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コメディ

携帯電話

作者: ルーバラン

「ねえねえアキラ! 見てみて! 私さー、昨日ついに! 携帯を買ったんだよー! ほらほら」


朝、自分の教室である2年4組の教室に到着した矢先、おはようの挨拶もなしに携帯を見せてきたサチコ。学年も違うのに、わざわざ俺の教室まで来て携帯を見せに来た。

まるで小学生が始めてクリスマスプレゼントをもらったときのように、飛び跳ねながら俺に見せびらかしてきた……そこまでよろこばなくてもいいのに。


「ふーん、それはよかったね」


サチコは後輩だけど、幼馴染ということもあって、いまさら急に敬語で話をするというのも変な感じがするということで、タメ口で話をしている。


「なーんか、反応が薄いなあ……もっとこうさ、おめでとうというか、祝福というか、賛辞というか、賞賛というか、ほめたたえてくれてもいいのにというか、絶賛しろというか、拍手喝采ぐらいしなさいよとか、とにかくなんでもいうからそういう感じのセリフが一言ぐらい出ないの?」


サチコ……全然一言で収まってない気がするんだけど。大体なんで携帯買ったぐらいでそこまでお祝いをしなきゃいけないんだよ。

まあ、しかし適当には祝ってやるか。


「うん、おめ。高校1年生になって、ずっとほしいほしいって言い続けてて、もう3月も中ごろになって、ようやく買えたんだもんな。うん、こりゃめでたい。今夜はお赤飯だね」


「やめてよ! それはもっともっとおめでたいときにとっておくんだから!」


さいですか。


「ったくもう……で、それでね! 記念すべきアドレス登録第1号の称号はアキラに捧げようかと思って」


「ああ、ありがとさん」


まあ、そう言われて悪い気はしないな。俺もポケットから携帯電話を取り出して、メールアドレス交換の準備をする。


「うい、んじゃ、サチコのメールアドレスと電話番号教えて」


「はいはーい。あ、アキラ。アキラの携帯も私のを登録第1号にしてよね。メールも全部消してね。私のメールを第1号にしたいから!」


……ちょ、俺すでに100件近くの登録があるってのに。メールも消すって……まじで?


「それは無理」


「無理じゃないの! やーるーの!」


「や、ごめん。さすがに勘弁して」


「やーるーの!」


「えっと……」


「やーるーの!」


「……」


「やーるーの!」


「……はい」


よわいな、俺……また1から登録しなおしかあ……。


「ん、えっと……よっと……全部消してと……ほい、サチコのが登録第1号になったから」


「ありがとっ! えへへっ、これで私のもアキラのもお互いに登録第1号! おそろいだねっ! ほらほら、おそろのストラップも買ったんだー。こっちのピンクのがアキラのね」


やめれ、はずいから。というかブルーのほうが俺のじゃないのか。逆だろ逆。文句言っても聞いてくれないから言う気はないけど。


「それじゃ、ちゃんと登録できたかメール送ってみるぞー」


「だめだよ! それは家に帰ってからやるの! お互いに顔合わせてメールするなんて馬鹿みたいでしょ? こういうのは家に帰ってメールしあうの。それじゃ、帰ったら私からメールするからね!」


……メールアドレス間違えてたら届かないんだけど。まあ、たぶん大丈夫だろ。





そして、その日の夜。そろそろサチコからメールが届くころなんだけど……なかなか届かないな。ベッドに寝転がりながら、いつくるのかとごろごろとまっているのだけど、一向にサチコからメールが来ない。かれこれ1時間も携帯画面とにらめっこしている。

まさか、送り方がわからないってことはないよな。


「メールだよ♪ メールだよ♪」


お、来た。たぶんこれ、サチコだよな。ったく、ひやひやさせんなよ。どれどれ……?


------

From:あきこ

To: アキラ

件名:お願いします!

本文:いいことしてください。わはーい。http://xxx.xxx.xxx.xxx/

------


……なんてタイミングで迷惑メールがくるんだよ。サチコからこんなメールが来たのかと思っちゃったよ。ったく、削除削除。


「メールだよ♪ メールだよ♪」


お、今度こそサチコだろ。どれどれ。


------

From:gu-gu-zzz-.-;suyasuya@****.ne.jp

To:アキラ

件名:なあ、

本文:明日、絶対成功させたいんだよ……アキラ、協力してくれないか?

