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もし信長が生きていたら ― 本能寺から始まるもう一つの天下 ―  作者: マーたん


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幸村よ

今宵の宴は?

真田幸村との雑談


夕暮れ。


帆船《希望の風》の甲板で、信長は静かに海を眺めていた。


波の音だけが静かに響く。


その時、一人の武将がゆっくりと歩いてきた。


赤い甲冑。


六文銭の旗印。


真田幸村である。


幸村は笑顔で信長の隣へ立った。


「信長様、お一人ですか」


信長は海を見たまま答える。


「たまには静かな時間も悪くない」


幸村は大きくうなずいた。


「戦ばかりでは心も疲れますからな」


二人はしばらく黙って海を眺めていた。


やがて信長が口を開く。


「幸村」


「おぬしは、もし戦のない世になったら何をしたい」


幸村は少し驚いた表情を見せる。


「急なお話ですな」


「そうですね……」


「まずはゆっくり朝まで眠ってみたいです」


信長は思わず笑った。


「ははは」


「それも良いな」


幸村も笑う。


「毎日、敵が攻めてこないか気になって熟睡できませんから」


信長は空を見上げた。


「余も同じだ」


「天下を目指していた頃は、安心して眠れた日は少なかった」


幸村は信長を見つめる。


「ですが信長様は、それでも前へ進みました」


「迷うことはなかったのですか」


信長は少し考える。


「迷わぬ者などおらぬ」


「決断するたびに不安はあった」


「ただ、立ち止まれば未来も止まると思っていた」


幸村は静かにうなずいた。


「さすがです」


すると幸村は突然笑いながら言った。


「ところで信長様」


「異国の料理はいかがですか」


信長は苦笑した。


「最初は驚いた」


「見たこともないパン」


「見たこともない香辛料」


「だが食べてみると実にうまい」


幸村は笑い出す。


「私は辛い料理だけは苦手です」


「口から火が出るかと思いました」


信長も笑う。


「戦場では恐れぬ男が、香辛料には負けるか」


「それだけは勘弁してください」


二人は大笑いした。


笑い声は甲板いっぱいに響いた。


しばらくして幸村は真剣な表情になる。


「信長様」


「私は歴史では徳川家康と戦い、大坂城で命を落としました」


「もし違う未来があったなら、もっと多くの人を守れたのでしょうか」


信長は静かに答えた。


「誰にも分からぬ」


「だが、おぬしは最後まで信念を曲げなかった」


「それだけで十分誇れる人生だった」


幸村は目を閉じる。


「ありがとうございます」


「その言葉だけで救われます」


信長は幸村の肩へ手を置く。


「これから先は過去ではなく未来を見よう」


「世界は広い」


「まだ見ぬ景色が、おぬしたちを待っている」


幸村は力強くうなずく。


「はい」


「今度は人を守るために槍を振るいます」


その時、水平線の向こうに美しい朝日が昇り始めた。


黄金色の光が海を照らす。


信長はその景色を見ながら微笑む。


「幸村」


「旅はまだ始まったばかりだ」


幸村も笑顔で答えた。


「どこまでもお供いたします」


二人は並んで新しい一日の始まりを見つめていた。


歴史を代表する二人の武将は、今は主君と家臣ではなく、未来を語り合う旅の仲間として、大海原の彼方へ思いを馳せていた。




真田幸村との雑談 其の二


「武将とは何か」


夜の海。


船は静かな波に揺られながら進んでいた。


甲板では信長が星空を見上げている。


そこへ真田幸村が湯気の立つ茶を二つ持ってやって来た。


「信長様」


「少し休憩にいたしませんか」


信長は笑顔で茶を受け取る。


「ありがとう」


「海を眺めながら飲む茶も悪くない」


二人は船の縁へ腰を下ろした。


しばらく波の音だけが聞こえる。


幸村が静かに口を開いた。


「信長様」


「武将とは何でしょうか」


信長は少し考えた。


「難しい問いだ」


「昔の余なら、強い者が武将だと答えていただろう」


「だが今は違う」


幸村は興味深そうに耳を傾ける。


「では、今は」


信長は海を見つめながら答えた。


「民を守る者」


「仲間を信じる者」


「そして、自らの過ちを認められる者」


「それが本当の武将だと思う」


幸村は感心したように笑う。


「私はまだまだ修行が足りませんな」


信長は首を横に振る。


「幸村」


「おぬしは最後まで信念を貫いた」


