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エーデルワイス

エーデルワイスの花言葉・・・「勇気」「大切な思い出」

 それから、1年の月日が過ぎた。


 レイはあの後すぐにフィオーレの屋敷に移り住み、毎日、父の伯爵と書斎にこもって何時間にもわたり協議を続けた。

 女であるフリージアが次期当主の座に収まることは、これまでに前例がなく、一筋縄ではいかなかったが、フリージアの夢のため、そしてフィオーレ家の将来のため、ああでもないこうでもないと話し合ってなんとか実現へと近づいたのだ。


 同時に、ふたりの結婚式の準備も進められた。

 村の教会で行われることは初めから決まっていたが、村一番の古い歴史をもつ領主の家の跡取り娘の結婚式だ。仕立て屋も、髪結い師も、みな、この日のために我こそはとはりきっていた。

 フリージアにはその厚意がうれしく、涙も出るほどの思いだった。

 仕立て屋のご主人がはりきって作ったオーダーメイドの純白のドレス。頭を飾るティアラも、真珠のネックレスも、もちろん揃いのダイヤの結婚指輪も、この日のために特別に用意されたものだ。レイが街の花屋と何時間も相談して選んでくれたエーデルワイスの花束は、父親へ自分の本心を告げたフリージアの『勇気』を称えたのだと、照れくさそうに教えてくれた。それともうひとつ、この結婚式を『大切な思い出』にしたいからだと。


「こんなに愛されて……わたしはきっと、村で一番の幸せ者ね」


 冗談めかしてそう言えば、そうだよ、と笑って抱きしめてくれる。そんなレイのことがたまらなく愛おしかった。

「わたしはお父さまの跡を継げるのね。次代のオルム伯爵として。そして、フィオーレ家の次期当主として」

「君は優秀な人だ。きっと素晴らしい領主になるよ」

 自分がいつか領主の座に就いて村を治めることになったとき、父の名に恥じない振る舞いができるのか、時々不安になることもある。だけど、そばにレイがいてくれるのなら、それもどうにかなるような気がした。

「レイ。いつまでもそばにいてね」

「もちろん。君がおばあちゃんになっても守り続けるよ」

 わたしの婚約者がレイでよかった。フリージアは心からそう思った。



 **


 いよいよ待ちに待った結婚式当日。たくさんの人たちに囲まれて、フリージアとレイは永遠の愛を交わした。

「病める時も健やかなる時も、お互いを愛し、支え合うことを誓いますか」

 神父の問いに、ふたりは揃って答える。

「「誓います」」

 レイと出会い、レイの想いを知り、いま、ここに在ること。すべてが奇跡で、かけがえのないものだと思っている。

 参列席に目をやれば、父や母、メイドのリラの姿が見える。デイジー夫妻やマルグリットの姿も。そして目の前には、フリージアが最も愛する人、いまは彼女の『夫』となったレイモンド・セント・ル・パルファン=フィオーレの姿があった。

 ふたりの唇が重なる。

 長く。強く。互いの愛を確かめ合うように……。


 村じゅうのみんなが、一組のカップルの誕生を祝福していた。


 そして、少し離れたところにも……ひとり。いや、ふたり。

 教会の端に植えられたニレの木の影から、ひとりの女が、ひょっこりと顔を出す。続いて、夫らしい男性の姿も。

「……会わなくていいのかい?」

 男が、女に向かって訊ねる。

 女はフリージアのほうを見つめたまま、小さく頷いた。

「わたしは、もう、()()()()()()()()()()()()()()()()ですもの」

「でも、彼女は……」

「わたしの『妹』なのだろう、って?確かにね。妹だったわ。わたしにとっては、いまでも大切な妹よ。でもね……」


 ――わたしは、あなたと生きていくことを選んだのだから。


 ひとはそれを『駆け落ち』と呼ぶのかもしれない。でも、彼女は幸せだった。

 わたしを愛してくれる人がいるから。

 わたしが、ほかの誰よりも愛しいと思える人がいるから。

 フローラ・フィオーレ、改めカンナ・トマスは、夫となったダフネのほうを振り返って優しく微笑んだ。

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