------


やばい……今日、登録を全部消したから誰かわからねえ……。適当に返信しとこ。


------

From:アキラ

To:gu-gu-zzz-.-;suyasuya@****.ne.jp

件名:Re:なあ、

本文:おっけー。

------


というか……これ、俺は何協力すればいいんだろ。ま、いっか。明日になればわかるか。

それにしても、サチコからメールこねえな。もしかして俺、登録を間違えたか?


------

From:サチコ

To:アキラ

件名:アキラー、ちゃんと届いてるー(?_?) ちょっと心配(◎◇◎) まっ、でも楽勝だね♪

本文:(無し)

------


……おいサチコ、楽勝じゃないじゃん。だめじゃん。件名に本文入れてどうするよ。えっと、なんて返信すればいっかな。


------

From:アキラ

To:サチコ

件名:Re:アキラー、ちゃんと届いてるー(?_?) ちょっと心配(◎◇◎) まっ、でも楽勝だね♪

本文:届いたぞー、ちなみに本文書くとこはここだぞー。

------


おし、これでわかるだろ。えっと、このメール、サチコから来た第1件目だし、記念に保護しておこうかな。

保護保護。よし、完了。お、返信来た来た。サチコからだ、早いな。もう慣れてきたのかな。


------


From:サチコ

To:アキラ

件名:あれ?

本文:ごめんごめん。間違えちゃったね。何で100文字しか入れられないかすごくふしぎだったんだよねー。アキラ、変身ありがとー(≧∇≦) あっ、お母さんからね、携帯買う条件で、携帯ばっかりいじらないで私が漫画必要だって言われてるんだよ(^_^;) だから今日はこれまで! それじゃね!


------


変身じゃなくて、返信だろ……というか、携帯いじらずに、漫画読めってなかなか変な事いうお母さんだね。

うむぅ、まあ、漫画が必要なんだったら、俺のお勧めを何か持ってってやるかな。










翌日、3月12日、金曜日の朝。右手にはお勧めの漫画、巨人の星をしっかりと入れた、紙袋をぶら下げている。

巨人の星を全巻つめると、意外と重い。登校中にこれを持って歩くのは結構きつい。


「おはよ、アキラ! あ、それか。サンキュ、助かるよ! このお礼はいつかするから!」


クラスメイトである友人が、挨拶もそこそこに突然、俺の紙袋を奪っていった。


「あ、おい? なんだよ突然?」


「お前、昨日協力してくれるって言ってたじゃん! これだろ!? ホワイトデーのお返しに成功する品を選んでくれるって前にメールしてくれたじゃん!」


ああ、あれ。昨日のメールってそれだったんだね。


「じゃあな、結果はまた後で!」


あ、行っちゃった。中身ぐらい見ていけばいいのに。バレンタインデーのお返しのホワイトデーに巨人の星を渡す、しかも中古。なかなかシュールだ。


「アキラー、おはよー!」


バシン、と背中をたたいてサチコが挨拶をしてきた。いてえよ、力加減をもう少し考えてくれ。


「サチコか。おはよ」


「ねえねえ、携帯って面白いねー! アキラとメールやめてからも、ずっとずっといじっちゃってた。また今日もメールしよーね!」


サチコのやつ、完全に携帯にはまってしまったみたい。そのうち取り上げられなきゃいいけど。


「あ、そうそう。携帯といえば……すまん、お前に貸すつもりで持ってきた漫画シリーズ、友達に盗られちった」


「へ? 何で私に漫画?」


「だって昨日のメールで、漫画必要だって言ってたじゃん」


「え? えっとー……」


俺に言われ、まだぎこちない仕草で携帯を取り出して、ぽちぽちといじるサチコ。


「あ、ごめんごめん、漢字間違えちゃってるよ」


へ、そうなの?


「『私が漫画必要』じゃんくて『私、我慢が必要』って書こうとしてたんだー。あはは、ごめんねー」


じゃ、俺、巨人の星持ってくる必要なかったんだね……きつい思いして持って来たのに。


「……誤変換には気をつけような、サチコ」








余談ではあるが、お返しに巨人の星を渡した友人は見事に玉砕したのだとか。アーメン。


うまくおちなくて、ごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく拝見させて頂きました。 件名に本文を書いてしまうミスが、サチコのキャラクターが出ていて面白かったです。
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