1-3 <レア装備。だがそれは外せない>
腹黒名探偵ラファちゃん、はっじまっるよー。
相変わらずの誤字脱字のオンパレードですがお手柔らかにお願いします。
ガウルの港。
数十分ぶりのホームタウンは別世界に変わっていた。
やたら視線がちらつく。男性キャラからの好意的な視線が特に。
当たり前か、とアリスはため息をこぼした。
なんせ見目麗しい美少女が初期装備で歩いているのだ。中堅プレイヤー以上が徘徊するこのガウルの港で、初期装備で歩いていれば嫌でも目立つ。さらにそれが美少女ならば尚更。
「ねえねえ、君かわい―――」
「―――間に合ってます」
来るキャラ来る誘いを、悉く切り捨てていくラファ。ちょっとカッコイイとさえ思えた。
………ハッ!?これじゃどっちが男なのかわからないよ。―――ハッ!?まさかラファは男っ!?
などと無言で百面相するアリス。その傍らでアリスの腕に張り付き笑顔のまま男どもをバッタバッタと切り捨てていくラファがいた。
アリス本人、コミュ障を自称しているだけあってガウルに降り立った当初、群がる男どもの対処するよりも会話が出来ずにワタワタと一人で絡まっていた。
そんなアリスの姿が見てられず『しょうがないなぁ。もぉ』と断る役目を買って出たのがラファだった。
もしかして結構アリスってば箱入り?とクスリと笑い、カワイイとさえ思えた。
だが……そこで疑問も浮かぶ。
なぜこんな彼女があんな大金を持っていたのだろうか?
見ず知らずのアタシに簡単にあげれるような金額ではない。裏を返せばそれだけの貯蓄があるともとれる。
この箱入りちゃんはアタシに渡した以上の金額を倉庫から下ろした。それも最低でも五〇〇。
もしかしたら彼女のメインキャラは、かなりのトッププレイヤーで、こんな金額すぐ稼げるのかもしれない。
でも、トッププレイヤーという線は薄いだろう。
これでもネットゲームの知識はある。お金なんて運良く激レアアイテムを手に入れたら一気に増える。邪道だが、リアルのお金を払ってゲーム内の通貨を買うRMTというのも存在するのだ。
それに、接してみてわかったが、彼女にはコミュニケーション能力が低い。ネットゲームの上位陣ほど、人と接する機会が多いものだ。必然的に人のあしらい方くらいは身に付いているはず。
ならばどうやって、大金を作ったのか。本当の彼女はなんなのか。それを見極める必要がある。
ラファは上目遣いでアリスの表情を伺った。
まるでお人形のような綺麗な顔立ち。長く、フワフワな銀髪。凛とした姿勢。本当にこれだけを見れば、どこかお金持ちのお嬢様にも見える。
でもまだ彼女の本質、心の内が見えてこない。
尚も、じーーーとアリスを見つめた。
「あ。ここ」
「ひゃあい!?………へえ?」
いきなり目が合い、悶絶しそうになった。ラファは急いで思考をフル回転させ、さっきまでの仮面を再度被り直した。
そこは数分前までユキが朗報を言いに走った幼馴染の店の前。
アリスのキャラでも、シュウとフレンド登録はしているが、奥に入ることを許可されていない。なのでアリスは店に入るなり、店のカウンターに立っている女性型NPCに「アリスが来たと亭主に伝えてほしい」と言うと、いつもの笑顔でNPCは奥へと消えて行った。
「ここ………は?」
鍛冶屋だということは概ね理解した。しかし、アリスがガウルへ来た理由を忘れたラファは、質問せずにはいられなかった。もしかしたら―――。
「あぁ。幼馴染がやってる鍛冶屋なんだ。さっき話してたでしょ?衣装合わせって」
そこで安堵していいのか迷うラファだった。
タダより高いものはない。それは常々理解はしているつもりだ。後でどんな要求をしてくるかわからない。笑顔の裏に神経をとがらせ、固唾を飲み込んだ。
少しして帰ってきたNPCに連れられ、二人は奥へと通されるのであった。
* * *
「おぅ。ユキ、遅かっ―――」
「―――なにかした?シュウ?」
シュウは幼馴染の姿に絶句するなり、持っていたグラスを手から離してしまった。
パリーンという破砕音を合図に、長く、嫌な間をその空間に作り出した。
