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チートな俺と歌姫な俺と  作者: 真幸
◆◇ 第一章 -オーディション- ◇◆
25/54

2-17 <後悔。だがそれは最強>

 色々とヤバイ。

 彼、アリスはパートナーからの熱い好意にどうすることもできず、ただただ汗を流し、彼の袖を掴むので精一杯であった。

 さすがに中身"男"なのになんですき好んで男と手を繋がなくてはいけないんだ。

 バレてないことに安心半分、むしろバラしてこの場から去りたい気分のアリス。これでも半歩、いや一歩は努力した方なんだと見知らぬ誰かを説得する。人間手を出されたら手を出してしまいそうになる。アリス自身、彼から手を出されて一瞬握りそうになるのを急旋回させ袖を掴むというミラクルをやってのけた。むしろそれでは怒られるのでは?と心臓バクバクになりながらアリスは彼の反応を見ると、予想以上に心を掴めてしまったようで先ほどのような安心半分の気分に至るわけだ。


 アリスは今更ながら自分のこの声に(わだかま)りを抱かざる負えなかった。

 自分のトラウマでもあり、こんな内気な正確になってしまったこの元凶に。

 気づかれないようにため息を吐いた。それは深呼吸のようにゆっくりで生気を吸われたかのように肩を落とす。


 赤い袖を引っ張る自分の腕に焦点が行く。そもそもこんなことになったのはコイツの性だと眉をひそめ、フツフツと湧きだつ煮え湯を飲まされたような裏切りを感じざるおえなかった。さっきから自分のアシメスカートから伸びる太ももに視線が行ってる気がするし、いっそうわかるようにため息を吐くとパートナーである【絶炎(ぜつえん)】の視線が逸れるのはある種面白いものでもあった。

 確かに自分で言うのもなんだがこのアバターは男の欲望がこれでもかぁっ!と詰め込んだものだ。自分の理想の彼女像の現れといってもいいだろう。


 それでも―――。


 それでも………。


 嫌に映る視線は気味の悪さを現し、自分もこんな感じで女の子を眺めているのかと思うと寒気までしてきた始末だった。変に顔をあげると目が合いそうになるのでずっと下を見続けた。

 アリスは何度目かわからないため息を吐き、心の中で愚痴るのであった。


(はぁ………。早く帰りたい………)



 ◇◆◇◆



 白い石造りで囲まれた城内。淡く差し込む陽がオレンジ色で白を染め、まるで金色に城内を彩るように煌びやかにしていた。

 足を運ぶと地面からパキパキとガラスの破片を踏む音が聞こえ、視線を上から下へと戻した。天井付近の壁に丸く窓が見えた。所々がガラスが割れていることから床に散らばる破片はそこから降ってきたものなのだと勘ぐらせる。

 その窓を左にし、正面を向くと一つの石像と立派な玉座が見えた。石像は高い天井に届けと手を伸ばした人間の像に二匹の小さな竜が周りを飛んでいる像であった。何を意味しているのかわからないが、きっとここでのクエストに関係してくるのではないか?と誰かが口にしているのを聞いて「ふーん」と関心のない声が漏れた。

 彼が一番に目に入ったのはその玉座の前に空いた大きな水たまりである。

 まるでワックスをかけたかのような光沢をもった床が直径二十五メートルほどの穴を開けて水たまりを形成していた。「釣り堀でもはじめれそうだ」という言葉に少し微笑した。

 少し考えをまとめるべく集団から距離を取ったのだが些か有名すぎるのもギルドマスターしてるのもこういうとき不便だなと小さくため息を吐いた。

 もう少しで南京錠という名のつかえを取り除けるところで雑音と共に登場する者があらわれた。 

 "海王竜(オケアルス)"だ。その翡翠色の綺麗な上半身を玉座前の水溜りに顔出した。まるでここは我の城だといわんばかりに。

 柱に寄りかかっていた彼は固く組んだ腕を強ばらせ舌打ちを一つ鳴らして声をあげる。


「"コイツ"は誰のだっ!」


 【SEED】のギルドエンブレムをつけた彼は組んだ腕を解き"マルチエリア"に集うプレイヤーに聞こえるよう声高らかと言った。

 誰からも反応がないようなのでかまかけるように適当に目があったプレイヤーを睨んだ。


「お、俺じゃねーって!俺は"アイツ"が青くなるのを見たって!」


 その言葉に全員が賛同した。不自然な奴は存在しない。

 それもそのはずだ。ここにいる連中は自分が知る本当の意味でのトッププレイヤーだ。自分が認めた奴しか入れないという取り決めの元、さらにネタをネタとしてわかる猛者達だ。そんな奴らを入れる彼のギルド、【SEED】最強だと知っている。

 ボスモンスターが襲来と同時に四方に存在するフィールドの出口は崩れ去るようにして塞ぎ侵入者を閉じ込めた。本来ならファーストコンタクト時にHP半分まで持っていき、巣に逃げたのを巣で叩くのが定石だ。しかしそんなのは上位のプレイヤーでしかできないことだ知っている。ある一定の時間が経過すると竜はどこか別のフィールドに逃げてしまい、何十分もかけてそれを探す。それからHPを半分にして巣に向かい、また時間経過で逃げてしまうというなんとも無慈悲なシステムだと思う。

 そんな余分にHPと元気が余っている竜は時たまにこういったプレイヤーが集まった"マルチエリア"に顔を出す時がある。だがそれは彼が知る内では"その中にこの竜にダメージを与えたプレイヤーがいる"場合のみであると知っている。

 ついでにこの新モンスターはHPの変化によって青だの緑に体を変色させるようで、巣に逃げ出すHPになると翡翠色から淡い瑠璃色に変わる。それをここにいるプレイヤーが全員知っているということは―――。


「俺たち以外でも来るってことか―――」


 そうポツリと言うと彼、アスキラは腰に携えた二刀の剣を抜き去った。まるで斧のような両刃の双剣、"S"字を象るように両刃の刃がついており、真ん中に樋が通り柄に届く。地属性双剣。【残忍なる狂気(クリュエルフォリー)】をクルリと手のひらで回し、かの竜目掛けて歩いた。

 それに続くように【SEED】の面々が武器を構えて後ろについてくる。

 確かにこの竜に関してはまだ未知な部分が多い。もしかしたら"バグって他の場所にいるプレイヤーの竜"がこっちに来たのかもしれない。


「イージス、陽炎はタゲ取りに専念しろ」

「えっと………あたし参加者なんだけど………」

「イージス!来い!」


 「行ってこいエルニーニョ!」「はやい、きた!盾きたメイン盾きた!アイギスちゃんきた!これでかつる!」「ストライク!ストライクはまだかっ!」


 なんかやたら騒がしくなった。それもそのはずか、あの【魔道姫】に並ぶユニークスキル使いなら騒いでも仕方のないことか。と口元が釣り上がるのを感じる。


「アタシは―――?マスター」


 いつの間にか彼の横に大鎌を持ったシャルナがいた。皆、彼女に視線が行く。


「シャルにゃんもいたんだ。おはー!」

「【聖盾(アイギス)】。もうこんばんはの時間です」

「そっかそっか。こんばんはー!」

「シャルナは後ろで待機。取り巻きが湧いたら頼む。イージスと陽炎にタゲ持たせつつ………狩るぞ」


 倒すか逃げるまでは閉じ込められた者は出ることができない。ならちょっと削って逃げるのを待つのが一番であろう。

 さて、【絶氷】。こいつはお前の"力"か?



 感想等ありましたら書いていただけたら幸いです。

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