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新しい日常


 夏休み明け。

 いつもより早く仕事し始めた目覚ましにたたき起こされると、身だしなみを整えてからリビングの方へ向かう。



「ふぁあ…………おはよう、母さん」


「おはよう、誠」



 鼻先に漂ってくる美味しそうなみそ汁の香り。

 同時に、レンジの音が鳴り響いて、おかずとご飯が机に置かれる。



「あれ?透は…………って、そっか」


「ふふっ。今日は、さすがに来てないわよ?」



 最後の方は、ほとんど毎日透と会っていたこともあり、違和感が拭えない。

 しかし、学校に行くついでに寄るには、方向が違い過ぎる。

 逆に、来ると言っていたとしてもきっと止めていただろう。



「だよな。まだ、寝ぼけてるみたいだ」


「そうみたいね……まぁ、早希とは違って、ちゃんと起きてくるところは、さすがは誠って感じだけど」


「…………確かあいつ、今日は早く出るって言ってなかったっけ?」


「ふふふっ。そう思って起こしたら、寝癖も直さず走って行ったわ」


「ほんと、アイツらしいなぁ」



 何があるのかは知らないが、めちゃくちゃ大事と思わせぶりな態度をしていた割には、普段と全く変わらない。

 というか、恐らくそれほど大事な用事でもないだろう。

 きっと、まだ少しだけ終わっていない宿題を友達に見せて貰うとかに違いない。



「そうね。ある意味、一番変わらないのはあの子かも。誠は、もう変わっちゃったみたいだし」



 何か含んだような言葉に、みそ汁を啜って聞こえないふりをする。

 さすがに、改めて言われると少し気恥ずかしい。

 何を今さらと、思われるかもしれないけれど。



「照れてるの?今ごろになって?」


「…………まぁな。透が久しぶりにいないから、余計にさ」


「あー、確かに、それはあるかもね」



 その時は気にならなかったことが、後で冷静になってみるとそうではなかった。

 遠慮しがちな癖に、そのことに関してだけはガンガン行こうぜを崩さない透の行動は、それこそ積極的で、振り返ってみるとなかなかだったなと、思わされてしまう。



「ごちそうさま。美味しかったよ」


「お粗末様。そういえば、今日はお弁当はないからね」


「わかってる。学校で透に貰う」



 毎週月曜日と金曜日はお弁当の日。

 弁当箱を返しに行くまでが一セットのそれを、いつにするかはひと悶着があった。


(…………さすがに、毎日はな)


 休みの日以外、うるう年まで計算に入れたスケジュールは申し訳ないながらも却下した。

 会いたいのはわかるし、俺もそうしてあげたい気持ちもある。

 でも、家族との時間以外を全てというのは極端が過ぎる。

 

(きっと、それは透にとっても、俺にとっても、いいことじゃないはずだ)


 二人だけで生きていくことなんてできない。

 たとえ透がどれだけ才能に溢れていたとしても、神様じゃないのだ。

 それに、そんな風に透の可能性をすり潰していくのは絶対に嫌だった。



「……今日は、夕飯も一緒に食べてくるから」



 でも、会いたいという気持ちは当然ある。

 一緒にいたいという気持ちも、透に負けないくらい。

 だから……いや、そうだからこそ。俺はそれを律しなければいけない。

 

 自分のしたいことと、相手にさせてあげたいこと。


 ただそれをするだけじゃ、ダメなんだと、最近気づいたのだ。

 親父と母さん、二人が稀に見せた厳しさをふと思い出して。



「はいはい、わかってるわ。じゃあ、行ってらっしゃい」


「行ってきます」



 長いようで短かった夏休みが終わり、今日からまた見慣れた毎日が始まる。

 たぶん、透が言っていたことからすれば、学校ではほとんど関りを持たず、変わらないように映るのだろうけど。

 

 それでも。

 やっぱり違う。


 だって、これほど、毎日が楽しいなんて。

 そんな風に思ったことは、前ならなかったはずだから。

















短めです。ここで切るか、少し迷いましたが一旦ここで止めます。

学校編はそれほど長くする気はありませんが、ここの場面と連続させたくないないなと、思いましたので。


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