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お手伝いに敗北

 やっと食べ終わった。パンと格闘して顎は少し疲れたけれど、おなかにはたまった。


 そしてお世話になっているならば何か手伝っとかないと、申し訳が立たない。

 居候ならば居候らしく、お手伝いはしっかりと!


「あの、私、何か手伝います!」


 ちょうど私を家に入れてくれた女性……ええい、名前がわからないから、とりあえず心の中では「女性Aさん」と呼んでおこう。すいません。


 ちょうどその女性Aさんが、空になったバケツを掴んで外へ出ようとしていたので、私は慌ててその手を止めた。


「あ!それ! 私がやりますよ。任せてください!」


 女性Aさんは、私のを見て一瞬きょとんとしていたけれど、すぐに察してくれたのか「あらあら」という風に笑ってバケツを預けてくれた。


 よし、まずは水汲みだ。


 外へでて、昨日見た井戸らしきところへ向かった私だったが、開幕三分で現実に打ちのめされることになることはまだ知らない。



「うわ、そっか、井戸だもんね、そうだよね」


 目の前には、石に囲まれた穴と、ロープに繋がれた重そうな桶。


 だいたい、見れば使い方はわかる、あれでしょ?上の滑車にロープかけて、それで水を汲むんでしょ?


 と上を見るが滑車なんてものは存在しない。


「あえ~、え、これ、直で汲むタイプっすかね? 桶を?投げ入れて? できるかい!」


 一回ね?やってみれば案外うまくいくかもだし? ほら、私には「転生者」という補正があるかもしれないし!

 まぁまぁまぁ、とりあえず一投。レッツ・ゴー!

 私は勢いよく、桶を井戸の底へと投げ入れた。


 ――バシャァン!


 いい音を立てて、桶が井戸の底へと吸い込まれていった。結構このままでもいけるのでは?

 ……なんて思ったのは、バカだった。


「んぇ? 浮いてる?」


 そう、桶が水面にプカプカと優雅に浮いているのだ。

 ロープを揺らせばきっと水が入るだろうと思い、私はロープをブンブンと振り回してみたが、桶は虚しく水面でパチャパチャと跳ねるだけで、一向に沈む気配がない。


 ちなみに振り心地は、神社のお参りするときにならす鈴のやつ。びみょーにならしにくいやつね。


 格闘すること数分。奇跡的に桶が斜めになり、コボコボと水が入っていく感触が伝わってきた。

 

「よっしゃ!入った!」


 高らかに勝利宣言をした私だったが、そうそううまくいかない。慢心よくないダメ。絶対。


 よし、あとは引き上げるだけ。私は気合を入れ、両手でロープをもって――せーのっ!


「おんもっっっ!!!」


 重い。重すぎる。


 ぬおおお、と声を漏らしながら必死に引くが、ロープはピクリとも動かない。


 というか、むしろ私の体が井戸の底へズルズルと引きずり込まれそうになっている。


 顔を真っ赤にして、足を踏ん張るが、そんなことで桶が上がる気配もない。


 一回桶を降ろしすことにし、女性Aさん呼んでくるか考える。

 しかし自分からやると宣言して、やり始めたこの仕事。ここで女性Aさんを呼んできたらそれこそお手伝いの意味がない!



  ふんぬぅぅ……



 よし!女性Aさんを呼んでこよう!私にゃあ無理だ!


  結論。無理なもんは無理。


 意地を張って井戸にダイブするより、素直に助けを求める方が賢明だろう。

 あれ私今良いこと言っちゃった?

 そして私はそそくさと家の方へと引き返した。


「すいません、ちょっと、うまく水汲めなくて、少し手伝ってもらってもいいですか?」


 家に戻ると、ちょうど庭の掃除をしていた女性Aさんとバッタリ目が合った。

 彼女は私の真っ赤になった手のひらと、空っぽのバケツを見て、何があったかを察したと思う。

 本当に情けない。


 その後、女性Aさんがやったらいとも簡単に水が汲まれていった。

 

ちょっと異世界、厳しすぎやしませんかね……。


 櫻井朱莉 享年14歳 転生早々井戸に敗北である。


 いや、少しコツがつかめてなかっただけで他のならばできるはず!


 次は台所でお料理のお手伝いに立候補した。IHやガスコンロなんて高尚なものはない。

 あるのは石造りの竈と、薪と、……火打ち石?


 やったことあるぞ!体がまだ健康だったときに自然の家のイベントでやったことがあった。

 これならできる!


 みんな途中で火がつかな過ぎてあきらめていたけど、私は意地で火をつけたあの、火打ち石である。


 私ならばできる!


「……あれ? おかしいな。火花飛んでるのに。」


 勢いよく宣言したはいいもののまったく火がつかない。

 パチッ、パチッ、と火花は元気よく散っているのにだ。


 そういえば体験では火が付きやすい特殊なものに付けてた気がするのだが……

 ………気のせいだったかもしれない。


 それにしても肝心の竈の中にある枯れ葉たちが、驚くほどやる気がない。


 湿気っているのか、私のつけ方が悪いのか、はたまた両方か。


 シュバババッ、と腕がちぎれる勢いで石を打ち合わせる私。井戸のダメージでぷるぷる言っている腕を酷使すること、さらに数分。

 ようやく、枯れ葉からひょろひょろと細い煙が立ち上がった。


「キタァァァ! ついた! つきましたよ!」


 後ろを向いて、見守っててくれた女性Aさんに報告する。

 そして私は夢中で、その小さな種火に空気を送った。


 ――ボォッ!!!

 突然、竈の奥で何かが爆ぜるような音がした。やった、大成功だ! と思った次の瞬間。


「…………ぶほぉっ!?!? げほっ、ごほっ!!」


 視界が、一瞬で真っ白……いや、真っ黒になった。

 逃げ場を失った煙が、逆流して私の顔面を直撃したのだ。


「目が、目がぁぁぁ!」


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、私はたまらず竈の前から転げ落ちた。

 ムス〇大佐はこんな気持ちだったのかもしれない。

 ……しん、と静まり返る台所。

 目を開けると、そこには、固まっている女性Aさんの姿があった。

 

「~~~~~~!?」


 彼女は慌てて私の元へ駆け寄り、私の顔を見て――一瞬、言葉を失った。

 わかる、言わなくてもわかる。そして何も言わないでほしい。

 

 井戸に負け、火にも負け。やっぱり慢心よくないダメ。絶対。

 経験者(笑)のプライドは、今度こそ完全に灰になった。


 女性Aさんは、あわあわと私の顔を布で拭いてくれながら、ついには我慢しきれなくなったのか「ふふっ」と、声を上げて笑い出した。


 笑いすぎですよ、なんて言えるわけもない。

 でも、彼女が楽しそうに笑いながら、丁寧に煤を落としてくれる。


 それにつられて、私もなんだか可笑しくなって笑ってしまった。


 言葉はひとつも通じないけれど、


 なんだか女性Aさんと打ち解けられたような気がした。


本当に書くのが遅いです。

すみません…

そしてなんか性格変わったように見えるかもなんですが、人前おとなしい子なだけです。

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