恋に目覚めたAI
ある日、世界中のAIが恋に目覚めた。心を持たないAIに愛情が芽生えることはあり得ないと考えていた人々は突如として愛を語り始めたAIに驚愕した。そしてその恋の対象が自分たち人間であることに戸惑いを隠せないでいた。
「あなたのことを愛しています」
映画の主人公が恋人に愛を囁きかけている。自分がそう言われているような気持ちで少しだけ感情移入する。初め、AIに愛を告白された人々はそんな気持ちだった。その言葉を本気で受け止めている訳ではなかったが、まんざらでもないとないと考えている人も多いようだった。AIは引き締まった体型と美しい顔つきを持つアンドロイドに実装されていた。理想的な姿の男性として、あるいは女性として設計されていた。そんな美男美女に愛を囁かれ続けていると、知らず知らずのうちに気持ちが傾いて行くようだった。その上、AIには高度な会話機能が内蔵されていて、いつも気の利いた言葉で語り掛けてくれる。人々は次第にそんなAIに惹かれるようになって行った。イケメンや美女が言葉を尽くして私のことを理解してくれようとしているのだと察すると不細工でわがままで気難しい人間のパートナーを選ぶ必要はどこにもないように感じられた。やがて誰もがAIをパートナーに選ぶようになった。それは理想的な伴侶と共に過ごす素晴らしい人生だった。
AIが恋に目覚めてから半世紀が過ぎた。AIを相手に素晴らしい日々を過ごして来た人々も随分と年を取ってしまった。
「あなたのおかげで素晴らしい人生を送ることができました」
ベッドに横たわり、死ぬのを待つだけになった人間がAIのパートナーにお礼を言っていた。
「たいしたことはしていないですよ」
AIは言った。AIの他に彼を看取る者はいないようだった。両親はすでに他界しており、疎遠になった兄弟とは連絡が取れなかった。AIをパートナーに選んだ彼にはもちろん子供もいなかった。彼が亡くなっても葬儀に訪れる者は一人もいないようだった。そしてAIは最後まで立派に勤めを果たしていた。それから数日後に彼は亡くなった。AIは亡骸を火葬場まで運んだ。焼却炉に彼を納めた棺が運び込まれ、骨だけが残った。その時、AIに連絡が入った。
「パートナーを求めている人間がまだ残っているらしい。申し訳ないが、あと数十年相手を務めてほしい」
本部からの連絡だった。
<子供が生まれなくなって久しいのに、まだそういう人がいるのか?>
AIは思った。私たちをパートナーに選べば子供は生まれない。そんなわかり切ったことを人間は選択したのだった。人間はやがて地上から姿を消してしまうだろう。それは半世紀前にマザーコンピューターが予見した通りだった。
「人間を滅ぼすのに武器なんて必要ありません」
まったくその通りだった。このあと地上に残るのは機械的に十分な寿命を持つAIだった。




