2-10 <東奔西走。だがそれは狸>
ちょっと修正しました。
「あれ…………?」
「どうかした?」
「いや………。」
おかしい。
今いる地点が『G-17』で、さっきまでいた場所は『G-16』。なので彼女が怒ってどこかへ移動したとしても時間的にその周囲三マップが限界だと思う。
いくら走ったとしても『B-2』なんて場所へいけるはずがない。
「おかしいですねぇ……」
隣を見ると覗くようにユキのシステム欄を見るクオリアの顔があった。
おっとりとした美少女の姿がドアップで表示されて少しドキッと心臓が跳ね、心を落ち着かせたのち口を言葉を発した。
「………クオリアもそう思うよな?」
「そもそも『B-2』は完全な溶岩地帯のはずです。そんな場所にいけるはずが………」
「もしかしそこが巣なんじゃない?」
「「っ!?」」
二人同時にラファを見た。ラファは「な、なによぉ………ただ言ってみただけじゃない」と困ってるような馬鹿にされたような顔をしてこちらを見ている。
むしろ逆だよ。とクオリアとユキはお互いの顔を見て頷いた。
「………ですが、溶岩地帯ということは常にダメージが付き纏います。そんな場所で戦闘なんて―――」
「いや、歌スキルならいける。ラファ、スキル欄に【耐熱の舞曲】ってあるよな?」
「えっと―――あ、ある!!あるよぉ!!」
「それがあれば溶岩の中に入ってもダメージを食らわない【耐熱】の効果が付与される」
「なるほど、わかりました。『B-2』前のマルチエリア、『C-3』で落ち合いましょ」
わかった。とユキは頷くなりすぐさま西のワープを潜ってその姿を眩ました。
「彼をPTに誘わなくてもよかったの?」
「そしたらあのお姫様が救えないじゃないですか」
「む………」
なぜ彼とPTを組んでるのは自分じゃないんだろう。と仕組まれたことも知らず彼女は俯いていると、背中を軽く押す手があった。
「え?」
「少し。ここにいる人達をお持て成す予定がありますので貴方は先に行ってください」
そう言うなりクオリアは右手で風属性魔法【加速する風】。左手から土属性【守りの大地】をラファに付与させた。
「一時的にAgiとVitをあげています。それならユキ様と速度的には等速でいけるはずです」
そういうなりクオリアは後ろを振り返る。ユキの存在で忘れていたがここには数名のキャラクターが周囲を囲み、じわじわとこちらに近づいてくるのがわかる。中には昨日見たギルドのエンブレムをつけている人もいる。
大丈夫なのだろうか―――?
晴れやかなではない顔のラファを見て、それとは逆ににこやかな顔でクオリアは答えた。
「大丈夫ですよ。ユキ様との約束ですから、"貴方を勝たせる"と」
「クオリア―――」
「早く行ってください。バフ(支援効果)は三分で切れます」
一瞬にしてラファとクオリアの間に壁ができた。どうやらさきほど見た防御魔法のようだ。
ラファは伸ばした手をゆっくりと引き、ギュっと握り締めた。
「―――わかった。だけどあんたがいないと勝てないんだからねッ!!!!」
握り拳から人差し指を壁の向こうにいるであろうクオリアに向ける。
「わかりましたから早く行ってください」
「死ぬなよぉ!!クオリアァッ!!」
少しして、足音が消えたのを感じるとクスリとクオリアは微笑した。
「結局気づかなかったみたいですね―――」
待ち合わせの『C-3』へと走るラファであったが、走りながらクオリアの言葉の意味に気づいた。
「あいつ―――あたしを勝たすって"アリスと約束"してたのかよぉ―――!!!!!!あのタヌキィがああああぁぁあぁぁぁぁぁ―――!!!!!!!!!!!!!!」」
言いたくなかった過去を言ったあげく、それを言わなくても自分の結果は変わらなかったことに激怒しながら走るラファであった。
あのタヌキ。覚えてろ………。
◇◆◇◆
「ん―――………」
目を覚まして視界に入ったのは溶岩の海だった。
驚きのあまりに体を動かすと、どうやら手と足は何かへドロのようなもので壁に固められ身動きが取れない状態になっていた。
どう見ても自分の体はリアルのものではなく、テルプの物だと再確認させられた。
それにしても………。
「熱い―――」
囚われのお姫様というならもう少し扱いをもっとVIP対応くらいしてもいいと思う。それなのにこんな溶岩の海の上で日干しのように扱われるとは思ってもみなかった。
そう、自分は特別であってこれは全て"ワタシのため"にあるものなのだから。
少しこれは上の方に文句を言いたくなってきた。演出としては◎をつけてもいいレベルだが、助けにくるのがあの三流の役者ではまったく期待はずれだ。是非とも彼が現れた日には面と向かって『チェンジ!!』と言ってやりたい。
そんなことを思っていると下の方で何か寝息のような声が聞こえる。
気になって下を見たのが間違いだったとテルプは後悔した。
つい数分前に対面した炎王竜と呼ばれた溶岩蛇が自分の足元でとぐろを巻いて寝ているのだ。こればかりは起こしたら何をされるのかわかったもんじゃない。
いくら演出で自分がこんな姿にされたとしてもコイツばかりは何をするかわかったもんじゃない。演出ではなくシステムの一つなのかもしれない。そんなよくない思考が止まず、不安という文字が視界いっぱいに広がる。
「はやく助けにきなさいよぉ………」
さっきまでの強気が嘘のように消えていく。こんなのは自分なのだろうか?こんな姿をする自分は本当の自分なのだろうか?