長い付き合いだからわかる。コイツは、シュウは自分の姿を見て笑いだすだろう。現にシュウは今にも笑いださんとばかりに、指差す手が小刻みに震えているのだ。
チラリとアリスはラファを見る。視線に気づいたラファは、その無垢な表情のまま、可愛らしく小首を傾げた。
自分を本当の女の子だと思い、心を許してくれた少女。それをこんな馬鹿にバラされては、自分のトラウマに新たな傷をつけられかねん。
ならば先手必勝とアリスはうってでた。
「おま―――」
「そうだシュウ!!さっき出会ったトモダチ紹介するねっ!!」
ラファには見えないようにシュウの口を押さえた。
絶世の美少女(ユキ談)、アリスの笑みが一変して鬼の形相になったことから、『あ、コイツ。マジでキレてやがる』とシュウは訳もわからず頷くのであった。
それからは長い付き合いから編み出した、表情だけで会話を二人の間で始めだした。
以下、細かい表情だけ描写するのが面倒……ゲフンゲフン。表情だけではわからないと思いますので会話形式で進みます。
『おま、なんだそのキャラ!!』
『知ってるんじゃなかったのかよ!!』
『知ってたけどまさか、まさかそんな美少女で来るとは。笑いこらえるのに必死なんだけど』
『あとで死なす』
『んで誰これ?』
「紹介するね。来る途中で知り合ったラファさん」
「はじめまして、アリスさんには大変お世話になりました」
と軽くお辞儀するラファ。そんな中、まだ見えない会話が続く。
『お世話って何?』
『ただの親切』
『ホントかよ………』
『うるせえ!!あとで覚えてろ………』
「ラファさん。こっちの変なのは幼馴染のシュウ。結構この辺じゃ名の知れた鍛冶屋なんだよ」
「誰かさんのおかげでな」
「そうなんですか?」
「やめてシュウ(バラすなよ)」
「へへへ………(了解)」
アリスは『バラすな』が伝わったことを安堵し、中央にあるテーブルに座った。座ると同時に、ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべるシュウと目が合う。気持ち悪い。
「ラファもこっちにおいで」
とラファを自分の横に手招きした。
シュウに釘を差すため、アリスはまた笑みと一緒に「シュウ。お茶持ってきて(覚えてろ)」と言い、シュウは「はいはい」と肩をすくめた。
その間、様子見を決め込んでいたラファ。アリスとシュウの間で何か会話していることには気がついていた。しかし、自分を貶めるような企み、または雰囲気ではないことを察し、少し警戒心を弱めた。
若干『お茶』という単語に引っかかったが、シュウが持ってきた急須と湯のみ三つを見て、警戒心は解かれた。これなら注意深く見ていれば、変な薬を盛られることは防げるだろう。
「そうそう。ユ――ア、アリス。防具の方、できてるぜ?」
「ホント?見せて見せて!!」
そう慌てんなよ。とシュウは三つの湯飲みにお茶を注ぎ、さっきまでカウンターに立っていた女性NPC(客が来ないので、部屋の隅に待機していたのであろう)に「アレ、持ってきて」と告げると、女性は一つ頷いてさらに奥へと消えていった。
「あとはエンチャントだけだなんだが………」
「大丈夫でしょ」
「お前が言うと説得力あるわ………」
なぜかシュウは落胆した。その会話に沈む箇所があったのか?とラファは首を傾げた。
アリスはラファが初心者であることを思い出し、エンチャントについて説明をはじめた。
「ラファは初心者だから説明するけど。エンチャントっていうのは、防具や武器に最初からついている効果とは別に、効果を付与させることを言うの」
エンチャントとはアリスが言った通り、防具や武器についている効果とは別に、効果を付与させることだ。
一つエンチャントするたびに、数百とある効果が、ランダムで一つ付与される。そのエンチャントに必要なアイテムは、レベルとは関係せず、全てのモンスターから入手できる。そこそこ言い値で売買されているので、エンチャントには拘らない低レベル帯にはいい金策にもなっている。(低レベル帯でいいエンチャントをつけれたとしても、次のレベル帯の装備の方が強く、さらに安価であるためエンチャントする必要はない。むしろ売った方が後々のためにいい。)