「それだけでも立派だ」


幸村は少し照れたように笑う。


「そう言われると恥ずかしいですな」


すると突然、船が大きく揺れた。


「おっと」


幸村は慌てて立ち上がる。


信長も茶碗を落とさないように踏ん張った。


そこへ船員が笑いながらやって来る。


「大丈夫ですよ」


「大きな波が来ただけです」


幸村は胸をなで下ろした。


「戦より海の方が怖いかもしれません」


信長は思わず笑う。


「戦場では槍を振り回す男が、波には勝てぬか」


「波だけは相手にしたくありません」


二人は声を上げて笑った。


笑いが落ち着くと、幸村は空を見上げる。


満天の星が輝いていた。


「信長様」


「この星空は、日本でも同じなのでしょうか」


信長も星を見上げる。


「少し見え方は違うかもしれぬ」


「だが星は、どこの国でも人々を照らしている」


「国境は人が決めたもの」


「空は誰のものでもない」


幸村は深くうなずく。


「その考え方、私は好きです」


信長は静かに立ち上がった。


「幸村」


「この旅が終わる頃には、おぬしも余も今とは違う景色を見ているだろう」


幸村も立ち上がる。


「はい」


「その景色を、一緒に見届けましょう」


その瞬間、流れ星が夜空を横切った。


二人は何も言わず、その光を見つめる。


新たな世界へ向かう船は、静かな波音に包まれながら、希望に満ちた未来へと進み続けていた。





真田幸村との雑談 其の三


「もし戦国の世が終わったら」


夜明け前。


船は穏やかな海を進み続けていた。


甲板には信長と真田幸村、二人だけ。


静かな潮風が吹き、遠くではカモメの鳴き声が聞こえる。


幸村は海を見つめながら、小さくつぶやいた。


「信長様」


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」


信長は微笑んだ。


「構わぬ」


「何でも聞くがよい」


幸村は少し考えてから口を開く。


「もし戦国の世が終わったら……」


「信長様は何をしたいですか」


信長はすぐには答えなかった。


波の音だけが静かに響く。


やがてゆっくりと話し始める。


「余は……」


「城下町を歩いてみたい」


幸村は目を丸くした。


「城下町ですか」


信長は笑う。


「家臣を連れず」


「鎧も着ず」


「ただの旅人として歩く」


「店で団子を買い」


「子どもたちと笑い」


「祭りを眺める」


「そんな一日を過ごしてみたい」


幸村は思わず笑った。


「信長様が団子を食べ歩きですか」


「想像すると面白いですね」


信長も笑う。


「案外、似合うかもしれぬぞ」


二人はしばらく笑い合った。


やがて幸村の表情が少し曇る。


「私は……」


「父ともっと話がしたかった」


「兄とも酒を飲みたかった」


「家族と普通の日々を過ごしたかった」


信長は静かに幸村の話を聞いていた。


「戦があると」


「大切な時間は、あまりにも短い」


幸村は少しだけ目を伏せる。


「勝っても失うものがあります」


「負ければ、なおさらです」


信長はゆっくりとうなずいた。


「だから余は」


「次の時代では」


「子どもたちが戦を知らずに育つ国を見てみたい」


「武将が必要とされない世こそ、本当の平和なのかもしれぬ」


幸村は静かに笑う。


「もしそんな時代が来たら」


「私は農業でも始めましょうか」


信長は吹き出した。


「幸村が畑仕事か」


「似合わぬな」


「では、信長様は」


「何を育てますか」


信長は腕を組み、少し考えた。


「そうだな」


「柿でも植えるか」


「毎年実がなれば、それを見るだけで幸せになれそうだ」


幸村は大笑いする。


「天下人が柿農家とは」


「歴史がひっくり返ります」


信長も笑いながら答えた。


「歴史とは、ひっくり返るから面白い」


笑い声は朝焼けの海へ溶けていく。


やがて東の空が赤く染まり始めた。


太陽がゆっくりと水平線から姿を現す。


黄金色の光が二人を照らした。


幸村はその光を見つめながら言う。


「信長様」


「私は、この旅に出られて本当に良かったと思います」


信長は静かにうなずく。


「余もだ」


「戦場では見られなかった景色が、ここにはある」


「だから歩き続けよう」


「まだ見ぬ世界を」


「まだ知らぬ未来を」


幸村は力強く答えた。


「はい」


「最後まで、お供いたします」


朝日を背に、二人は新たな大陸を目指して歩き出した。


その背中には、武将としてではなく、一人の旅人としての穏やかな表情が浮かんでいた。



真田幸村との雑談 其の四


