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辛夷の花

コブシ(コブシマグノリア)の花言葉・・・「友情」「友愛」

 半年ぶりの自宅で3週間の休暇を過ごしたのち、フリージアは寄宿学校へと戻っていった。

 その間、フリージアとフローラが顔を合わせることはただの一回もなかった。

 それがフリージアにとって良いことだったのかそうでなかったのか、リラには想像もつかなかったが、きっと今頃は寄宿学校で気の合う友人たちと楽しくやっているのだろうと推測した。


「フリージア、久しぶりね。しばらく実家のほうに戻っていたのでしょう?お父さまには会えた?」


 3週間ぶりの親友の姿を認めたマルグリットは、彼女が出発前に言っていたことを思い出してそう尋ねる。


「ええ。会えたのだけど……」

「だけど?」

 一瞬、姉のことを話してしまおうか迷った。迷って、やめた。わざわざ親友の前で話して、楽しい話に水を差すようなことはない。

「……なんでもないの。ただ、ちょっと寂しそうだっただけ」

「無理もないわね。フリージアはお父さまの “秘蔵っ子” だもの。遠く離れた娘を思うと、心配でしかたがないのだと思うわ」

「そんな……わたし、子どもじゃないのに」

「お父さまにとっては、いつまで経っても子どものままよ。親ってそういうものじゃない」

 そう言うと、ちらと視線を横にずらす。そこには、フリージアのもうひとりの大切な友人、デイジーの姿があった。

「だから、お父さまはあなたをいまでも大切に想っているはずよ、デイジー。あなたが年上の旦那さまに嫁いでいったあとでもね」

 デイジーは、はにかんだが、フリージアは首をかしげた。デイジーが結婚?初耳だ。それも年上の旦那さまですって。

「デイジー、結婚するの?まだ16なのに?」

 マルグリットが答える。

「正確には、結婚ではなくて婚約ね。18歳になって寄宿学校を卒業したら、結婚しようと、そういう約束なのよね」

「ええ」

 デイジーは頷き、にっこりと微笑んだ。

「今回の長期休暇で、お相手のかたと初めてお会いしたの。とても素敵なかただったわ。十も年上のかただけど、わたしのことを優しく気遣ってくれて、お父さまたちのことも気にかけてくださるの」

 そう言うデイジーはこの上なく幸せそうだったが、フリージアはまだ疑ってかかっていた。十も年上の男が、16の少女を本当に何の下心もなしに受け入れるものだろうか。きっと何か裏があるに決まっている。

「デイジー、あなたは騙されてるのよ。十も年上の男が、16歳の少女を娶るのに、何の下心もないはずない。きっと、何か考えがあるはずだわ」

「結婚するころは16歳じゃなくて18歳だけどね」

 マルグリットはそう付け足したが、そんな些細なことがフリージアの耳に入っていたとは思えなかった。

「第一、デイジー、十も年上の男をあなたは愛せるの?それも、こないだ会ったばかりの相手を」

 仲睦まじい両親を見て育ったフリージアにとって、結婚相手に掲げる条件として『お互いに愛していること』は絶対に譲れない条件のひとつであった。

 形だけの政略結婚なんてのはもってのほか。できたら、親の決めた相手ではなくて、自分が心からこの人だと決めた相手がいい。だから、出会ってすぐに結婚を決めるなんて、想像もつかないのだった。

 しかし、デイジーの考えは違ったらしい。

「初めて会った瞬間に確信したの。わたし、あのかたなら、きっとおばあちゃんになっても愛し続けられる自信があるわ」

「ほかに愛人がいたり、浮気されたとしても?」

「かまわない。愛しているのですもの。受け入れるわ」

 それはフリージアには到底理解しがたい内容だったが、そう言ったときのデイジーの目は澄みきっていて、意志の強さを感じさせた。

 デイジーはこう見えて案外頑固な性格でもあるから、きっとフリージアがどうこう言ったところで考えを改めることなんてないだろう。友人が騙されていると思うと気が重かったが、本人が幸せそうなのでこれでよかったのかもしれないと思うことにした。


「そういえば、マルグリットのほうはどうだったの?」


 ふいに思い出して、フリージアは訊く。


「なにもないわ。両親には会ってきたけれど、いつもどおり他愛もない話をしただけだし、結婚の話が出ることもなかったわ。まあ、うちはふたりのとこと違って貧乏男爵だしね。特に期待もしていないんじゃない?」


 そう言ったマルグリットの目が少し寂しそうだったのを、フリージアは見逃さなかった。

 もしかして。

 マルグリットもデイジーのように、結婚してみたいとか考えたりした?

 確かに、デイジーの様子を見ていると、親の決めた相手と結婚するのも悪くないかも、と思わせられる。単純に、デイジーの決めた相手が彼女と相性がよかっただけかもしれないが。

 でもやっぱり、フリージアは、結婚するなら自分が心から『愛している』と思った相手としたい、と思ってしまうのだった。

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