第三話 新たな縁と進化
「はぁはぁ、ひぐっ……」
脚痛い……ママ、パパ……。
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天変地異が発生し、世界は混沌で満たされた。一週間も続いた大災害で壊滅的な被害が発生し、沢山の人が死んだ。常々災害に備えていたおかげで、かろうじて社会を保てていたが、大災害直後まるでトドメを指すかのように世界中のすべての生物が変異し人間を殺し文明を破壊し始めた。
そこで人類は崩壊し、世界の終焉、誰もがそんな単語を頭に浮かべた。
変異生物が世界中で暴れ、老若男女、貧乏富豪、関係なく殺されていく……。
「アリス、早く逃げなさい!」
「でも、パパとママは!」
「いいから早く行くんだ! 父さん達が押さえてる間に……!」
「キシャーー!」
大きな黒蜘蛛がドアをこじ破ろうと攻撃を繰り返す、二人の大人がそれを止め娘に逃げるよう叫ぶ。
「早く!」
「早く行きなさい!」
「…………出来ないよぉ!」
娘は、その場で泣き出してしまった。
「パパ、お願いね」
「任せろ!」
母親は、ドアを離れ窓から娘を外へ突き飛ばした。
「ごめんなさいアリス、生きて……!」
「ママーー! パパーー!」
娘は、下の車に落下する。
バゴンッ!
「キシャーーー!」
ドアの壊れる音と黒蜘蛛の鳴き声が響く。
二人の声は聞こえない、娘に悲鳴を聞かせない為か、悲鳴をあげる暇すらなく殺されたのか……。
「グギョォォ!」
近くで巨大なトカゲが叫ぶ。
「逃げなきゃ……!」
アリスは、巨大トカゲの鳴き声でハッとし走り出す。
❖
「グギョォォ!」
もうどれくらい走ったのか分からない、ただがむしゃらに走った。
周りの景色は、崩壊したビル群から森に変わり、後ろからは未だにあの巨大トカゲの鳴き声が聞こえる。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
「グギョロォー!」
パパ、ママ、私もう十分生きたよね。
巨大トカゲがすぐ後ろまで来ている。
「はぁはぁ」
今そっちに……『アリス、生きて……!』……そんな事言われたら死にたくても死ねないじゃん!
アリスは、諦めず走る。
しかし……。
「嘘……洞、窟……?」
眼の前には、大きく口を開けた洞窟が立ちふさがっており、前に進む道は閉ざされていた。
「グギョォォ」
また別の変異生物がいるかもしれない、しかも洞窟の中がどんなふうになってるかもわからない。
けど、後ろから巨大トカゲが来てる。
「行くしかない!」
アリスは、意を決して洞窟に走る。
そして、洞窟に入ってすぐ濡れた岩に足を滑らせ、地底湖に落下した。
❖
「女の子?」
大きな音の発生源まで行くと、女の子が水の中に沈んできていた。
「なんでこんな所に、とりあえず助けるか。ここで死なれちゃやだし」
あと、俺って思ったよりデカかったんだな。この女の子と比べて5メートルくらいのデカさはあるぞ。
『あぁ……大きな魚。私の事を見てる、沢山逃げて来たのにここで私は死ぬんだ……』
少女アリスの意識はそこで途切れた。
「ふむ、案外軽い。子供だからってのもあると思うが、俺が単純に力持ちの可能性もある」
俺は、少女を身体で持ち上げ近くの陸地に運ぶ。
「グギョォォ!」
「なんだ!? あれは、でっかいトカゲ? 俺とおんなじくらいのサイズだ。もしかして、この子を追ってたのか? この子はあのトカゲに追われてここに落下してきた……。状況的にはそうとしか説明できない」
この子をここに置くのは危険だな、あのトカゲへの生贄になる。
「グギョルルゥ!」
「何!?」
トカゲは、俺がこの少女を横取りしようとしてるとでも思ったのか猛ダッシュで走ってきた。
「と、とりあえず一旦水中に……はまずいから持ち上げた状態で奥に!」
俺は、少女が溺れないよう水面を移動しトカゲから距離を取る。
バシャーン!
入ってくるか、とんでもない執着だ。
しかし、好都合だな。水中は俺のテリトリー、ちょうど成長が遅くなってたんだよ、お前を糧に俺はまた成長する!
俺は、洞窟の奥の陸地に少女を置き、トカゲと向き合う。
「グギュルル〜」
「女の子を掛けて勝負だ、トカゲ」
俺は、水中に潜る。
トカゲは水面を素早く泳げる、しかし水中、それも真下から攻撃されるとどうだ?!
