第一話 転生そして変異
「っ!」
俺は、身体に触れる冷たい感覚で目を覚ます。
……暗い……電気……。
俺は、ベッドから降り辺りを見渡……す?
た、立てない……まさか金縛り!?
俺は、ベッドに固定され身動きが取れない。
くっ、動けねぇ。
ふざけんな、解けぇ〜!
あれ、でも何か縛られてるような圧迫感がない。手脚も少しは動く。
何ていうか、縛られてるってよりは何かに覆われてる?
ピシッ!
何か破けた!
少しだけどさっきより身体が動かせる、このまま暴れ続けたら抜け出せるんじゃないか?!
うぉぉぉ!
俺は、その場でジタバタと暴れる。
ピシッ! ピシシッ!
後少しだ……!
ビリィー!
「ぱはぁ! ぬ、抜け出したぞ!」
俺は、俺を覆っていた何かから抜け出すことに成功した。
コポポ
「水の中!? 息が……! でき、てる……?」
辺りを見渡すとそこは水中で、俺は慌てるが、何故か水中で呼吸ができていた。
「ここどこだ、俺は一体どうなってるんだ」
俺が慌てて周りを見渡していると、水の底に光り輝く鏡が落ちていた。
俺は鏡に近づき、自分の姿を見る。
「…………嘘、だろ。青白く輝く無数の鱗、身体の至る所にある特徴的なヒレ、ギョロリとした大きな眼……」
鏡に写っていたのは、青白い体色の小魚だった。
「おかしな夢でも見ているのか? 悪夢だったら覚めてくれ」
俺が魚になった? 魚が俺になった? 身体の感覚は夢とは思えないほどリアルだ。
身体に触れている水の冷たい感触や、ヒレも最初からこうだったかのように、違和感なく動かせる。
「俺は一体どうして魚に、俺が今日何をしてたのか振り返ってみよう」
俺は、記憶を頼りに状況を確かめる。
❖
目覚める少し前、俺はペットショップに行き、ペット達の餌を買って自宅への帰路を歩いていた。
「そこの人達危ないっ!」
そんな大きな声が聞こえた瞬間、大きくクラクションが鳴り響き、耳を突き刺すようなブレーキ音が聞こえ、次の瞬間……俺は宙を舞っていた。
「「「きゃあぁぁぁ!!」」」
「ひ、人が轢かれたぞ……!」
たくさんの人の声が聞こえる。
い、一体何が……飛んでもない衝撃が来たと思ったら何かに弾き飛ばされて……俺、轢かれた?
赤い視界の中、俺は辺りを見渡す。
「だ、誰か救急車を!」
「おかあさぁぁぁん!」
俺以外にも一緒に轢かれた人達がいるみたいだ……。
俺を引いたトラックの運転手は……っ、あの野郎逃げようと!
「ま、まで、ごの…ぐぞやよう! がはっ!」
俺は、轢かれた衝撃で肺が潰れ血が逆流し、喀血を起こす。
視界が霞む……身体中があぶられてるかのように熱い……手脚が上手く動かせない……こんなのあんまりだ。俺が何したっていうんだ、今まで普通に生きて、働いて、こんな殺され方するような事は何一つしちゃいないぞ!
ふざけるな、家にはペット達だっているのに……。
そんな願いとは裏腹に、段々と意識が消えていく。
騒いでないで早く助けろよ……もう、死にそう、何だよ……。
ポツ、ポツポツ、ポツポツポツ! サー!
雨……こんな時に、俺の声が届かなくなるだろ。まぁもう、届いても遅いか。
はぁ、あっけねぇ〜死ぬ時はほんとに一瞬何だな。
まるでこの雨みたいに、降って落ちては消え、また降って落ちては消え、誰にも注目される事なく静かに消えていく……。
こんな時でも不治の病である厨二病は出てくるのか、でも今の表現は…悪く、な…い……。
まるで俺の意識を流れ消すかのように、冷たい雨が降り注ぎ、皆が慌てふためき叫んでいる中、俺は静かに息絶えた。
❖
そうだ……全部思い出した。
俺は、あの日居眠り運転手に轢き殺されたんだ。ちゃんと捕まってくれてるといいけど。
俺は、今までの記憶を全て思い出した。
「俺は、転生したのか魚に。なんで!? なんで、魚!? 転生するとしてももっと何か選択肢あったよね? はぁ、まぁいい。どうせもう戻れないんだから」
俺は状況を理解し、これからの事を考える。
「ここはどこなんだ、俺は何の魚になったんだろう」
俺は、近くに見える水面へ泳ぐ。
泳ぎも本能からか、自然と出来る。今までの手足のようにヒレが動く。
「ここは、森? 遠目に山が見えるな。……なるほど、大体把握した」
俺は、水面から出していた顔を沈め情報を整理する。
一つ気付きたくないことに気づいた。
それは、ここが湖や池などではなく小さな小さなただの水たまりだって事をなぁ!
