最初の木漏れ日
むかしむかし、それはまだこの世に言葉が満ちていない頃のお話です。
世界は、神々の息吹に彩られた、巨大なひとつの森でした。木々は天に届かんばかりに高く、葉擦れの音は、太古の神託のように囁き合っていました。獣たちはその下を気ままにさまよい、すべては永遠という名の巨大な静寂の中で調和していました。
その森の、一番奥まった静かな泉のほとりに、「人間」が生まれました。
彼らは、森羅万象の中で唯一、永遠を持たぬ者たちでした。獣が十度生まれ変わる間に、人間はたった一度、短い生を終えるのです。その寿命は、夏の朝露よりも儚く、一瞬の蛍の光に似ていました。
彼らの瞳の色は、その儚さゆえか、森の深い緑でも、空の限りない青でもなく、燃えるような琥珀色をしていました。彼らは、自らが「時間」という大きな流れのほとりに、短い間だけ咲く花であることを知っていました。
最初の人間、「イザ」と「ナギ」は、その短い生の始まりに立ち尽くしました。獣たちは彼らを憐れむように見つめ、神々は静かにため息をつきました。
「なんと哀れな。彼らは、永遠を知らぬゆえに、真の幸福を知ることもできぬだろう」と、風の神が言いました。
しかし、イザは立ち上がり、泉に映る自らの姿を見つめました。そして、彼らが最初に行った行動は、獣たちのように木の実を貪ることでも、鳥たちのように歌うことでもありませんでした。
彼らは、ただ手を繋ぎました。
短い生の重さを分かち合うように、互いの手のひらの温もりを感じたとき、彼らの心の中に、森にはなかった、新しい色の感情が生まれました。それは、**愛**という名の、燃えるような、しかし静かな光でした。
ナギは、自分がまもなく森に還ることを知りながらも、イザに言いました。「この光の粒は、なんと美しいのでしょう。私たちは、この一瞬を、永遠の木々に劣らぬ輝きで満たすことができます。」
彼らの短い命は、彼らの行動を速めました。永遠を持つ者が決して感じない、切迫した美意識が彼らを駆り立てたのです。
彼らは、森の石を集めて小屋を建て始めました。それは、いつか崩れ去ることを知っている家でした。彼らは、夜を照らすために火をおこしました。それは、いつか消えることを知っている炎でした。彼らは、やがて来る**別れ(わかれ)**を、知っていたのです。