俺は、トカゲの真下から思いっきり攻撃する。
「グギャア!」
「トカゲの尻尾切り……!」
俺の攻撃は外れ、尻尾を千切るだけに終わる。
「グシャー!」
「次は俺の番って? お前の番は来ねぇよッ!」
俺は、無防備な空中で身体をくねらせ、油断しきっているトカゲの背中めがけ口から落下する。
次の瞬間、ドボォン! っと大きな音が洞窟に響く。
「言ったろ、水中は俺のテリトリーだって」
俺は、水中に引き込んだトカゲの鼻と口を大きなヒレで塞ぎ窒息させる。
「グブァー! グブ……グビャァ…………」
〘変異トカゲを倒しました。変異元素を獲得しました。ランクが21になりました。進化が可能です〙
「勝った、勝ったぞぉ! 同ランクくらいの相手に余裕を持って勝ったぞ! ランクも一気に上昇、しかも進化だって?」
『おめでとうございます、マスター! こんなに早く成長した変異生物はきっとマスターだけですよ!』
「ありがとう」
『所で、あの少女はどうしましょう』
「どうするかなぁ……人間の女の子……意外とここって街の近くなのか? とりあえず、様子を見よう」
俺は、少女の側に近寄る。
「ふむ、幸い落ちてすぐに助けたから水は飲んでないみたいだな。息もちゃんとしてる。けど、身体が傷だらけだ。特に脚、足裏の皮が剥けて血が出てる。相当走ってきたんだろう。俺が何か治癒系のスキルを持ってたら良かったんだけど」
トカゲから何か良いスキルが手に入らないかな……。
俺は、倒したトカゲを捕食する。
〘固有スキル呑喰が発動、変異トカゲの捕食によりスキル自己再生を喰奪しました〙
「お、初めて新しいスキルを獲得した。自己再生、名前は良さげなスキルだけど、どう?」
『自己再生、体力を消耗して肉体を再生するスキル。自分にしか使えないというデメリットはありますが、効率のいい回復手段がなかった前の状態と比べると、今手に入れるべきスキルの中では最高に近いものかと』
「おぉ、高評価! 確かに回復手段が自然治癒だよりだったから、回復力向上と回復速度向上は、今の俺に必須の能力だ。ただ、このスキルをあの子に使ってあげる事は出来ないな」
そう言って俺は、眠っている少女を見る。
『起きないですね』
「休まずに逃げ続けたんじゃないか? こんなに小さい子がボロボロになりながら逃げて、やっと休めるんだ。俺達は、静かに見守っとこう」
『優しいですね』
「子供にだけな、大人は自分で自分の身を守れるだろ」
俺達は、静かに女の子を見守る。
❖
「んぅ……」
「お、起きたか?」
「ここは……洞窟? ッ! 痛っ!」
女の子は目覚め、アドレナリンで麻痺していた痛覚も目覚める。
「脚が、動かない……痛い……ひぐっ」
何かないの、痛み止めとか。
『う〜ん、ないですね。植物の中には、止血効果のある草がありますが、ここは洞窟なのでそのような植物は生えてないです』
自然治癒しかないかぁ。
「私、生きてる……? 洞窟に入ってからの記憶が曖昧……。大きなトカゲに追いかけられてて、行き止まりの洞窟に入ったら滑って落ちて、この池に落ち………………」
そこで俺は、蒼色の綺麗な瞳と目があった。
「落ちた時に見た、綺麗な魚?」
「良く眠れたか? あのトカゲは殺したが身体の傷までは治せなかった」
「魚が喋った!?」
「え、通じたの? 通じてないつもりで話したんだけど」
『変異生物ですから、既存の生物とは身体の構造が違います。平均的に知能が高いので、学習すれば喋れるようになります』
へぇ、すごっ。
じゃあ他の変異生物の中には喋れるやつもいるかもな。
「さ、魚が、喋って……」
すげぇビビってる。
そりゃそうだ、普通魚は喋んないし。
「わ、私を食べるの……?」
「はぁ!? 人なんか食うわけねぇだろ! ……多分」
「よ、良かった」
「傷は大丈夫か? 子供なのに良くここまで走って逃げてきたな」
「…………ひぐっ」
「なんで泣き出す!?」
「ママ〜パパ〜!」
親が殺されたのか?
「あぁ〜、よしよし、良く頑張ったなぁ〜」
「うわぁ〜〜〜ん」
女の子は、大声で泣き出した。俺は、ヒレでポンポンと頭を叩き慰める。
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「落ち着いた?」
「うん……ありがとう、魚さん」
「魚さんじゃなくて俺は、ひい……はもう死んでるのか?」
俺は今、柊 龍星の記憶を持ってる魚って状態。あくまでも柊 龍星は前世、今世はまだ名も無いハクギョだ。
新しい名前が欲しいな、色々区切りを付けるためにも。
まぁ、今はいいや。魚さんで。また暇な時に考えよう。
「私を追ってたトカゲは死んだの?」
「あぁ、この通り。俺の腹に入ったよ」
俺は、硬くて食えなかったトカゲの骨を見せる。
「強いんだね、魚さん」
「まぁな」
グギュルルゥ
「お腹空いたか、傷を治すためにも食事が必要だな。ちょっと待ってろ」
俺は、適当に変異生物を捕まえて女の子に与える。
「小魚? 生で食べるの……?」
「取れ立て新鮮だぞ」
「新鮮って、まだ生きてるじゃん。人間は生で食べれないんだよ?」
「分かってる、からかっただけだ」
「私、外で何か取ってくるよ」
「その脚で? 少し待て」
進化……。
〘進化しますか?〙
なんとなくだが、これが最善の選択な気がする。
〘進化先が複数存在します、選択して下さい〙
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〈進化先〉
ー金白鱗魚(希少上位種)ー
ー金白鱗蛇(希少変異種)ー
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蛇だ! これで水中からはおさらばだな。
進化先は一択! 金白鱗蛇に進化する!
〘進化先の選択を確認、進化を開始します〙
「な、なにっ?!」
俺の身体は光だし、白い殻に包まれ、水面に浮かぶ。
そして、進化が始まると同時に俺の意識は途切れた。