プロローグ
「それでは 行ってきます」
そう話すと、僕はいつもの農作業用の足袋を履いて出掛ける。
僕の過ごすエルドワルド地方では農業が生活の基本スタイルとなっている。
イメージ的には日本の農村地帯を考えてくれればいいと思う、
ーーん?日本ってのは何処だろう。
「利道。気をつけてね」
少しボーッとしてしまった僕を、考え事をしていると勘違いした母親が声をかけてきた。
「うん。それじゃあ行ってきます」
荷物の確認を改めて行った後、僕は玄関を開けて外に出た。
田んぼに向かって歩いている間、自己紹介でも行ってみたいと思う。
「名前は歩利道。歩というのが苗字であり、利道が名前である」
ーー声に出すと恥ずかしいな
「まぁ、無理に覚える必要もないし、この小さい村だから知らない人もいないしね」
独り言のように話しながら農道を進んでいくと目標としていた場所に着く。
自分たち歩家が管理担当している農地一帯である。
「おう利道。やっと来たか」
これから行う田植えの苗の準備をしながら父親である利裕が僕に声をかける
「ここに残っている苗をあそこから一列に並べている途中なんだ。
悪いが今日はこれをやってくれ」
そう話すと、利裕はもう一方の苗の塊をもって逆方向へ進んで行ってしまった。
ーいつものことだしね。
そう思いながら、ひとつため息をつくと
「分かったよ」
そう話して利裕と反対の方向へ苗の塊を持って進むことにした。
「仕方ない。とりあえず始めようか」
苗の塊を小分けにして苗を等間隔で置いていく。
僕の家庭は農業を生業としている一家だ。
今は丁度田んぼの時期のため、今日は苗植えの準備をしている最中である。
とはいえ、俺の自宅周辺に住む人たちのほとんどが農業で生計を立てているのだけど、、。
「っと、無駄口を叩いていると、またどやされちゃうな」
そう一人愚痴ると作業に取り掛かる。
しばらく黙々と作業に没頭していると、ふと自分の手元に影がさした。
ー雲で曇って来たのかな。
手元が暗くなり、太陽の様子を見ようと顔を上げようとしたところ
「今日も頑張ってますなぁ」
と声をかけられた。
「・・・安冨?」
帽子のツバで足元しか見えなかったので、一回伸びをして掛けてきた声の主を確かめる。
顔を上げると、安冨と太清の二人が笑顔で立っていた。
「俺もいるんだけどな」
そう頬をかきながら太清が話す。
二人が来たということは
「なにか約束の日だったっけ?」
わざわざ二人が来たのならば何かしらの役をしたのだろうけど、心当たりがない。
ーーうーん。まったく思い出せない。
「時間の指定はしなかったけどな。
今日は、安冨の誘いで寺子屋を見にいく予定だっただろ」
そういえばそうだった。
先日、久しぶりに集まった際にいずれ通うことになる寺子屋の様子を見にいく約束をしたんだった。
「ごめん。すっかり忘れてた」
素直に謝ると、二人は苦笑いで許す。
「たぶんな。そうだと思ったから様子を見に来たんだ」
そう話す太清の横で安冨がウンウン頷いている。
忘れてた俺が言える義理でもないけど、少しはフォローしてほしいな。
そう思いながらも、約束を思い出した俺は反対側で作業を行っている父親に声をかける。
そんなことを言っていたな。と特に叱ることもなく返事が返って来た。
離れていたため、少し大きな声になってしまったが声は届いたようだ。
「昼飯を食ったりなんだりあると思うが、午後からは手伝ってもらうぞ」
と、大きな声で笑いながらそんなことを言い始めた。
「分かりましたよ。午後は手伝いに戻ります」
そう返事をすると、再度大きな笑い声を上げ、行ってこい。と送り出してくれた。