五人の遭難者
それは遠いどこかの広い海の片隅で起こった事故でした。
とある一隻の船が嵐に遭って沈没しました。
その船に乗っていた者たちの中で五人だけが、運良く二隻の救命ボートに乗る事ができました。
一隻のボートにはエミリーという若い女性と彼女の姉のジェーン、そして水夫のドナルド、もう一隻のボートには、エミリーの婚約者のマイクと彼の友人のビルが乗っていました。
しかし悪天候の中、波に揺られているうちに二隻のボートは別れ別れになってしまいました。
エミリーが乗っていた方のボートは、半壊しながらもある島に流れ着きました。
マイクと離れ離れになってしまった彼女は彼の安否を気遣い、一日中もう一隻のボートを必死に捜しました。
けれども彼は見つかりません。
翌日天候が回復すると、エミリーはまた婚約者を捜しました。
そして彼女は水平線の彼方遠くに島影を見つけました。
もしかしたら、婚約者の乗ったボートがあの島に漂着しているかもしれない。
エミリーはマイクに会いたくて会いたくて、水夫に頼みます。
ボートを修理して、あちらの島へ私を連れて行ってくださいと。
ドナルドは答えます。
俺と一晩を共にしてくれたらやってやる。
エミリーは悩み抜いたあげくドナルドの要求を受け入れました。
翌日ドナルドは約束通りボートを修理して、船を漕いでエミリーをその島へと連れて行ってやりました。
岸辺にマイクの姿を見つけたエミリーは、浜に着くや否やボートから飛び出して、彼の腕に飛び込みました。
ようやく再会したエミリーとマイク。
しかしエミリーがマイクの腕の中で迷いながらも昨夜の事を打ち明けたとたん、彼は激怒。
そんなふしだらな女とは一緒にいられないと彼女を突き放して走り去ってしまいました。
絶望するエミリー。
それを見たビルはエミリーに話しかけました。
僕が彼を説得してあげよう。だからその間、僕らのボートの修理を手伝ってくれないか。
エミリーは承諾し、ビルを手伝うことにしました。
だけどもビルは仕事をエミリーに任せきり、マイクも戻ってこない。
エミリーがしびれを切らし始めた頃、ドナルドがまたやってきてこう言いました。
あんたのお姉さん、あんたのこと心配してたぜ。帰ってやらなくていいのかい?
姉が恋しくなったエミリーはドナルドの船に乗ってジェーンの待つ島へ帰ります。
ジェーンは憔悴した妹を出迎えて抱きしめて叫びました。
なんて可哀想なエミリー。ドナルドはあなたに酷いことをした。マイクはあなたを傷つけた。ビルはあなたを騙したんだわ。みんな最低な奴らね。でもあたしだけはあなたの味方よ。
一緒に奴らに復讐しましょう。
ジェーンは出かけて行って、ドナルドの寝ている小屋に火をつけました。
ドナルドは焼け焦げて死にました。
それからジェーンはエミリーを船に乗せ、冷血漢のマイクと能無しのビルがいる島へと漕ぎ出していきました……
さて、この五人の中でもっとも悪いのは誰?
これは昨日、私の乗っていた船で起きた出来事。
毎日毎晩世界中の海で船が沈んでいる。
明日はあなたの乗っている船が、沈むかもしれない。
これは大昔にどこぞの研修のグループディスカッションで使われたという『ある無人島漂流の物語』と、その原典とされる『川を渡る女』『若い女性と水夫』を元に考えた物語です。
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