つよつよの女優令嬢、婚約破棄イベントの真最中に本気で演技をはじめたらなんだか旗色が変わってきた…。
「アリスティア゠ブルームフィールド! 君との婚約は破棄させてもらう!」
王立学園主催の舞踏会の夜、一方的に婚約者のオスカー゠フォーサイス王子から告げられた婚約破棄、彼の背後には野心たっぷりの男爵令嬢。
せっかく学園に在籍している間は自由にして差し上げようと思っていましたのに、わたくしに嚙みつくなんてお行儀の悪い。
よろしい、ならば調教です。
二度と歯向かう気が起こらないよう1日で後悔させて差し上げましょう!
****
「わたくしが悪かったのですわ! どうぞ、お見捨てにならないでくださいませ!」
そう涙ながらに懇願する美女、それがわたくし女優令嬢ことアリスティア゠ブルームフィールド。
床に崩れ落ち、さめざめと泣く姿は誰彼かまわず同情を引く。
「わたくし、あなたに捨てられたら生きてはいけません。今までのことは全て反省して謝罪いたしますのでどうか、どうか……許してくださいませ」
ホールの隅々まで美しく響く声、まるで計算されたかのように床に広がるドレスと長い髪。まるで舞台で一人だけスポットライトを浴びているかのように全員の視線を集めているのが分かる。
この世の悲哀を全て声に乗せて、悲壮なまでに打ちひしがれた姿を表現する。
だれが呼んだか『女優令嬢』。
誰もが目を奪われる存在、それがわたくし。
幼い頃より、一度見た歌劇やお芝居、舞台の演出の隅々まで寸分違うことなく再現できる特技があった。もちろん人間が普通にできる範囲ではあるけれども。
今わたくしが演じているのは『泣きの演技をさせたら彼女の他にはいないと絶賛された名女優、エリザベートの舞台』の再現だ。もちろん多少セリフのアレンジも入れてある。
先ほど王太子が述べたわたくしが彼女にしでかしたという悪事の数々に眉をひそめていたご令嬢たちもいまやわたくしの悲痛な声音に影響されて、涙ぐんでいる人すらいる。
悲しみ、慟哭。
それらの感情を声に乗せて響かせる。
わたくしが本気を出せばこの程度造作もありません。
「なっ…」
目の前には私を糾弾したままの姿勢でぽかんとしている婚約者の王子とその恋人の平民上がりの男爵令嬢さん。
さて、ここからどんな攻勢を見せてくださるのかしら。
完全に場の主導権をわたくしに奪われた男爵令嬢はこわばった表情でわたくしを睨み付けた。
あら、自己紹介が遅れて申し訳ございません。
わたくしはアリスティア゠ブルームフィールドと申します。
ブルームフィールド公爵家の次女、幼い頃よりたぐいまれなる記憶力とよく回る口が評判の神童でございました。
6歳ですでに頭角を現していたわたくしは同い年のこの国の王太子、オスカー゠フォーサイスの婚約者となったのですが、出る杭は打たれるのが世のさだめ、これ以上目立つのは不利と学びましたので、学園ではずっと大人しく模範生として爪を隠しておりました。
けれど、こんなに分かりやすくわたくしに喧嘩を売ったのですから、もちろんやり返して差し上げないと失礼にあたりますわよね?