しかし、エンチャントは数百ある効果のうち、何が出るかわからない代物だ。剣にエンチャントしても魔法ダメージがあがる『Int上昇』の効果や、どうでもいいゴミ効果がつく場合が多々ある。
ついでに言えば装備のレア度によって付与できる数も決まっている。レア度が高い順に、レジェンド級は五つ、ユニークは四つ、エピックは三つ、レアは二つ、マジックは一つ、ノーマルは付与できないことになっている。
そんな中、一番のネックがエンチャントの効果を消すものだ。エンチャントを消すアイテムは存在せず、NPCが消してくれるものとなっている。さらにそれは高額で、一介の中層プレイヤーではやることを渋るほどだ。
他にも渋る理由はある。消す効果は付与させたモノ全てで、一つでもいいエンチャントがついたものなら一日中悩ませる。
そういうのもあり、上位層では全身の防具や武器を最高のエンチャント、神エンチャントにするため、多額の金を使う。
最高のエンチャントを揃えた装備は、バカみたいな競争率でオークション会場を騒がせる。上位陣達は自分の見栄のため、もしくは一攫千金を目指し、そのエンチャント効果を消すNPCの前に群がり、日夜最高のエンチャントをつけるために努力している。
ついでに言えば、ユキが持つレジェンド級大剣、『氷覇王竜・逆震』は、氷覇王の名が付く通り、氷属性大剣中、最高性能を誇り、さらに彼の大剣についているエンチャントは『氷耐性貫通、氷属性ダメージ倍、氷結耐性貫通、氷結確率上昇、全ステータス上昇』で、もはや神の領域を越え、エンチャントを見れば『え……?なにこれ?チートでも使わないと無理じゃね?』と疑われても致し方ない。
それがシュウの落胆の理由である。シュウ自身、一攫千金目指してエンチャントしてみるも、ギャンブル要素が強く、いつも被害を被っていた。
軽い気持ちでユキに『ちょっとこの武器にエンチャントしてみろよ』とやらせ、面白半分でオークションに出品した。
まさかオークション会場が、闘技場になるとは………。
さらには、匿名で出品したにも関わらず、どこから情報を手に入れたのか、連日名の知れたプレイヤー達がシュウの店に訪れ『金はいくらでも積む。だから神エンチャントを………』と土下座される毎日だった。とうのユキは逃げ出し、代わりにシュウが『俺にはできない!!』と逆に土下座するはめになるとは思いもよらなかった。
大まかなエンチャントの説明をするも、シュウが沈んだ理由がわからず、ラファはさらに首をかしげるのであった。
説明を終えると同時、さきほど奥へ行ったNPCがマネキンを抱えて帰ってきた。
「お。かわ―――」
「キャ―――ァッ!!!!カワイイ―――ッ!!」
アリスが感想を述べる前に、横にいたラファが大興奮で叫び、そのマネキンのそばに向かった。
大興奮のラファに、きょとんとするアリス。遅れて席を立ち、そのマネキンの前に行くと、シュウが説明を始めた。
「ユニーク級装備、『大鳳の卵』装備だ」
出てきたものは一昔前のアイドル、ナンチャラ48が着ていたような装備だった。全体的に光モノと黒と赤が印象的で、燕尾服のように、裾が長い外装のブレザー。中に着た白いシャツや、革ジャンのようなベスト、首に巻いたスカーフ状のネクタイも印象的だった。
しかし、一番の問題は―――。
「おい―――ちょっと、シュウ!!このスカート短すぎ!!」
危うく男言葉が出そうになり、ハッと修正するアリス。
アリスの言うスカートは、腰装備にあたるアンシンメトリースカートだ。書いた字の如く、左右非対称、前と後ろの長さが極端に違っているスカート。しかしそこから見えるレースの黒が淫靡さを漂わせた。
「いや、俺はお前から注文受けて作っただけであって………」
「え~~……そう?かわいいと思うけどな………」
シュウに迫りかかったアリスだったが、衣装にしがみ付いていたラファからカワイイの発言を貰い、掴んだ胸ぐらを緩めた。
次回アップデートに先駆けてこういった装備が多く発表された今日。その中で一番レア度の高いものを選んだつもりだったのだが………。まさかこんなバツゲームみたいな装備を着せられるとは………。
「アリスいらないの?だったらアタシ貰っちゃうよ?」
