第3話 あまりにも強いタピオカ
「ふぅ…ようやく元の体に戻ったわ」
その女性は、
流れるような金色の長髪、宝石のような透き通る緑の瞳、誰もが目を奪われるほど整った顔立ち、そして女性らしい曲線を描く完璧なプロポーションの肢体だった。(前話のコピペ)
「ええええ…ババアじゃなかったのかよ!」
俺は驚きのあまり、腰を抜かしてしまう。
「そうよ!美しいでしょ。私はババアじゃなくてマリーって言うのよ。
この湖のおかげで本来の姿を取り戻せたの」
ババアだと思っていた女性がセクシーポーズをとる。そのたわわな胸が軽くたゆんと揺れるのを見て、俺は思わず頬を赤らめてしまった。股間にムズムズとした感覚が走った、その時だった。
あのネッチョリとした声が聞こえてくる。
「ようやく追いついたぞ貴様ら…」
後ろを振り返ると、そこにはブチギレ状態のタピオカがいた。ブチギレ状態のタピオカって、意味不明だけど。
「お前ら、なかなか賢い戦法で俺をまいたようだけど、ここは洞窟の最奥。もう逃がさんぞ」
ブチギレタピオカは、こちらに向かってズンズンと前進してくる。
タピオカの粒一つ一つに怒りマークが浮かんでいるせいか、全体がしわっしわになっているように見え、まるで保存状態の悪いイクラのようだった。
俺は思わずファイティングポーズをとる。
だがその前に、背後からマリーがクルクルと回転しながら飛び出し、俺を庇うようにスタッと降り立った。
「残念だったわね、タピオカ。私はついに——真の姿を手に入れたのよ!」
その姿を見たタピオカは、明らかに狼狽していた。
「ま、まさか……その姿……っ!
くっ……もしや、あの大魔法を使うつもりではあるまいな……?」
「そうよ!あの伝説の大魔法!
山一つを消し飛ばす可能性のある大魔法!
魔王を倒し、世界を救ったというあの大魔法!
山一つを……消し飛ばす可能性のある大魔法よ!!」
※2回言ったけど気にしないでほしい。とにかくすごいらしい。
「さあ!陽の力よ、我が元に集え!!」
マリーが両手を掲げ、詠唱を始める。空気が震え、光がマリーの掌へと集まっていく。
空間が歪み、風が巻き起こる。極限の集中。まさに発動直前。
「さ、させるかああああ!!」
タピオカは咆哮と共に、再びミーハー化ビームを放った。
狙いはマリー
——だったが、俺がとっさに飛び出し、その光線を身を挺して庇った。
「聡!?」
「気にするな。お前がその魔法を撃てば、アイツを倒せるんだろ?」
ミーハー化してしまった俺はスマホを取り出し、カメラを自分に向けて言う。
「安心しろ。俺は……この瞬間をBeRealに投稿するだけだ」
シャッター音が鳴る。
俺とマリーとタピオカ、そして背後で発光し続ける湖——
#魔法発動中 #ブチギレタピオカ #洞窟最奥からこんにちは
マリーは俺を見て、微笑む。
「ありがとう……あなたの思い、しかと受け取ったわ」
そして、彼女は決意とともに掌を掲げる。
周囲の光が、まるで意志を持ったかのようにマリーの手に吸い込まれていく。
洞窟全体が輝きに包まれる中、俺は投稿画面をスクロールしながら思った。
——この大魔法、いったいどんなヤツなんだ?
ビームか? 爆発か? それとも……概念破壊系か?
息をのむ俺の前で、マリーが叫ぶ。
「くらいなさい! これが——陽の力よ!!」
マリーは一瞬でタピオカの懐に飛び込んだ。
光り輝く両手を高く掲げ——そのまま、振り下ろす。
「ダブルチョップ!!」
ズドォォン!!
その衝撃で、洞窟全体が揺れた。
天井の岩がきしみ、土埃が舞い上がる。
てか、物理攻撃!?普通の物理攻撃!?え?そこは、某戦闘民族の両手から光線を出すみたいな技じゃないの!?
物理攻撃なの!?
土煙が立ち込める中、地面にはバラバラに砕けたタピオカの粒が転がっていた。
一粒一粒が無残に散らばっている。
「……やったか……」
マリーが、明らかにフラグを立てるセリフを口にする。
次の瞬間——
タピオカの粒のひとつが、ピクリと動いた。
それに連動するように、他の粒も次々と動き始める。
浮かび上がる粒々たちは、重力を無視して一点に集まり、再構成を始めた。
やがてそこには、ほぼ無傷のタピオカ。
口元には、にやりと気味の悪い笑みが浮かんでいた。
「へへへ……
本来の俺の姿であれば致命傷だったが、今の俺の姿ならバラバラになって攻撃を回避することもたやすい……!」
「ま、まさか……そんな……!」
マリーが膝から崩れ落ちる。
その顔に浮かぶのは、明らかな絶望。
「さらばだ、マリー……
お前もミーハーになっちまえええええ!!」
タピオカが再び光線を放つ。
狙いはマリー!