「信長様の本当の夢」


昼下がり。


大海原はどこまでも青く、帆船《希望の風》は順調に航海を続けていた。


甲板では船員たちが帆の点検を行い、料理人は昼食の準備を進めている。


信長は船首に立ち、潮風を受けながら遠くの水平線を見つめていた。


そこへ真田幸村が歩いてくる。


「信長様」


「また海をご覧になっているのですか」


信長は静かに笑う。


「見飽きぬ景色だ」


「同じ海でも、一日として同じ表情はない」


幸村も隣へ立ち、海を眺めた。


「確かにそうですな」


「今日は穏やかな海ですが、昨日は荒れていました」


信長はうなずく。


「人の心も同じだ」


「毎日少しずつ変わっていく」


しばらく沈黙が続く。


波の音だけが耳に届く。


幸村は意を決したように口を開いた。


「信長様」


「私は以前から気になっていたことがあります」


「何だ」


「信長様の本当の夢は何だったのでしょうか」


「天下統一ですか」


「それとも天下人になることですか」


信長は少し驚いた表情を浮かべた。


そして静かに笑う。


「皆がそう思っている」


「だが違う」


幸村は目を丸くした。


「違うのですか」


信長はゆっくり歩き始めた。


「余は幼い頃」


「毎日のように戦の話を聞いて育った」


「村が焼かれた」


「家族を失った」


「飢えた」


「泣いている子どもがいた」


「そんな話ばかりだった」


幸村は黙って聞いている。


「その時、余は思った」


「なぜ人は争うのか」


「なぜ終わらぬのか」


「その答えを知りたかった」


信長は船の手すりへ手を置く。


「天下統一とは目的ではない」


「戦を終わらせるための手段だった」


幸村は深く息を吸った。


「そうだったのですね」


信長はうなずく。


「城が欲しかったわけではない」


「権力が欲しかったわけでもない」


「民が安心して眠れる夜が欲しかった」


「子どもたちが戦を知らずに育つ国を作りたかった」


幸村の目が少し潤む。


「その想いは」


「誰よりも優しい夢ですね」


信長は照れくさそうに笑う。


「余らしくないか」


「いえ」


「私は信長様らしいと思います」


その時、船員が大声を上げた。


「昼飯ですよ」


「今日は魚の煮込みです」


幸村は笑顔になる。


「信長様」


「難しい話はここまでにして、昼食にしませんか」


信長も笑う。


「そうだな」


「腹が減っては夢も語れぬ」


二人は食堂へ向かう。


大きな鍋からは香ばしい匂いが漂っている。


船員たちも席へ着き、賑やかな食事が始まった。


「幸村」


「異国の料理にはもう慣れたか」


「ええ」


「最初は驚きましたが、今ではすっかり好きになりました」


「だが納豆が恋しくなる時もあります」


信長は思わず吹き出した。


「異国で納豆とは」


「幸村らしいな」


周囲の船員たちは意味は分からないものの、二人が笑っているのを見て一緒に笑った。


食後。


二人は再び甲板へ出る。


潮風が心地よく吹いていた。


幸村は静かに言う。


「信長様」


「私はこの旅で気付きました」


「本当の強さとは」


「敵を倒すことではない」


「人を守ろうとする心なのですね」


信長は穏やかに答える。


「余もまだ学んでいる途中だ」


「人は一生、学び続けるものだ」


幸村は大きくうなずいた。


「私も信長様と共に、もっと世界を学びたいと思います」


信長は空を見上げる。


白い雲がゆっくり流れていた。


「旅はまだ続く」


「この海の向こうには、まだ見ぬ仲間と、まだ知らぬ未来が待っている」


幸村は笑顔で答えた。


「どこまでも、お供いたします」


二人の笑顔を乗せた船は、青く広い世界へ向かって力強く進み続けるのだった。



真田幸村との雑談 其の五


「家康という男」


夜の海は静かだった。


満月が海面を照らし、無数の星が空いっぱいに輝いている。


帆船《希望の風》は穏やかな波に揺られながら進んでいた。


信長は船首で夜風を浴びながら、一人静かに月を眺めていた。


そこへ真田幸村がゆっくりと歩いてくる。


「信長様」


「まだお休みにならないのですか」


信長は月を見たまま答えた。


「眠れぬ夜もある」


幸村は隣へ立つ。


「私も同じです」


「海を見ていると、いろいろなことを思い出します」


しばらく二人は黙って波の音を聞いていた。


やがて幸村が静かに口を開く。


「信長様」


「今日は徳川家康殿のお話を聞かせていただけませんか」


信長は少し目を細めた。


「家康か……」


「懐かしい名だ」