マナー的に。
別にわたくし婚約者にはこれっぽっちも執着はありませんけれど、売られた喧嘩は買う主義ですし、なんなら100倍にしてお返ししてさしあげますわ。
わたくしに喧嘩を売ったことを身をもって後悔させて差し上げます。
あと王子のご学友共! 王子のこんな暴挙を諫めもしないとは不甲斐ない! あとで個別にお説教ですよ、覚悟なさい。
***
「アリスティア…」
痛々しく泣き崩れる私に、婚約者のオスカーは目に見えてうろたえた。
他愛もない。
幼少の頃から共に育ったわたくしがこんな風に感情をあらわにして泣き崩れたことなど一度も無いのだから彼の動揺は手に取るように分かる。
「殿下、愛しています。どうかわたくしに慈悲をくださいませ」
声を震わせて懇願する。
たとえ本気で愛していなくても、今この場では本当に愛した相手だと思い込む。
それが女優であり、それが演技だ。
捨てないで。
わたくしのことを見捨てないで。
あなたがいなくてはわたくしは生きていけないの。
美しい顔を歪ませてはらはらと涙をこぼす。大丈夫、数粒こぼす程度ならお化粧は崩れない。
決して泣きすぎない。
これも全て計算だ。
さっきまでざわついていたホールが静まり返り、全ての視線がわたくしに注目している。
いたいけで可憐な女性が床に伏して泣いている。可哀そう、守ってあげたい、そんな庇護欲を掻き立てる。
ざっと反応を見ただけでも観客のほぼ8割は既にわたくしに同情している。
そも男性の性として美女から好かれれば悪い気はしないはずであるし、『この女を捨てるのは惜しい』そう一瞬でも思わせたらもうほぼ勝ち筋が見えている。
「すまない、そなたがそこまで私のことを思ってくれていたとは知らなかった。許せ」
なんてチョロイ。
一瞬で手のひらを返した王子に別の意味で頭を抱えたくなる。
一国の王太子がそれでいいのか。
顔だけは美形のポンコツ君。
まあ、その辺はわたくしも知っていました。王子が考えが足らず思慮も浅いまま、のびのびとお育ちになったこと。王宮で育ったにもかかわらず稀に見るほどの素直で単純なおばかさんだって。幼馴染ですしね。
そんな天真爛漫にお育ちになった王子のその【おばかさん具合】を国王陛下が容認なさっていることも。
(ああ、頭が痛い)
王子もいくら頭がお花畑で単純だからってぽっと出の男爵令嬢に思い通りにされては困るではありませんか。
学園内ではまだいいかと思って好きにさせていたけれど、今回ばかりはいけません。こんなに人の多い学園の公式行事のさなかに口頭で婚約破棄などできるはずもありません。
少し考えただけでも分かるでしょうに。
ざっと今回の珍事でのマイナス点を挙げただけでも、
・多くの貴族に王子の頭がゆるゆるなことがバレた。
・ブルームフィールド(うちの家門ね)家の評判を下げた。
といったところかしら。
一応うちの勢力が国内の最大派閥ですので、どこぞに悪い影響が出るとも限りません。人の口には戸は立てられませんものね。
本来であれば、こんなことは王子のご学友が諫めるべき案件ですが、起こってしまったことはしかたがありません、わたくしが個人の力業でなんとかしてみましょう。不本意ですが、わたくしも国王陛下直々に命じられた王子のお目付役の一人でもあるのですから。
演技の途中で一瞬だけかの男爵令嬢に視線を合わせる。勘のいい彼女はそれで自分の分の悪さを察した。
「殿下っ、あの女を…」
「でも『真実の愛』を見つけられたのは素晴らしいことだと思います!」
彼女の発言を朗々たる台詞でさえぎる。
これ以上しゃべらせないわよ。
汚い言葉はわたくしの舞台には不要。
わたくしの鍛えた声帯と腹筋に敵わないことを知りなさい。あなたの可愛らしいだけの声はこのホールの隅々まで響かせるには全く声量が足りません。
突然の方向転換に男爵令嬢は息を呑む。
「ティア…そう思ってくれるか?」
「ええ、もちろんですわ。真実の愛は大切にしなくては」
「うむ」
馬鹿め、まんまとガードを緩めたな。
完全に否定されると思っていた状況で、わたくしからの全肯定にオスカーの肩からは目に見えて力が抜けた。
だから貴方はおばかさんなんです、本当に腹芸が使えないお方。
先にこの王子を丸め込みますので、男爵令嬢さんは少々お待ちくださいましね。
「わたくし、二人の恋を応援したいと思います! わたくしからも二人の仲を認めてくださるよう国王陛下にお願いさせていただけませんか?」
涙を拭って、そう笑顔で提案する。
泣いている間は極力瞬きをしなかったし、ハンカチで上手に涙をぬぐったので顔へのダメージは無い。さすがわたくし。
泣いたカラスがもう笑ったと言うなかれ、これぞ『脳内お花畑』の王子にとって『一番都合の良い女』。
もちろん全て演技だけれど。
わたくしの豹変に男爵令嬢の顔がみるみる引きつっていく。
全力で排除したかった人物が一瞬で自分の懐に入ってきて一気に協力者にクラスチェンジだ。
まさに獅子身中の虫、さぞかし仰天しているだろう……王子の心変わりに。
その方、そういう方よ?
