君"生き"たまふことなかれ
初めまして、日野萬田リンと申します。小説家になろう様の公式企画「秋の歴史2022」の参加作品です。ショートショートな作品なので気軽に読んでいただけたらと思います。
私の弟が戦争に行くことになった。どうやら、厳しい戦いに身を投じることになったらしく、生きて帰ることができるかは分からないそうだ。
戦争へ行き、お国のために死ぬことは名誉なこととされている。私もそういう風に教育されてきた。
そんな折、一冊の雑誌に投稿された前代未聞の詩のことを知った。与謝野晶子による『君死にたまふことなかれ』。日露戦争に従軍した弟のことを想って詠んだ詩。この詩は明らかに反戦を詠んでいる。世間はやはりこの詩に対して、批判的な感想が多かったそうだ。
だけど、実の弟が戦争に行くことになった今、この詩を詠んだその人の気持ちが非常によく分かる。
私は弟へ手紙を認める。会いに行くことができないため、ほんの少しでも私の気持ちを伝えたい。しかし、手紙は検閲されてしまう可能性がある。今の気持ちをそのまま書き綴ったら、間違いなく私の最後の手紙は弟の元へ届かないだろう。
だから、私はたった一言だけ紙につづる。
「君生きたまふことなかれ。」
涙でくしゃくしゃになった便箋を封筒に入れて、私はこの手紙を弟に送った。
読んでいただきありがとうございます。評価・感想など全部お待ちしております。