#3 類は友を呼ぶ
#1で伝えた通り、この学校には校則なんてものがほとんどない。秩序を守るための校則をつくるなんて考えが、元々秩序の欠けらも無い神様達の脳みそにあるわけがないのだ。
まず自由になっていることの1つは他クラスへの入室だ。他クラスへ入っても注意なんてされないし、最初から入るななんて言われてない。上の学年の教室だって、下の学年の教室だって行ってもいい。それが授業中でも、休み時間でも、放課後でも、学園内に人が一切居ない夜中でも。
だから今僕の席の隣に上の学年の、いわゆる"先輩"が居る。
ヒドラ「この前問題集解いたんだけど…」
僕の横のヒドラさん。この人は前述べたように上の学年に友達がいて、よくこのクラスでその友達と戯れてる。たまにヒドラさんが上の学年まで行くことがあるみたいだ。
そして、彼女は解答欄が"本能寺の変"だらけの問題集(#1参照)を取り出した。
お友達「…これ勉強したっていうの?」
ヒドラさんの友達はそれを見た途端にツッコむ。僕も同じ立場なら同じツッコミをしていただろう。僕に聞いたところ以外全部本能寺の変じゃないか。授業聞いてたのかよ。
お友達「そもそも歴史じゃないんでしょ?」
正論を友達からかまされたヒドラさんはいつもの笑顔をなくして肩を落として解答を見つめてる。いつも元気だからこそ可哀想に思えてくるけど、あの解答を見てそういう反応になるのが普通なんだろう。
ヒドラ「…」
お友達「今日は帰りに寄り道するのやめて勉強しようか」
黙り込むヒドラさんは置いといて、友達はしっかりしてるみたいで安心した。せめて自力で一問ぐらい"本能寺の変"以外の解答をして欲しい。
ヒドラ「…わかった……」
落ち込んだ様子で渋々承諾するヒドラさんが可哀想だ。その顔は甘やかしてもらうための武器かなんかなのか?
お友達「僕が教えてあげるから、解き直そう?」
友達がそう言って1つの問題を指さす。ヒドラさんは悲しそうな顔をしながら無言で頷く。気になったのでちらっと問題を見てみた。
【空欄を埋めて四字熟語を完成させよ。】
その言葉の下にはこうあった。
【竜頭( )】
こういう問題はただ覚えるだけでいいので簡単だ。
答えは『竜頭(蛇尾)』。意味は、「初めの勢いは良いが終わりはふるわない」だ。
ヒドラ「…わかんないよ」
ヒドラさんは小さくそう呟く。そりゃあそうだろうな。元々そこ本能寺の変って書いてたんだから。
お友達「大丈夫だよ、どれどれ…」
友達は優しい声でヒドラさんをなだめながら問題に目を向けた。こういう暗記問題っていうのは、いくら考えたってわからないから素直に教えてあげるのは良いと思う。それから彼女が覚えて使えるようになると良いね。
「「……」」
2人とも黙り込む。お友達の方は解答を考えているのか、真剣な眼差しで問題集を見つめる。その真剣な様子をぽかんとしたあほ面でヒドラさんは見ている。これ、別に考えて解くような問題じゃないぞ。
ヒドラ「……?」
お友達「……わかんないから、本能寺の変でいっか!」
…えぇ?…お前もか!!良くない!!全然違う!!
心の声はこんなにツッコミを入れているのに、衝撃的すぎて身体は全く動かなかった。
ヒドラ「ほらー!わかんないじゃん!!」
お友達「そもそもこんなの使うんですかー」
2人して声を荒らげ始めた。何やってるんだほんと…"類は友を呼ぶ"ってこういうことなんだな…。
お友達「ねぇ、この問題わからない?」
『え』
急にお友達の方が僕に話しかけてきた。まさか僕に回ってくるとは思わなくて変な反応をしてしまった。
ヒドラ「からすくんならわかるんじゃない!?」
まるで僕が"賢い人"であるような言い回しじゃないか。変な期待はやめて欲しい。わからなかったとき恥ずかしいよ。あと、名前…覚えてたのか。
『…えっと…』
ペンケースから出した付箋を1枚とってそこにちゃんと『蛇尾』と書いて渡した。
お友達「おー!ありがとう!」
ヒドラ「ありがとうからすくん!」
そして2人はゴニョゴニョ話ながら解答を書き始めた。
意味はもう、教えなくていいだろう。(どうせ、数日後には忘れてるだろうしな。)
お友達「からす…くん?おぼえとくよ」
ヒドラ「こいつはかにって呼んであげてー」
かに…か。僕と同じで名前はないのかな?
『…はい』
本当は僕はこの人達とは関わりたくないし、元々関わる気などない。というか、この学園の誰とも関わりたくないのだ。みんな僕より強いし…、きっと僕はいつか学園内で肉の塊になって発見されて…
お友達「もう行くから、からすくんもありがとね」
ヒドラ「ばいばーい!」
僕とヒドラさんに手を振って、かに先輩は教室から出ていった。