「俺、転生したばっかなのに、もう死ぬの……?」
多分豪雨があってその時にここまで川か池の水が来て、その時に親魚がここで産卵したんだ。
水たまりにしては深いし広いけど、それでも水たまりには変わりない。つまり、晴れが続けばいつかは干からびる!
ここから脱出出来なければ、俺はここで水たまりと一緒に干からびて死ぬ。
「でもどうする? 魚である俺は陸上で呼吸できないし陸を進めない。方法があるとすればまたここまで水が来るような豪雨が起こること、だがそんな幸運あり得るのか? 見た所ここは熱帯雨林とか雨がよく降る場所じゃない。どちらかといえば、日本の森に近い環境だ」
もしかしたら本当に日本かもな。
まぁ、現代だろうと魚である俺には関係ないことだが……。
「はぁ、仕方ない。もしこのまま干からびてまた死んでも、その時はそれが俺の運命って事だ。とりあえず今は、豪雨が降ることを祈りながら魚らしく暮らそう」
❖
〘カを捕食しました〙
〘キッカケを確認、エヴォルブシステムを起動します〙
ん? なんだこのメッセージ。
それにエヴォルブシステムって……。
俺が普通の魚らしく水面に近づいてきたカを捕食すると、変なメッセージが目の前に現れ、謎の声が頭に響いた。
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〈名前〉未定
〈種族〉メダカ(幼体)
〈性別〉オス
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これは、ファンタジー物では定番のステータス……。
もしかして、俺はファンタジー世界に転生しちゃったのか?!
『いえ、ここは貴方のよく知る現代世界です』
「っ! 頭の中に声が!?」
突然頭の中に、意思を持った謎の声が響いた。
『私は、エヴォルブシステムのサポートAI。これから貴方をサポートします』
「え、えっと、俺は現代世界に転生して? そしてこれから俺をサポートするAI? 頭がこんがらがって来た。やっと整理出来たと思ったのに……」
『落ち着いてください、1から状況をします』
「た、頼む」
『まず貴方は交通事故に遭い亡くなった、ここまでは理解出来てますか?』
「あぁ、死んで魚に転生したってとこまではさっき理解した」
『実は、それをたまたま暇な神が見ていました』
「へ? 神…様……?」
『はい、それもこの世界の主神をしている神です。そして、貴方が死んだタイミングである事を思いつき、神は貴方を現代世界の魚に転生させました』
「ある事って?」
『主神は今の平和な世界がつまらないと感じていました、そこで少しずつですが確実にこの世界をより派手で危険な世界へと変えていたのです。それが、全生物の変異進化』
「変異…進化……!! って何?」
『変異進化というのは、生物の変異を促しより強力にそして凶暴に進化させる事です』
「ん? 待てよ、そんな事をやってる時に俺が魚に転生させられたのって、もしかしなくても……」
『はい、貴方は神の目として選ばれました。貴方を主な視点としこの世界の変化を楽しもうとしています』
「うそ〜ん、てことは俺これからその変異進化した生物がそこら中にいる世界で、こんな弱っちい魚として生きていかなきゃいけないの?」
『そうなりますね、だからこその私です。貴方を死なないよう導き、貴方という視点を長持ちさせるサポーター』
「っても、天気はどうにも出来なくない? 多分このまま俺干からびて死ぬよ?」
『神が特別に天気を豪雨にしてくれるそうです。しかし、助けるのはこれが最初で最後だから後は自力で頑張れって事でした』
「い、一応お礼は言っておこう。ありがとうございます、神様。でも、何かあの話を聞いた後だと干からびる以上の苦しみが待っている気しかしない」
『豪雨が一斉変異進化の合図です。その日全ての生物が変異進化し、一瞬で今までの日常が崩れ、時代は巻き戻るでしょう』
「…………幸い俺の家族は全員他界済み。心残りといえば家のペット達だが、強く生き延びてくれる事を祈ろう。よし、覚悟は決まった。後は豪雨の日を待つだけだ」
俺は、覚悟を決め小さな水たまりの中で豪雨を待つ。