――だが外してしまったら?


 その一瞬の迷いが判断を鈍らせた。

 気づいた時には目の前に剣を振り下ろすアスキラの姿が、急いでその姿に初級氷魔法【氷の礫(アイスストーン)】を指定する。


「っ!?」


 躱したっ!?

 一瞬ではあるが驚いた表情をするアスキラ。皮一枚でそれを避け用意していたスキル、双剣初級二連【双撃(ダブル)】が走る。


「ぐ―――………」

「………」


 肩口から大きくバツ印の赤いエフェクトが走る。

 ユキは大きくその体を仰け反らせ、残りHPを空にさせた。


『ウオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!!!!!!!!!!』


 くそっ!!くそっ!!くそっ!!くそ――――――っ!!!!どうしてあの場面で怖気づく。怖気づいて行動が遅れるなんて―――。なんで俺はいつも大事な場面で………。

 既に戦意喪失してしまったユキは膝を地面につけ、ただただ歯を食いしばることしかできなかった。

 こんなダメな自分だから先に進めないんじゃないのか?お前は"知りたい"んじゃなかったのか―――?


 『You Lose』のウィンドウをかき消し、ユキは黙って立ち上がり急いでその場を後にした。


『これで四ヶ月連続百人斬りを達成――――――っ!!!!!!!!今回破れてしまった君も、挑みたかった君もまた来月挑戦を待っているっ!!!!!!!!』

『ウオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!!!!!!!!!!!』


 観戦者達はアスキラに歓声や達成の拍手を鳴らす中、一人の少女がその場を去っていくユキに向かって走った。


「―――ちょ、ちょっとっ!!待ちなさいよっ!!」

「………」

「もぉっ!!」


 少女はユキの正面に立つなりユキの頬を手で挟み、無理やりユキの視線を彼女にぶつけた。


「しっかりしろっ!!バカ―――ッ!!何放心してんのよっ!!」

「………」

「このバカ。【絶氷】の名が廃るわ―――」


 よく見るとそこにはいつぞやのパートナーであったテルプの姿があった。

 されるがままにユキは唇を尖らせ、首をかしげた。


「………?」

「ようやく気づいたってわけ?人がせっかく心配してあげてるっていうのに―――」


 ユキはテルプの両手を静かにどかし「ごめん。後にして………」と歩き出した。


「ちょっと!!おいこらああああああ―――っ!!!!」

「あ、あのっ!!テルプさんですよね?この間の『歌姫イベント』に出てた」

「お―――いっ!!!!テルプたんがいるぞっ!!!!」

「うおおおおおおおおおおおお―――っ!!生テルプたんペロペロっ!!」

「え、あ。こらぁっ!!待ちなさいってばっ!!つか、どけええええ―――っ!!!!」


 騒がしい後ろに見向きもせず、ユキはトボトボとその場を離れた。

 まだ手にした大剣を背にしまい、ユキは明るい広場に視線を向ける。そこには色々な人に囲まれるアスキラの姿があり、今の俺は―――。

 俺はああなりたいのか?それとも―――。


 すると群衆の隙間をかいくぐってアスキラと目があった。すぐさま視線を逸らすユキであったがアスキラは何か言葉を発し、こちらに向かってくる様子だった。同時に右手を肩まであげ、指先をそのまま右に振る。すると装備が一瞬にして切り替わり、忍装束のような黒い装備から最初に見せた赤い装備に切り替わった。


 ―――なるほど。


「【絶氷】」

「―――【換装】のスキルなんて珍しい物つけてるんですね」

「ん?………あぁこれか?なかなか便利だぞ。相手によってすぐ装備を変えれるからな。手動じゃ遅すぎる」


 アスキラさんらしいスキル構成だと微笑するなり視線を下に向ける。

 それを見るなりアスキラさんは一つため息を吐き、口を動かす。


「―――、一つだけ………いいか?」

「………なんですか?」

「"もっと自分を信じろ"」

「………」

「なぜそこまで迷う。宝の持ち腐れは本当にその宝を腐らせるぞ」


 トン。と軽くユキの胸を叩くなり、アスキラは「最後のはさすがに肝が冷えたぞ」と囁き、名前を呼ばれる広場へと戻っていった。


「………」


 "もっと自分を信じろ"………か。ボイトレのサクラ先生も同じ事言ってたような気がする。

 最後の最後に迷ってしまうのは昔からだ。あの祭りから俺は何かを躊躇するようになった。

 オーディションだってそうだ。リアルで受けれないからゲーム内なら―――。

 そんな考えではとてもじゃないが歌手になんて到底なれない。


「はぁ~~~………」


 吐き出す息は重く、苛立ちだけが頭に残る。

 もう一度ため息を吐き出してユキは暗い夜道を歩き、いつもの場所へと帰るのであった。


「………お前が【絶氷】のユキだな?」

「―――………ん?」


 突如として目の前に山のような大男が現れた。自分に似た氷属性特化型の装備に、腰には自称最強の"絶"付きが装備してる【炎帝のツルギ】と似た片手剣。レジェンド級氷属性片手剣【氷帝のツルギ】に携えている。

 それにしても大きい………。ユキの身長は一七〇くらいだが、目の前の男は頭一つ分くらい高い。


「俺の名はニブル。【絶氷】を賭けて俺とデュエルしろっ!!」


 ・補足・


***【種割れ】***

 Agi型のステータスに火力の底上げをする通常の装備から、対人特化であるAgiをあげる装備によって現状最高値までAgiをあげたアスキラの姿をギルド、SEEDの連中がそう呼んでいる。

 今のところ一対一の対人戦では同ギルドメンバーであり、リアルでも知人の『自由正義運命』にしか使ったことがない。

 いつもの狩り装備の装備が気に入っており、本当に勝てそうにない相手にしか使わない奥の手。本人曰く『赤くないとダメだろ。なんだよ黒って。青と白ならいつでも使う』と言っておりあまり使いたがらない。

 装備としては黒い忍装束で【Agiアップ】のエンチャントが全てに付いている。

 武器には【停止】というレアエンチャントが付いており、効果としては『対象の部位に攻撃した場合、十秒間の間機能を停止する。重ねがけ可』というもの。


***【換装】***

 アスキラ本人としては余ったスロットにネタとして付けていたつもりだったが、多彩な場面で装備を使い分けはじめると思いの外使いやすく気に入ってしまった。

 右左上下と四パターンに右腕を振ることによって装備を瞬時に切り替えることができる。

 上上下下左右左右とやってもポーズがないので何もでない。

**************


 アスキラに敗北してしまったユキは苛立つ中、スレにも出てきた【絶氷】の通り名を欲するニブルと出会う。果たしてユキの運命は………っ!!


 次回、チートな俺と歌姫な俺と 二章 第五話。【ヴァルカンの守護神】


 さて………今から執筆します。ついでにタイトルに意味はありません。

 感想、評価等していただけたら幸いです。

 不躾なお願いですが誤字脱字等ありましたら報告していただけたら嬉しいです。 

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