第四章 一話 目当ての人材はアルバイト
「明日のゴルフのご予定ですが……」
「またゴルフか。なんで経営者にはこうゴルフ好きが多いんだろうな。平日は忙しいというのに」
毎週平日にゴルフの接待を組まれるのが不満なのか、老人が椅子に座って紙資料を読みながらつぶやいた。
老眼で文字が見難いのか、紙を持った手を遠ざけて目を細めていたが、諦めてデスクに置かれた老眼鏡に手を伸ばす。
「明日のゴルフのご予定ですが……」
「今時、紙資料をよこす奴がいてのう。パソコンなら拡大できて読みやすいのに。それが分からんのかなぁ。今度からデータでよこすように言っておいてくれ」
「……」
いつもならすぐ返事をする黒髪の女性が黙り込んだので、気になった老人が彼女を見上げると急に表情を変える。
「す、すまん。明日のゴルフの件だったな?」
彼女は特に感情を表に出すこともなく、澄ました顔でただ真っすぐに前を見ているだけだが、その表情が意図するところに気付いた老人は慌てて話の続きを促した。
「はい。プレーが終わった後ですが、子会社の長谷川取締役より、新規オープン予定のアウトレットについて、視察要請が来ています」
「長谷川は今、コンビニ会社の役員だろう。なんで彼がアウトレットの視察を私に要請するんだ?」
「そのついでに会って欲しい人材がいるそうです」
「ほう。長谷川が言うくらいだ。きっと面白い奴なんだろう。コンビニ会社の社員か?」
老人のその問いに、黒髪の女性はゆっくりと首を横に振った。
「コンビニのアルバイトです」
「そうか。アルバイトを私に会わせたいとは、よっぽどの人材なのだな。ならば今回は、人の潜在能力を見極める私の特技が活躍しそうだのう」
老人が得意げに黒髪の女性を見ると、彼女は何も言わずに微笑みで返した。
次話は過去に投稿された以下の短編です。
『五年務めたコンビニをクビになった。客との無駄話が多いからだと言われたが、いつも愚痴を聞いてあげた客がコンビニ会社の役員だと後から判明。』