「ティアも協力してくれるのか?」
「ええ、大切な貴方のためですもの、わたくし謹んで身を引かせていただきます」
「ありがとうティア、とても助かるよ」
チョロイ(2回目)。
男爵令嬢さん、ええとだれだっけ…あ、ジャンヌさんでしたっけ? あなたはご存じなかったかもしれませんが、この王子はこんなだけれど、この国の国王陛下はわりとできた人なのよ? ちゃんとそのあたりまでリサーチしたのかしら。
一人息子であるオスカーを溺愛してはいるもののギリギリ最低限のモラルは守っている、といったような感じ。きっとオスカーもわたくしに婚約破棄を申し出たものの、父親である国王陛下を説得するのは骨が折れると思っていたのだろう。わたくしの提案は渡りに船に違いない。
国王陛下、わたくしには甘いし。
「…っ」
いろいろと雲行きの怪しくなってきた場に男爵令嬢が焦りを見せ始めた。自分で思い通りに動かせていた王子の行動がコントロール不能の域に陥ったのだろう。
ごめんあそばせ、この方誰にでもこうなの。
黙っていれば穏やかで明るく爽やかな美形ですけれど、中身はほんとお花畑。
今までは上手くご学友枠の駒が王子をサポートしていたからボロが出なかったのかもしれないけれど、恋愛ごとに関しては上手く調整できなかったと見える。
「善は急げといいます、では早速王宮へとまいりましょう」
ひとまず場所を移して息の根を止めてしまいましょうね。
この場では人の目が多すぎますから。
「今すぐですか!?」
「助かるよ、ティア」
準備不足なのか青ざめる男爵令嬢に、何も考えていない王子。
「ええ、良いお話は早いほうがいいわ。うちの馬車を呼びますからご一緒に行きましょう」
わたくしは馬車を呼ぶよう指示を出し優雅に笑う。
このまま逃がしません。
今日中にケリを付けますので覚悟してください。
****
「まずはわたくしが国王陛下に事情をお話ししてまいりますので、お二人はこの控えの間でお待ちいただいてもよろしいですか?」
ここに向かう馬車の中で散々と二人の仲を応援してやったら王子は完全にわたくしのことを信用した。ついでに聞いてもいない二人の馴れ初めやらのろけを散々聞かされたが、私は笑顔で『都合の良い女』を演じ続ける。
いやほんと、こいつの脳内どうなってるんだろう。
いっそ清々しいほどに自分本位なので逆に感心してしまう。よくぞここまで自由に育った。
…と、いう結果をまず一番に親御さんに報告しないとですね。
***
豪奢な扉が開き、わたくしは優雅に国王陛下の前へと進み膝を折って報告する。
「国王陛下に申し上げます」
今回の件でお邪魔な二人にはしばらく外で待ってもらって国王陛下とタイマンです。
演技はひとまず置いておいて作戦会議といきますか。
「あの馬鹿王子、普通に平民上がりの娘を連れてきて正妃にするって言ってやがりましたが、一時的に恋で頭がお花畑になっているようですわ、とご報告いたします」
「それは誠に申し訳ない」
若干の皮肉を込めて現状を報告した。
実はわたくし、幼少の頃より国王陛下とは非常に仲良くさせていただいております。
さきほどの暴言もプライベートでは当たり前のように許される関係だとご理解ください。
陛下は王妃様を早くに亡くしてから、一人息子のオスカーをそれはそれは大事に育てていらっしゃいました。
そこで王子の婚約者に抜擢されたわたくしとわたくしの両親とは政治とはまた別に育児なども相談できる家族ぐるみのお付き合いとなっております。
お察しいただけましたでしょうか。
ですからもちろん、わたくしはこの少ぉし足りない王子を自分の将来の配偶者としてずっと支える予定でおりましたので、彼に足りない要素は十分承知しているのです。
謁見の間には国王とわたくしの二人だけれど、すでに先に出した使いの者から事のあらましは聞いているだろう。
ひたすら恐縮している国王陛下。
「そなたには大変申し訳なく思うが、どうにかあれの面倒を見てくれないだろうか」
なにせ、このままでは国が傾く。
「至極もっともなご意見かと思います」
わたくしもこの国を滅ぼしたいわけではない。
国王陛下はわたくしに良くしてくれるし、両親とも仲が悪いわけではない。
王太子の婚約者という自分の立場もわたくしの能力をもってすればもはや義務であると納得もできる。
ただ、あの王子を野放しにして、おかしな人物が実権を握ったと考えるだけで恐ろしい。
今回だって見事にハニートラップに掛かっている。