マリーは目を閉じ、覚悟を決めた。
だがその瞬間。
俺は駆け出していた。
マリーを抱きしめるように庇い、横へと跳ぶ。
タピオカの光線は空を切る。
「な、なにぃ!? バカな……!」
タピオカが動揺する。
「お前は……ミーハーになったはず!
自分の承認欲求を満たすことに夢中で、他人を助けるなどという非効率な行為などするわけがない……!
周囲に貢献しても、いいねは伸びないんだぞ!?」
俺は、マリーを抱きかかえたままタピオカを睨む。
「残念だったな……承認欲求が満たされない?いや…
美女を助けた写真をBeRealに投稿すれば、それだけで最高の承認欲求が満たされるんだよ!!」
俺はスマホを取り出し、マリーを抱えたままカメラを構えた。
軽くアングルを調整しつつ、洞窟の光を背景に入れて——パシャッ!
即座にBeRealに投稿。
[0秒前のリアル]
洞窟で美少女救出
#マジでやばい #美少女 #タピオカこえぇ #これは伸びる #リアルを生きてる
マリーは目を見開き、少し呆れたような笑みを浮かべた。
「ふふっ……あなたって、ほんとにバカね……」
けれどその瞳は、
どこか嬉しそうだった。
俺はそっとマリーを降ろす。
「さあ!承認欲求MAXの俺には、もうミーハー化なんて効かないぜ!どうするよ、タピオカさんよ!」
自信と承認欲求に満ち溢れた俺は、スマホを手にタピオカへと歩み出る。
BeRealを起動して、投稿完了。
#これからタピオカ倒す #おれ最強 #マリー激かわ
その瞬間だった。
突然、洞窟全体が揺れる。
ズズズズズ……と不気味な地響きが鳴り響き、野太い声が空間を揺らした。
「ち◯かわ〜〜〜〜!!!!」
振り返ると、あの光り輝く湖が、
なんと両腕を生やし、地面からむくりと垂直に起き上がっていた。
そして、その腕を広げ、今にも誰かに抱きつこうとしている。
——狙いはタピオカだ!
どうやら、先ほど空振りしたミーハー化ビームが湖に直撃。
その結果、光り輝く湖がち◯かわ好きなミーハーになってしまったらしい。
……もう驚かんぞ。
ババアが美女になるし、タピオカは喋るし、この世界では湖がミーハーになったって何もおかしくない。
「お、お、お、俺はち◯かわじゃないぞ!!!
たしかにち◯かわにいそうなビジュアルだけど、違うからな!?
耳もないし!!」
タピオカは完全に動揺。腰を抜かし、粒一粒がポロポロと地面に転がり落ちる。
だが、光り輝く湖は猛烈な速度で迫り——
ドォォォォン!!
そのままタピオカを豪快にハグして包み込んだ。
「ぎゃあああああああああ!!!」
醜い断末魔が洞窟に響き渡る。
タピオカの身体が、ぐわっと光り輝きはじめる。
「……あれ?ち◯かわじゃないや」
そうつぶやくと、湖はタピオカをぽいっと解放し、元の場所に戻っていった。
そしてスマホを取り出し、T◯kTokを開いて視聴を始める。
しばらくして、タピオカの身体がパァンと音を立てて光を放つ。
「そうだ……これが……これこそが……
俺の、本来の姿!!」
タピオカがゆっくりと立ち上がる。
その姿は、——タピオカミルクティーだった。
「そうだ……俺は、タピオカミルクティーなんだ」
タピオカミルクティーはゆっくりと自分の胸(カップの外面)に手を当てる。
「タピオカだけじゃ、ただの黒いつぶつぶ。
ただのカエルの卵だ。
でも——そこにミルクティーがあってこそ、俺は完成する。
JKに愛され、インスタに映えるあのタピオカミルクティーなんだよ」
その言葉とともに、タピオカミルクティーは優しく微笑んだ。
その笑みは、もはや過去のミーハーさや怒りとは無縁で——
ミーハーであることこそが自分の本質だったと、ようやく思い出したような穏やかな顔だった。
「ありがとう……マリー……それと、知らん男……お前たちのおかげで、俺は……本当の姿を取り戻せた。
じゃあな——」
タピオカミルクティーは、ゆっくりと手を振った。
そして——そのまま、光となって空へと昇っていき、
チリとなって、消滅した。
……。
……。
……は??




