第三章 一話 部長らしくとは
「ところで彼をすぐに実践投入するのか?」
「ええ、そのつもりです」
横に立つ黒髪の女性を心配そうに見た老人は、彼女の返事を聞いてから正面に立つ三十代の男性を見やった。
「して、お主の役どころは何だ?」
「はい、部長です」
「まあ、お主くらいの年齢でも親会社からの出向なら部長はあり得るか」
「少し不安ですが、一生懸命頑張ります」
男性の返事に老人は口をへの字にする。
明らかに意に沿わないといった様子だ。
「なんだか、部長らしさが感じられん。もっと余裕に満ちた喋り方をしてみろ」
「それでは。……副社長、どうぞ私にお任せいただきたい」
「う~む……。何か頼りないのう。なあ、彼はまだ早い気がするがのう?」
また不安そうに黒髪の女性を覗き込む老人に、彼女は大げさに作り笑顔を浮かべた。
「彼には私が指導しました。現場には私が同席します。これで不安であれば、それは私に不安を感じていらっしゃる、つまり……そういうことでしょうか?」
「あ、い、いやそんなことはないぞ。お主を信頼しておる。うむ、きっと大丈夫だ。そんな気がする!」
彼女はあくまで丁寧にそして綺麗な声で話した。
だが何故か不思議な威圧感があって、急に室内の空気が張り詰めたためか老人が慌てて発言を撤回した。
「ねえ貴方」
副社長の反応を見た彼女は男性の方に顔を向けると、凛とした、だけど少し強い口調で語り掛ける。
「今回副社長はご一緒されません。ですがその分、期待をされているのです。分かりますよね?」
「は、は、はい!」
慌てて返事をした男性は緊張で委縮しており、黒髪の女性はそれを気遣うように微笑みかけたが、その微笑みに怯えたのか余計に彼が縮こまった。
「こ、この部長、大丈夫かのう……」
また彼女に聞かれたら困るからか、老人が小声でつぶやいた。
次話は過去に投稿された以下の短編です。
『会社の朝礼が断罪イベント化して、クソ上司がセクハラで窮地に立たされたけど仕留め損ねたので、俺が奴から受けたパワハラの実状も追加してやった。』