幸村は真剣な表情で続ける。


「私は家康と敵として戦いました」


「ですが、信長様は長い年月を共に過ごされました」


「どんなお方だったのでしょう」


信長は遠くの海を見つめながら語り始める。


「若い頃の家康は苦労人だった」


「人質として生き」


「自由のない日々を過ごした」


「だからこそ、人一倍我慢強かった」


幸村は静かに聞いている。


「派手さはない」


「口数も多くない」


「だが、一度決めたことは最後までやり抜く男だった」


「焦らず」


「慌てず」


「じっと時を待つ」


「それが家康だった」


幸村はうなずく。


「確かに」


「戦場でも冷静でした」


信長は少し笑う。


「余とは正反対だったな」


「余は思い立てばすぐ動く」


「家康は十分に考えてから動く」


「だから何度も意見は違った」


幸村は興味深そうに尋ねる。


「では、喧嘩もされたのですか」


信長は声を上げて笑った。


「何度もあった」


「余が怒れば」


「家康は静かに頭を下げる」


「それがまた余を困らせる」


幸村も笑い出す。


「想像できます」


「信長様が怒っても、家康殿は黙って聞いていそうです」


信長は苦笑する。


「そうだ」


「だから怒り続けることもできなかった」


二人はしばらく笑い合った。


笑いが落ち着くと、幸村は少し表情を曇らせる。


「私は家康を憎んでいました」


「父を失い」


「多くの仲間を失いました」


「だから敵としてしか見られなかったのです」


信長は幸村の言葉を静かに受け止めた。


「それでよい」


「戦場では敵と味方しかない」


「だが」


「戦が終われば」


「人として相手を見ることも大切だ」


幸村はゆっくりとうなずく。


「今なら、その意味が分かります」


信長は夜空を見上げる。


「家康にも夢があった」


「余とは違う道だったが」


「民を守りたいという想いは同じだったはずだ」


幸村は静かにつぶやく。


「もし」


「信長様」


「秀吉殿」


「家康殿」


「私」


「皆が同じ時代に、争いではなく語り合えていたら……」


信長は穏やかに笑った。


「面白い世になっていたかもしれぬ」


「毎日、誰かと口論していただろうがな」


幸村は思わず吹き出した。


「それは間違いありません」


「信長様が一番大きな声で話していそうです」


「いや」


「秀吉の方が賑やかだったかもしれぬ」


二人は再び大笑いした。


笑い声は静かな海へ溶けていく。


やがて信長は真剣な表情になった。


「幸村」


「歴史は変えられぬこともある」


「だが」


「未来は変えられる」


「だから余たちは旅を続ける」


幸村は力強く答える。


「はい」


「この先の未来では、争いよりも笑顔が増えるよう、私も力を尽くします」


信長は幸村の肩を軽くたたいた。


「それでこそ真田幸村だ」


満月は二人を静かに照らし続ける。


戦国を駆け抜けた二人の武将は、今は敵味方を超え、未来を語り合う旅の仲間として、大海原の先にある新しい時代を見つめていた。



真田幸村との雑談 最終話


「ありがとう、信長様」


夜明け前。


大海原は静かだった。


船はゆっくりと目的地へ向かって進んでいる。


甲板には信長と真田幸村、二人だけ。


これまで幾度となく語り合ってきた場所だった。


冷たい潮風が吹き抜ける。


幸村は海を眺めながら静かに口を開いた。


「信長様」


「この旅も、もう終わりが近づいてきましたな」


信長は穏やかにうなずく。


「長い旅だった」


「日本を離れ」


「異国へ渡り」


「数え切れぬ人々と出会った」


「多くを学んだ旅でもあった」


幸村は笑顔で答える。


「最初は不安でした」


「海も怖かった」


「異国の言葉も分かりませんでした」


「ですが今では、そのすべてが良い思い出です」


信長は幸村を見つめる。


「おぬしは強くなった」


幸村は首を横へ振る。


「違います」


「私を強くしてくださったのは信長様です」


「戦だけが武将の道ではない」


「人を守ること」


「人を信じること」


「世界を知ること」


「その大切さを教えていただきました」


信長は少し照れくさそうに笑う。


「余も学んだ」


「幸村、おぬしからな」


幸村は驚く。


「私からですか」


「そうだ」


「最後まで諦めぬ心」


「仲間を信じ抜く強さ」


「どれほど苦しくても前を向く勇気」


「それは余も見習うべきものだった」


幸村の目には涙が浮かぶ。


「そのようなお言葉をいただけるとは思いませんでした」