せめて周りにまともな人間を置いとけよ、と思う。
「そなたを見込んで、頼みがある」
嫌な予感がするけれど、断れない。
幼い頃より正妃となるべく育てられたわたくしだ。常に自分の立場と責任を考えてしまう。
「なんとかしてほしい」
「……承知いたしました」
「王子と男爵令嬢はいかがしましょうか」
「すべてそなたに任せる」
「承知いたしました、最低限これは譲れないというラインはありますでしょうか」
「そうだな、正妃はそなたであること、それ以外は自由にしてよい」
「王子は側室を持っても?」
「好きにしてよい」
「王子のご学友は?」
「好きにしてよい」
王様ってばなんでもOKって言うなぁ…。
「…ちなみにわたくしが浮気をすることは?」
「許す」
なんと、自由恋愛までOKですか。
今のところ浮気をする予定はないけれど。
「承知いたしました」
これは大分権限をいただけたな。
でも、わたくしの家系にも王家の血は多く流れているので血縁うんぬんは問題ないか。
いざという時は自由にさせていただきましょう。
わたくしの自由は十分確保いたしましたので、まあ今回の件の落とし所を決めましょうか。
では今から捻り上げタイムとまいります。
****
「オスカー様、王様に誠心誠意お話をさせていただいたところ、ジャンヌ様を妾に迎えてよいとご許可をいただけました」
「そうか!」
「妾!?」
喜びを浮かべるオスカー王子と話が違うといった表情のジャンヌ。
「わたくし、どうしてもジャンヌ様とオスカー様のお二人で国をまとめていただきたいとお願いしたのですけれども、家柄や教養、知識、カリスマもろもろわたくしより劣る正妃は不用であるとおっしゃって…」
まずは正論で攻める。
悔しそうな顔をするジャンヌさん。でもこれって全部事実ですからね、身の程を知るといいわ。
それだけじゃなくて美しさや声量、腹筋や体幹なんかもわたくしの方が優秀ぽいですけれど。
「そうか…それは仕方が無いな…」
わたくしの言葉を素直に受け止める王子、こういうところはお馬鹿ですけれども素直なんですよね。
「せめて側室になさってはいかがか、ともお伺いしてみたのですが何分彼女の身分が低いためそちらも認めてはいただけませんでした」
しおらしく残念な様子で作り話を語る。
側室にしてもいいと言っていたけれどまずは一度へこまさないとね。
「ちなみに、側室であれば国費で生活を援助いたしますが、お妾さんを囲う場合は、全て王子のポケットマネーでまかなっていただくことになります」
「なんだと!?」
「なんですって!?」
それでは体の良い愛人関係ではないか。
ジャンヌさんの顔が怒りに歪む。
だから、そうだって言ってるだろうが。
「でも大丈夫、ジャンヌさんはお若いし、まだ時間があります」
わたくしはにっこりと笑って提案する。
「ジャンヌさんには今から頑張って社会に貢献していただいて、実力で『側室』の座を勝ち取っていただきましょう」
そうした彼女個人の名声があれば、側室として迎えることになっても国民は納得するでしょう。
「なるほど! さすがティアは賢いな!」
そうでしょうそうでしょう。
単純に喜ぶ姿に、幼い頃のオスカーの姿が重なった。
本当にしようがない方。
祖国を傾ける訳にはいきませんし、この辺で手を打って差し上げますか。
本当に救いようがなくお馬鹿さんなのだけれど顔だけは良いですし、悪人というほどでもないので。
「そうですわね、具体的に申し上げますと、これから先の休日は全て国内の教会、と孤児院で奉仕活動を行っていただきましょう」
「!?」
「国民から『あのお方はお優しい』『素晴らしいご令嬢』『まさに聖女だ』なんて評判が立てばそれは家柄とは関係なくあなたの功績になるでしょう」
何事も一足飛びではいけません。コツコツと下積みすることが大事です。
ジャンヌさん、わたくしを相手にするには準備が足りませんでしたわね。
「でも、それでは『真実の愛』ではなくなってしまいます!」
「む、それは…」
ジャンヌさんが王子の袖を引き、なんとかこの劣勢を覆そうとあがき始めた。
(でたわね『真実の愛』…)
「そ、そうだ、たったひとりの人を愛し通してこそ私の『真実の愛』の証明が…」
「でしたら、私、オスカー様を諦めます! やっぱり私のような身分の人間が王太子殿下の恋人になろうだなんて身の程知らずだったんです…」
ジャンヌさんは目に涙をためて王子に訴える。
おっと、これは突然の撤退宣言?
