身代わりの存在
道の真ん中に大きな水路が見える。
さすが水の都市といったところか飲み水は比較的美味しい。
先ほど殺したあの店の婆さん。あまり気に食わなかった。
俺はあいつに何もしていない。
血液も門にいた兵士のように回収したが、一銭にもならなそうだ。
生きるためには仕方のないことだが行動しないわけにもいかない。
目覚めてまだ約三日ほどしか経っていないのに俺はこのような状況に巻き込まれているのか。
自分から足をつっこんだから、俺が文句を言う権利はない。
目指すべき場所はただ一択。聖隷堂はここから北のほうにある、らしい。
なぜこのような言い方になるのかというと、聖隷堂は基本魔法によって本体を隠されている。
これは後から得た情報だ。先ほど殺した兵士の懐に入っていた手紙の中に書いてあった。
案外この計画はスムーズに進ませることが難しいかもしれない。何か大きな争いに巻き込まれるような気がしてならない。
正直言って面倒くさいな。
街中は今、騒々しい雰囲気を放っている。原因は俺の侵入の件だろう。
俺の正体はまだ自分でもよくわかっていない。
そんな混沌とした空気の中で一つだけ大きな魔力を隠すことなく放出している奴がいる。
それも方角は北。
あからさまだな本当に。いかにも俺を待っているのかというような感じだ。
やはり勘は外れなかったか。
こいつにバレないようにどうにかできないものだろうか。本当に大事にはしたくないのだがな。
今この瞬間、俺はある方法を考え付いた。
早速行動に出る。
俺は現在、商店で盗んだフードを顔にかぶり正体が分からないようにしている。
これなら俺が今、例の侵入者とはわからないはず。
この姿で騒ぎを起こせば王国兵士どもは俺には気をかけられなくなる。そのうちに…これくらい話さなくとも分かるだろう。
魔法で聖隷堂は隠されている、これは先ほどもいったことだから分かるだろう。
だから俺はある方法を考えた。
下水道だ。王都下水道を使えば魔法で隠されていない堂のキッチンへと向かう。
魔法は私的なものしか隠せない。契約した人同士というならば別だが、どうせ聖隷堂は王国が勝手に作った所謂私的建設物というものだ。
それなら公共使用物である下水道は魔法概念上消すことはできない。
魔法書でつけた知識だ。間違いはない。
俺は静かに腰に携えた剣を抜くと、人民に向かってこう叫んだ。
「よく聞け」
俺の声を聴いた哀れな国民が注目を寄せる。
「今から俺が日常を壊してやる!」
俺は淡々と剣を振るい始めた。