信長は静かに海を見つめる。


「人は一人では生きられぬ」


「余も多くの者に支えられてここまで来た」


「帰蝶」


「勝家」


「利家」


「秀吉」


「家康」


「光秀」


「そして、おぬし」


「皆がいたから今の余がある」


幸村は深く頭を下げた。


「信長様」


「私はあなたと旅ができて幸せでした」


「もし歴史が違っていたなら」


「私はあなたの家臣になりたかった」


信長は優しく笑う。


「家臣ではない」


「友として隣を歩いてくれれば、それで十分だ」


幸村は涙をぬぐいながら笑った。


「ありがとうございます」


その時。


東の空から朝日が昇り始めた。


黄金色の光が海一面を照らす。


二人は並んでその景色を見つめる。


信長が静かに言う。


「歴史は終わらぬ」


「人が生きる限り、新しい歴史は生まれ続ける」


幸村もうなずく。


「そして、その歴史をつくるのは、一人の英雄ではなく、多くの人々ですね」


信長は力強く答えた。


「その通りだ」


「未来は、誰か一人のものではない」


「皆で築くものだ」


幸村は空へ向かって深呼吸した。


「信長様」


「最後に、一つだけ」


「何だ」


「ありがとうございました」


短い言葉だった。


しかし、その一言には旅のすべてが込められていた。


信長は静かに笑う。


「こちらこそ」


「ありがとう、幸村」


二人は固く握手を交わした。


戦国の時代では決して見ることのできなかった、穏やかな笑顔だった。


帆船《希望の風》は、朝日に照らされながらゆっくりと水平線へ進んでいく。


戦を生き抜いた二人の武将は、最後には剣ではなく言葉を交わし、互いを認め合う友となった。


その友情は、時代を越え、国を越え、これからも語り継がれていくだろう。


そして、新たな歴史はまた、誰かの一歩から始まる。


― 真田幸村との雑談 完 ―





おまけ


信長と幸村の珍道中


物語が終わった、ある日のこと。


帆船《希望の風》の船内では、朝から大騒ぎになっていた。


「大変だー!」


若い船員が甲板を走り回る。


信長が腕を組みながら尋ねる。


「どうした」


船員は息を切らしながら答えた。


「信長様!」


「朝ご飯の焼き魚が一匹なくなりました!」


信長は首をかしげる。


「魚が逃げたのか」


「いえ!」


「食べられました!」


その時、後ろから幸村が口を押さえながら現れた。


「…………」


信長はじっと幸村を見る。


「幸村」


「おぬしか」


幸村は慌てて首を振る。


「違います!」


「私は二匹しか食べておりません!」


船員全員が一斉に叫んだ。


「二匹食べてるじゃないですか!」


船内は大爆笑になった。


信長も思わず笑い出す。


「ははは!」


「戦場では冷静なおぬしが、魚には勝てなかったか」


幸村は頭をかいた。


「朝になると腹が減るのです」


その時、料理長が現れる。


「では昼は魚抜きです」


幸村は青ざめた。


「それだけはお許しください!」


信長は肩を震わせながら笑う。


「幸村」


「敵より料理長の方が恐ろしいな」


「全くでございます」


また船内は笑い声に包まれた。


昼食後。


信長は甲板で世界地図を眺めていた。


そこへ幸村がやって来る。


「信長様」


「次はどこへ向かうのでしょう」


信長は地図を見ながら真剣に言う。


「そうだな」


「まずは世界中の美味い料理を食べ歩くか」


幸村は目を輝かせる。


「賛成です!」


その会話を聞いていた船員が苦笑する。


「最初は世界平和と言っていたのに」


信長は笑った。


「腹が減っては平和も語れぬ」


幸村は何度もうなずく。


「名言です!」


船員たちは一斉に笑った。


その夜。


船長が甲板へやって来る。


「信長様」


「幸村様」


「港へ着きました」


二人は元気よく立ち上がる。


「よし!」


「今夜の夕飯は何だ!」


船員たちは顔を見合わせる。


「結局そこなんですね」


またまた船内は笑いに包まれた。


信長は笑顔で空を見上げる。


「旅は終わっても」


「笑顔は終わらぬ」


幸村も笑顔で答える。


「また皆で旅をしましょう」


「今度は戦ではなく、笑いを集める旅へ」


信長は大きくうなずく。


「それも悪くない」


船はゆっくり港へ入る。


夕焼けに照らされながら、信長たちの笑い声はいつまでも海へ響いていた。


― おまけ おしまい ―

次回も楽しみに

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