異世界からの召喚された青年は殺されたから
「ふむ」
新鮮な魂だ。まるで、さっき死んだような生々しさがある。
「魂だけ呼んだ。ふぅん」
先ほどの言葉をオウム返しする。コレを召喚したという男は笑った。
「ええ、私、優秀なので」
信用ならんな。まったくどこも誠実さもない。望みのために倫理や常識、人も物も踏みにじる輩。
ご同輩ということか。
「じゃあ、あとは私がやるよ。帰れ帰れ邪魔だ」
腐敗前に新しい魂をぶち込んでやらなきゃならない。それが仕事だ。
望みのためなら金貨の山を積み上げても構わないという男の顔を思い出して私は顔をしかめた。
やれやれ。
どいつもこいつも狂ってる。
あんなのがこの国の王とは。
「追い詰めたのは自分だってのにな」
かわいそうに。
と思った目の前にほのかな明かりがあった。
「おや?」
私が最初に覚えたのは、蘇生ではなく、死体を動かすことだった。
それもアリやミミズなど、人に踏まれ、あるいは運悪く干からびたものだった。
なんか、動かせる気がして、動かした。
その次に、小さいキラキラを見つけて、それが生き物の魂と知った。それがなくなって、モノになる。それを私は動かせるらしい。葉っぱをちぎってもキラキラは出なかった。根こそぎ抜いて、ようやくキラキラは現れた。
きれいだと思ったが、同時に思った。
私は、これを殺したんだと。
それからしばらくは、植物も食べるのに苦労した。
あのキラキラをなくして、モノにして、食べることにとても抵抗があったのだ。
今も食事は苦手である。肉とか、ほんと無理。形のない液体まで煮込んでようやく食べる気にはなる。そんなわけで私はいつもだいたい栄養失調気味だった。友人がかけてくれる回復魔法でどうにか生きているような体たらく。
だったというのに、友人が攫われた。
「ばかなんだっ!」
見た目きれいな宝石しているのにそこらへんで昼寝するからだばかーっ! 何度目だ! そう言いながら、追いかけたが私は少しばかり遅かった。
あまりにも大きい青玉に見えるせいで、王家への献上品になってしまった。
ただのそこらへんにいる放浪の死霊術師には入ることができない場所である。
入るだけなら、夜陰に乗じて出来そうだが、あそこにはアレがいた。留守居を狙うしかないが、二匹いる。
神話も遠くなった昨今、それでも血を引くものは残っている。その中でも厄介な血筋であるアークライト。暴虐の王と呼ばれた竜の子孫。人の理のうちにいるように見せかけて、片足くらいしか人の世を理解してない。
人の血がきちんと作用しているので、よほどのことは起こせないが変に生真面目で役目に忠実なのが厄介だ。
幸いなのは番を得てないことだろう。
番がいると大人しいように見えるし、弱みのように思えるかもしれないが、それは違う。
すべて平等であったものが、ただ一人のために動くものに変わる。これの差はとても大きい。
君のためと血を流すのも壊すのもいとわない。
歴代の番は常識的なところを持ち合わせていたので、国は滅んでないが、王権はちょっと変わってたりする。関わらないほうが身のためである。
「すまんな友よ」
頑張ってお肉食べるから、しばらくおやすみなさい、と私は諦めた。
そのあとにうっかり呪いをもらって吐血生活を始めるまでちょっと忘れていた。
そこに渡りに船とばかりに闇の仕事が舞い込んできた。日ごろの行いがいいからかと思ったが。
あったのは新鮮な死体と新鮮な魂。
どっかにもう一つ死体ありそうだなとおもったが私は言わない。ちゃんと信用されて、ちゃんとお金をもらえるようにおとなしく見知らぬ誰かに見知らぬ誰かの魂を入れ込む。
ちゃんと定着できるように念入りに。それでも、違う魂を入れるのはよほど相性がよくなければもたない。
それでも死なせはしないだろう。中身が違えば、もう違う誰かなのにそれを見ないふりをして済ませる。
本当に良い金づるである。
少しの命なのだから健闘を祈ると言ったその魂は意外とねばった。半年以上も問題を起こさず、大人しくしていた。
それは少しばかり私の興味をそそった。
熱にうなされてという話が来た時には、嫌そうな顔をしながら、内心は喜んでいた。魂が離れかけていたのをどうにか押し戻し、少しばかりの信用を得た。ような気がしたが気のせいだった。
わが友を手に取り戻すことは手伝ってもらったものの、頼られることもない。体調が悪い時だけ頭をなでる関係とはいったいなんなのか。
婚約者のほうからは睨まれるどころではなく殺意をぶつけられるし、いいことはない。
あの方の体はあの方のものなんだから触るな穢れると言われたときには腹が立ったが、それは私が死霊術師だからではなく、触れるものすべてに対してそうらしい。
いっそ潔い。魂も違っていることも知ってなお、その対応であるとも知って、好感度があがった。
私のところに来て蘇生を願うのは、別の魂でも縋ってしまうから。
あの王のように。
まあ、生き返ったところで優しくするところはなかったが。
品行方正で優秀になったところで、より上を求められきついとこぼしていた。
「これについていける人はほとんどいないよ。何もかもをすりつぶして、国を動かして、次に動く誰も使っちゃって、なにもなくなる。そんな事後処理したくない」
嘆く王子(と別の魂)にちょっとばかり同情していたのは間違いない。
ささやかではあるが、手伝いをしたりしているうちになぜか、三人セット(+使い魔の猫)扱いされるようになった。本当に訳が分からないが、あなたは私の親友ですのよと王子の婚約者から認定されることに。
死霊術師ですが。
といっても頼もしいと言われ、王子もうなずく始末。
そんな日々も、戴冠までと思っていたのだが。
「王妃になってくれる人がいない」
婚約者はあっさりと王子を捨て修道院に去っていった。
私は、飼い猫を餞別にあげた。末長く仲良くやってくれと。
それはともかく、王妃選びは難航した。程よい年頃の娘はすでに婚約者がいるか婚姻済み。年下といってもつり合いの取れる家柄ともなれば10は違うという話だった。
「じゃあ、私がなってもいいよ。貴重なサンプルだし」
といったらなぜかすぐに決まった。
おかしくないか?
むしろ、みんなにチラ見されてたとか言われて私は頭を抱えた。死霊術師が王妃とかありえない。
なのに手回しよく結婚式やって王妃やらされている。
「笑ったらかわいいと思う」
「笑えるか」
不本意な人生である。
「……ところでさー」
「ん?」
「俺の死体どこ?」
「へ?」
「やっぱりどう考えてもおかしいんだよな。新鮮な魂落ちてないもんだっていうし」
「……私はそこにあったものを」
「へぇ」
「死体置き場から拾って、時間停止して保管している」
「入れ替えようとは思わなかった」
「それ、死体になる」
「……老後に、入れ替えてもらっていい?」
「あと50年後くらいに生きてたら」
「そのくらい生きてるでしょ」
「どうかなあ」
「不死者の王がなにをいいますやら」