そう来たか!
お花畑な王子は気づいていないけれど、わたくしには分かります。
言葉の端々に『逃げ』の気配を感じますわ。分が悪いと思って逃げることを選択したのね?
なかなかずる賢いじゃない。
気に入ったわ!
「まあ、それは正しいけれど正しくありませんわ」
「ちょっ…」
なんだか楽しくなってきたので、彼女の『真実の愛』作戦もぶち壊してあげましょう。
「お黙りなさい」
二人とも、わたくしの熱演を見るがいい。
わたくしは持っていた扇子で二人をピシャリと指し示し、威厳を持って命じる。
「王族の『愛』は万民にこそ与えられるべきである」
過去、歴代の王の中でも舞台の演目にもなった5代女王『ベアトリス』(わたくしの大好きな演目です)。
姿勢を正し、目を伏せて堂々と、
誇り高い絶大なる指導者を演じる。
「たった一人を『愛する』こと、それは確かに尊いものであるが、王が国民を愛さねば国は成り立たない。故に王たるものの愛は、広く、深く、無限に注ぐくらいでなければならない」
「!!」
「!?」
「全てを愛する覚悟で政をせよ」
完全にわたくし(女王)のカリスマにあてられて固まる二人。
「と、いうことですわ」
「…え?」
「王たるものの愛は無限ということですわ」
「無限…?」
この馬鹿王子、ぽかんとしやがって! 私の言った意味がちゃんと伝わっているのかしら。
「つまり、正妃のほか、側室、妾がいたところで、あなたの『真実の愛』は崩れないということです」
「そ、そうか…」
「でもっ…私は嫌ですっ、私はそんな風に考えられない、やっぱり今回のお話は無かったことに…」
「あら、どうぞそんなことをおっしゃらないで。わたくしはお二人の仲を応援していますもの。わたくしと王子が結婚したとしてもそれは表向き、『真実の愛』はあなたに差し上げますわ」
「そっそんな…」
逃がしません。
わたくしにチクリとでも噛みついた人間が今後はむかう気力が怒らないよう徹底的に懲らしめてやらないと気が済みませんから。
あとなんだかちょっと面白くなってきちゃいました。
「わたくしと王子は政略結婚ですもの、気になさらないで。むしろわたくし、こうして色々なお話ができるお友達が欲しかったの」
「は?」
「ジャンヌさん、あなたわたくしのお友達になってくださる?」
「それはいい!」
(くそ)王子が光の速さで賛同した。
自分の女(達)が仲良く共存する世界。
殿方ってこういう展開好きよね。
「……光栄です」
ギリギリと悔しがる彼女の姿に溜飲が下がる。
ふふふ、そうよね。そう言うしかないわよね、貴方の場合。
王子を手玉にとって思い通りにする作戦、きっちりお返しして差し上げました。
このお花畑王子なら、誰でもこれくらいはできる事をお忘れなく。
そしてあなた、ジャンヌさん。
あなたのその野心と気骨、行動力はなかなか素晴らしいわ。そういうポジティブで前向きなずる賢さ、わたくし嫌いではありません。分が悪いと見ると撤退を選ぶ潔さも好印象。
わたくしに嚙みついたりさえしなければこのまま支援(飼って)差し上げようと思うのは本心からです。
将来わたくしに子ができなければ側室を迎えるのは十分あり得る未来ですから。わたくしその件では覚悟済みです。いまさら悋気を起こしたりはいたしません。
それに後ろ盾が無いと言うことは逆に御しやすいと言うこと。
彼女が本当に側室になる未来があっても良いかもしれませんね。
ただご学友共、お前たちは再教育だ。覚悟しろ。
終わり