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香りのトリコ  作者: 佐藤琉奈
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出会い

「美菜も登録してみればいいのに。」

昼休みのランチ時に同じ総務部の渡辺真由子は私にそう言った。

「そうだよ。私は彼とラブラブだからアプリは不要だけど。美菜ももうちょっと結婚のことを考えてみたら?」

と同じく同僚の後藤里恵が言う。

私は沢田美菜。たしかに結婚を焦り出す28歳。彼氏いない歴4年になる。

学生の時から付き合っていた彼は就職してお互いに忙しくなって、しばらくしたら向こうが社内の人と浮気して別れた。

人を裏切ることは案外簡単なのかもしれない。

環境が変わったから、なかなか会えなくなったから。そんな理由であんなに愛し合っていたものが、あっとゆう間に崩れていく。また裏切られるかもと思うと自分から恋愛なんてしようとは思わなくなった。


ここは、ある業界内の中堅的な会社で、社員も男性の方が多く、美菜が入社して2年目ぐらいまでは、何人もの社内の男性に告白されてきた。

だが惹かれるような男性はいないし、今はもうそれすらない。

よく言われる言葉は「沢田さんて彼氏いるんでしょう?」だ。

いないのにいると思われる。どうも顔の作りがいるように見える?らしい。

体は痩せてはいないが太ってもいない。顔は父親の家系譲りの顔立ちで、目が丸く大きく口が小さい。ちゃんと見ているのに、どこを見ているのかが分からないような感じ?らしい。

「アプリかぁ、そこまで思わないってゆうか、、」

最近の婚活系アプリはなかなかいいとは聞いているけど、んー、気が進まない。

もし私が恋愛を意識するようなことがあるとすれば、一瞬で惹かれるような衝撃的な出会いが欲しい。なんて言えない…


「てゆうわけで、今日相手とデート行ってくるんだ。笑」

「あの気になってた人? いい人だといいね!」

「おー頑張って~」

「あーそろそろ戻らないと。急いで」

入社して三日目の時に私に声を掛けてくれたのが真由子と里恵だった。それからずっと仲良しの同期。

仕事上、残業がほとんどないのでよく三人で仕事終わりに一杯飲んだり出掛けたりしていたが、里恵に彼氏が出来て、真由子は婚活で忙しく、予め予定を立てておかないと三人で出掛けるのは難しそうになった。


「おつかれさま~」

真由子はそそくさと、まるでスキップをしているように退社していった。それを見て私と里恵は目を合わせてクスクスと笑った。

「せっかく週末なのにね、また今度三人で飲もうね!」

里恵は少し申し訳なさそうな素振りで美菜に言った。

「うん、そうだね。計画立てないとね。笑」

そう言って里恵ともバイバイした。

これまでは終業してからよく三人で一緒にいたけど、ひとりだとなんだか時間を持て余してしまう。

ふらふらっと歩きながら、何かいい時間つぶしはないかとふと目についたのがジムの看板だった。

ひとり飲みも考えたけど、一旦ちょっと覗いてみようかな?運動不足には間違いないし。とそのビルへ入っていった。


エレベーターが開いてすぐ前に受付があった。

「すみません、ちょっと見学したいのですが。」

受付にいたのが30代後半くらいの男性で「長野」とネームプレートが胸に付いていた。

「ありがとございます。ちょっと待っててくださいね。」

そこへちょうど通りかかったようなスタッフの男性に

「あ、金崎くん。見学案内してくれる?」と声を掛けた。

「あ、はい。」と言ってその人が振り返ると、なんとなく少し不思議な違和感がする。なんだろう。

「金崎です。よろしくお願いします。」と軽く頭を下げた。まただ。なんだろうこの不思議な違和感は。

年齢は私より若そう.24、5歳くらいかな。さすがにいい体つきをしている。

「金崎」とネームプレートがついている胸が、細くひかえめだけど筋肉でガッシリしている感じが分かる。

短髪ではなくて真ん中分けにしている髪をかきあげる仕草が可愛らしい。

私がなぜ違和感がするのか、原因を確かめたくてついガン見してしまう。


「沢田さん。」

「は、はい。」金崎くんの顔が目の前にあって慌ててしまった。じっと私を見ている。

「えっと、沢田さんてフィロシコス使ってます?」

ああ!これだ。私の感じた不思議な違和感は。

「そうです。ディプティックのフィロシコスです。やっぱり同じですか?」

「まさか同じのをつけている人に会うなんてちょっと驚きました。ディプティックでも女性だとローズ系をつけてる人が多いので。」

「私もびっくりしました。同じのを使っている男性に会うのは初めてです。」

香水をつけた手首を金崎くんの鼻先に近づけた。

「あー、これこれ。人によって少し香り方が変わったりするんですよね。俺のはどうですか?」

と言って手首を私の鼻先に近づけた時にちょっと鼻に手首が触れてしまった。

本当だ、確かに同じ香水なんだけど、金崎くんの香りはウッドの香りが強くそれにほんのり甘さの入った感じ。

ってゆうか、この光景にクスッと笑ってしまった。金崎くんの顔を見たら一緒に笑っていた。


ディプティックはフランス製でソープやアロマキャンドル、香水などを販売している。

香水は主に花をモチーフにした様々な種類があって、フィロシコスはイチジクをベースにしたウッド系の香りになっている。

一気に金崎くんの好感度が爆上がりしてしまった。

ちょっと大きめな一重の目が少し三白眼で、顎がシュッとしたところが余計に艶っぽく見えた。

ああ、でもモテるんだろうな。彼女がいるかもしれないし。

これもいい出会いと思って自分の活力になるかもしれない。

「あの、きっと何かの縁なので入会することにしました。笑」

「あ、ありがとうございます。」「俺も超嬉しいんですけど!」

入会手続きを終えてビルを出た。

運動不足を解消する為に走ったりエアロバイクに乗ったり、少し動ければいい。暇を持て余しているより有意義な時間だ。

いい意味で『なんて日だ!』こんなに心が弾むように軽くなったのは久しぶりだった。

なんだろうこの感覚は?久しぶり過ぎて困惑する。一目惚れなんてしたのは学生時代ぶりだ。

同じ香水を使っているなんて運命でしかない。

とにかくまた会えるのを待ち望んでいる自分が、なんだか少し20代全般の頃に若返ったような感じがした。


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