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加護よ 届け

掲載日:2026/10/24

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 英語のbless you。日本語のお大事に。

 いずれにしても、くしゃみをした相手を気遣う表現だ。くしゃみは我慢してもしなくても、その存在を相手へ強烈に知らしめる。

 つい、悪いものが作用しているのではないかと思い、相手に神のご加護があるように告げるのもおかしい感覚ではないかもしれないな。実際に、くしゃみは身体にとっての悪いものを外へ出そうとする動作だとされている。着眼点は悪くない。

 でも、この吐き出そうとしているものの正体、ときには僕たちが想像しているものではない恐れもあるかもね。

 ちょっと前におじさんから聞いた話なのだけど、耳に入れて見ないかい?


 ぶへっくしょい、うーい。

 おじさんが何度も、何種類も聞いたくしゃみの声のうち、こいつが一番印象に残っているらしい。

 口調からしておじさん風な感じがするけれど、実際の世界だと老若男女を問わずに、この手の声がいつ飛び出してもおかしくない。文章の上では、役割語が果たす意味合いが大きいけどね。

 おじさんが印象に残っている理由は、このくしゃみの声によって「地獄」を見たことがあるかららしいんだ。


 それを聞いたのは、子供のころの道端でのことだ。

 バスに乗る用事があったおじさんは、そのまま普段はほとんど足を運ばない隣町へ来ていた。

 そのバスを降りた直後、後ろから降りてくるだろう人が、先に話したような声のくしゃみをしたんだ。

 たいていの人は不快さを覚えてしまうだろうが、おじさんはまだ若くて純粋だった時分。つい「お大事に」と返してしまったらしい。

 と、次の瞬間。

 おじさんは足元とその一帯が、にわかに燃え上がったと思ったらしい。

 自分を取り囲むような、オレンジ色の火、火、火……それを視認できたのはほんの一瞬で、すぐに普段通りの隣町の姿が戻ってくる。


 ――今のは……?


 頭に手をやりながら振り返ると、ちょうどバスが発進したところだったとか。

 そして、自分の後ろでくしゃみをしたであろう客の姿はどこにもなかったのだとか。


 あのとき、自分の背後に本当に人はいたのだろうか。

 そう考えながら、用事を済ませていくおじさんだったが、全然気は休まらなかったという。

 用事そのものはたいした問題じゃない。その用事を済ませている間に、例の「ぶへっくしょい、うーい」のくしゃみを何度も受けたことだ。

 バスのときのように視界外からのときもあれば、道行く人たちが不意に放つこともある。

 そのたび、おじさんのまわりはあの火に包まれる光景へあっという間に変わる。回数を重ねるうち、どんどんとその時間は長くなっていき、帰りのバスを降りる頃にはおおよそ5秒ほど見るようになっていたとか。

 そして。


「ぶへっくしょい、うーい」


 またあのときと同じように、背後の何者かが立てたくしゃみ。

 それによっておじさんは、炎に取り囲まれるのみならず「落ちた」。

 体感でおよそ2秒ほどだったが、沸きに沸いた風呂の数倍はあるかという熱さ、痛みをくぐり、景色が元通りになるとともにおじさんはもだえた。

 どうにか痛みをこらえて家へ帰りつくも、家族にはびっくりした顔をされる。

 理由は一目瞭然。おじさんの肌は、真っ黒に焼けてしまっていて、治るのに何か月もかかる羽目になったとか。

 それ以来、おじさんは例のくしゃみが来ないか警戒し続けているらしい。

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