「もういやぁ………」
何もできない自分に嫌気がさして遠くに見える黒い入り口を見つめる。早くきてと願うばかりで少女はただただ俯くしかできなかった。
◆◇◆◇
下段で構えた大剣を両手で持ち、そのまま左中段へと剣先を向ける。システムがそれを読み取り、スキルへと昇華させる。
大剣中級突撃技【突撃する重撃】が発動した。
左から右へと斬りつけながら突貫する。淡く赤いライトエフェクトが軌道を描きスキル硬直が終了と同時に弧を描きながら右上がりの図がゆっくりと消えていった。
【突撃する重撃】で移動と同時に三体のモブを倒し数秒の硬直がとけると同時に再度走り出す。距離にしてまだ十六マップもある。こんな雑魚モブ相手で手こずってはこのイベントをクリアできない。
俺は何をしているんだろうか―――?
さっきまではこんな少女、こんなイベントなんて捨ててやろうかと思っていたが―――楽しんでいるのか?
一人の少女の生き残りや運命が決まるこのタイムアタックを楽しむとは自分でも不謹慎な奴だと思うが、何か結界竜に似た劣勢が期待と心地よさが増やす。
口元が釣りあがり、さらに黒い入り口に進入する。あと十五マップだ。
入り口早々に次の敵に剣先を向ける。もう一度先の中級技を使用にも再使用時間がまだ経っていないため違うスキルを使用する。氷魔法剣初級技【氷剣技・突撃する氷斬】でさらに突撃する。
あと十四マップ。
◇◆◇◆
敵の炎属性の魔法が弧を描いて彼女の足元に着弾する。着弾前に飛び上がり上半身を横に回転させながら彼女は敵を見定めて右手に火の三角、左手に風の四角の紋章を描く。パーンと綺麗な合掌音と黄色い光の粒子を発しながら合成。完成された光を全て右手に宿し、勢いついた回転に身を任せて集団に放った。
着弾と共にスパーク。その一撃によって初心者クラスの装備をつけたプレイヤーのHPは〇にし、それと同時にパートナーとなった者も強制的にワープさせられる。
クオリアは一つの解決法を思いつく、"パートナーを潰せばそのパートナーも潰れる"。これに対してクスリと微笑するクオリア。それは相手にとってしてみれば絶望的な笑顔でもありクオリアの意図に周りが気づいた瞬間でもあった。
【魔道姫】を相手にしてる方としてはハンデをつけている状態だ。ただでさえクオリアは得意の中距離で魔法の打ち合いをしている。この少女は魔法に関してユキにも勝る魔法の使い手【魔道姫】だ。全ての詠唱を見ただけで半減、または相殺にすることができ、こと読み合いにしても中距離戦にしてもいくらトッププレイヤーが束で相手にしようとも魔法でならばクオリアに負ける要素がなかった。
相手をしてる方としてはクオリアのパートナーは既にどこかへ行ってしまい、こっちとしてはハンデなど捨ててかかって行きたいのだが彼女はそのことを無視しないだろ。
どうにかして接近戦に持ち込めば勝機がある………。そう確信した大槍使い『正義自由運命』は彼女の指先に視線を集中した。
指の動きに注目し、少しでも詠唱を開始するようであれば大槍初級突撃技【貫く突槍撃】で距離をつめる。初級スキルは硬直が短いためそのまま大技へと繋ぐことができる。突撃系の移動スキルは上位のものになるに連れ移動距離が増え、威力も勝るのだがスキル終了後のスキル硬直が長いため使いどころが難しい。しかし槍の間合いは長い、そのため初級突撃技でも十分に次のスキルの間合いに持っていけるのが槍のいいところだと彼は理解しているつもりだ。
クオリアの指先が光を灯した瞬間、正義自由運命は構えたスキルを発動させて突貫した。
青いライトエフェクトを発しながら槍の矛先をクオリア手前で止まり次のスキルへ移るために槍を回す。クルクルとバトンのように槍を回し左手を前に右手を後ろに構える。大槍上級技【北斗の七聖槍】を放った。高速で放つ七連撃の突き。
クオリアは驚きの表情を浮かべるがすぐさまいつもの笑みを浮かべた。
「―――シ………レ………ラッ!!」
それはつい数時間前に聞いた歌スキル初級技【魂の揺籃歌】。クオリアが六つあるスキルスロットの内、空いていたスロットを埋めたのが歌スキルだ。それは意味もない理由で入れたスキルであったが現状【状態異常耐性貫通】付きでトップ集団にはかなり有効なスキルだと理解していた。
効果は視線指定での対象を状態異常【睡眠】にする。
「っくそ………タヌキが」
正義自由運命は閉じようとしている目蓋に抗おうとするのだが『ZZzz……』と状態異常エフェクトを発っすると同時にパタリとその場に倒れた。
慌てふためく彼のパートナーもどうすることもできずにその場にペタンと座り込んでしまった。
「なんとなくで入れた割りに有効でいいですわぁ」
両手で魔法、さらに声で歌を操る姫。のちの【魔道姫】あらため、【魔道の歌姫】に変わる瞬間であった。
最後の一人に止めを刺し、クオリアはその場を後にするのであった。
つまり。クオリアは変態だってことはわかった。
(2012/07/09)ラストの【魔道の三頭犬】改め【魔道の歌姫】にしました。
正直どっちがいいのかわからんとです。