と、ラファはウキウキと煌めく瞳を隠しきれずにいた。その問いにアリスは
「………いや、これにしとく」
と、渋々シュウに装備代を渡した。
確かにカワイイ。だが着るのは俺なのだ。
もともと勇気なんて言葉は、彼の辞書に記入されていない訳であって、もう少し地味なのにしておけばよかったと後悔した。
「まいどありぃ。ラファちゃんも装備必要だろ?でもお金ないか………」
「あ、その心配はないよ」
既に後悔しはじめている親友の姿を見て、ほくそ微笑むシュウであったが。彼の友達、ラファが所持金を見せると、一変して目を丸くした。
「んな大金どこで………」
「な、なにさ………」
シュウの視線はまっすぐアリスに向かった。
『貢いだ?』
『違う。あげたんだ』
『それを貢いだって言うんだ』
『べ、別にいいじゃん。先立つ物は金って言うし』
『それだけか~~?』
と、嫌にニヤニヤとするシュウに、アリスは胸の内にフツフツと沸きだつ何かを感じられずにはいられなかった。やましい気持ちは……少しはあったのかも知れない……けど。
流石に今回の会話は理解したようで、ラファはアリスに見えるように、茶目っけたっぷりに、可愛らしく小さく舌を出しいた。
その行為に、不意をつかれたアリス。赤面した顔を隠すため視線を逸らした。
「んじゃこれと同じのでいい?材料余ってるし、いちおう色違いもできるけど?」
「ホントですか!?どういう色があります?」
シュウは自分のメニュー画面にある、装備レシピから色違いのサンプルをラファに見せ始めた。それと同時に、少し離れたところで、同じくメニューを開くアリスの姿があった。
さきほど回収した装備をメニュー画面でアリスに着せ、その図を見ていた。
うん。ちょーかわいい。ちょーあいどる。
心でガッツポーズするも。見るのはいい、だが着るのは自分だ。と気分を沈ませずにはいられなかった。
このまま初期装備でいるのも癪だが、かといってこの衣装で街を歩いては、先ほど以上の大注目を浴びてしまうことうけあい。
どうしようか考えていると。
「おぉ似合ってんじゃん。どうせその装備着るんだから、ついでにロックもしとけ」
とシュウはアリスの手を取り、『装備ロック』ボタンを勝手に押した。
「おま、おま、おま―――」
「ん?どうした?魚みたいに口を―――ぶほおッ!!」
システムアシストで覚えた、渾身のハイキックがシュウの左頬にヒットした。
シュウが倒れるのと同時に、アリスの格好は、初期装備からきらびやかな『大鳳の卵』へと変わっていた。
『装備ロックシステム』とは、取得権限のロックでもあり、例え他のプレイヤーに盗まれたとしても、装備ロックしていれば手元に戻ってくるシステムだ。
逆にロックしないで盗まれた場合、三日という取得権限移行期間が過ぎるまで、他のプレイヤーに権限が移らない。取得権限を持っていない人物に渡った場合、第三者のアイテム欄への移動、もしくは第三者のプレイヤーホームへの持ち運び、さらにアイテム倉庫への移動も不可能になっているのでそれなりの対処はされている。
話は戻り、ロックされてしまうと一週間経たないと解除ボタンが現れないようになっている。一時期、レア装備を盗難される被害が多い時期があり、その対処として現れたモノだ。
実装当初のころ、その解除もすぐできていたのだが、なぜか同じくして頻繁にサーバーが落ちてしまう事件が発生した。
理由がわからないプレイヤー達であったが、公式ページに表記された『装備ロックをした後、期間をあけないとボタンは現れないように仕様変更致しました』の文を見て、『お前らが装備ロックで遊ぶのが原因じょねーかwww』と心配していたプレイヤー達総出でズッコケたのはいい思い出だ。
某匿名掲示板でも『鍵をかけるだけにキーポイントになってたってかwwww』というコメントに対し、『お前………』『ちょっと半年間ロムってこい』というネタが、公式採用されるとは思いもよらない出来事だった。
とりあえずアリスは何が言いたいのかというと。
「一週間この装備着ないとだ―――駄目じゃない!!!?」
と、危うくまた口調が戻りそうになったアリスであった。
ご意見ご感想お待ちしてます。