帰還
今宵の宴は
第百二章
帰還 ― 再び乱れる日の本 ―
長い航海を終えた帆船《希望の風》は、東の海をゆっくりと進んでいた。
朝日が水平線から昇り、金色の光が海を照らす。
船首に立つ信長は、遠くを見つめながら静かにつぶやいた。
「……帰ってきたな」
幸村も目を細める。
「あれは……日の本」
遠くに見える山並み。
白くたなびく雲。
懐かしい海岸線。
故郷、日本だった。
船員たちも歓声を上げる。
「陸だ!」
「日本が見えたぞ!」
長い旅を終えた一行は、港へ向かって帆を進めた。
港へ着くと、多くの人々が集まっていた。
「帰ってきた!」
「信長様だ!」
「幸村様もいる!」
子どもたちは笑顔で駆け寄り、年配の者たちは涙を浮かべながら頭を下げた。
信長は一人ひとりに優しく声を掛ける。
「皆、元気であったか」
しかし、その笑顔は長くは続かなかった。
一人の若い侍が息を切らしながら駆け込んできた。
「信長様!」
「大変でございます!」
「各地で戦が始まっています!」
港にいた人々の表情が一変する。
信長の目も鋭くなった。
「詳しく申せ」
侍は深呼吸をしてから話し始めた。
「信長様が海外へ旅立たれた後、各地の大名たちが再び勢力を広げ始めました」
「国境では争いが絶えず、村々は焼かれ、人々は避難を続けています」
「さらに、自らを『新たな天下人』と名乗る武将が現れました」
幸村は驚く。
「新たな天下人……?」
侍はうなずく。
「その男は、力こそが正義だと言い、多くの城を攻め落としております」
信長は静かに拳を握る。
「旅をしている間に、日本は再び乱れたか」
その時、一人の老人が前へ出た。
「信長様」
「どうか……どうかこの国を救ってください」
「もう戦は嫌なのです」
「子どもたちが泣く姿を見たくありません」
老人は地面へ額をつけて頭を下げた。
その姿を見て、多くの人々も続く。
「お願いします!」
「信長様!」
港は静まり返った。
信長はゆっくりと皆の前へ歩み出る。
「顔を上げよ」
その一言で、人々は顔を上げた。
「余は世界を旅して学んだ」
「剣だけでは平和は築けぬ」
「だが」
「守るべき者がいるなら、余は再び剣を取ろう」
幸村は力強くうなずく。
「私も戦います」
「今度は勝つためではありません」
「人々を守るために」
その言葉に港中から歓声が上がる。
その夜。
信長たちは城へ入り、各地から届いた書状を広げた。
北では城が落ちた。
西では同盟が破られた。
東では大名同士が激しく争っている。
日本中が再び戦乱へ飲み込まれようとしていた。
信長は地図を見つめながら静かに言う。
「世界を巡って分かったことがある」
「戦は終わらせるものだ」
「長引かせるものではない」
幸村は尋ねる。
「信長様」
「まず、どこへ向かいますか」
信長は一枚の書状を手に取る。
そこには、大きく一つの名が記されていた。
『天狼』
突如現れた謎の武将。
素顔を知る者はおらず、その軍勢はわずか数年で十数国を支配したという。
信長は目を細めた。
「この男が乱の中心か」
すると城の外から鐘の音が鳴り響く。
ゴォーン……ゴォーン……
物見の兵が大声で叫ぶ。
「敵襲!」
「敵軍、三万!」
「城下町へ迫っております!」
幸村は槍を握りしめる。
「帰って早々、歓迎が派手ですな」
信長は静かに刀へ手を添えた。
「望むところだ」
「だが今回は違う」
「勝つためだけの戦ではない」
「日本に、本当の平和を取り戻すための戦だ」
城門がゆっくりと開く。
信長は先頭に立ち、ゆっくりと歩き出す。
その背中には、かつての覇王ではなく、世界を知り、平和の意味を学んだ一人の旅人の姿があった。
新たな戦乱。
新たな敵。
そして、新たな歴史。
日の本の未来を懸けた最後の大戦が、今、静かに幕を開けようとしていた。
次回も読むのじゃ




