ブラック企業によるルームシェア
友達がいなくともルームシェアは出来る。
不動産屋が勝手に見繕って連れてくるのだ。
俺は二月ぶりの同居人を見つめ、彼も長続きしないだろうと思った。
大学生のような若さの彼は、雑誌の組み合わせのような服の着方をしている。
つまり、誰もが好感を持つような彼では、この俺、不動産屋が出て行って欲しいと願っている店子には嫌悪感しか抱かないだろうって事だ。
不動産屋の若き従業員、羽戸十五は住居案内にも拘らず、今日も真っ黒の着古したリクルートスーツを着ており、その服装の適当さが分かるがごとし、この家はトイレが一階と二階の二か所で風呂と台所は共有だと適当な説明をしながら新住人を案内しだした。
ついでに俺から言わせてもらえれば、ここは、二階に狭い寝室が二部屋に一階にはサービスルームという日の入らない納戸があるという2SLDKという一戸建てだ。
持ち主は売りたくて仕方が無いが、売れるに売れないからこそシェアハウスとして貸し出しているのである。
俺は共有だと羽戸が言い張るダイニングに私物のこたつを出しており、そこに入り込みながら羽戸と新住人の様子をボケっと眺めていた。
「初めまして。俺は辰馬優里と申します。」
おお!初めて俺に挨拶して来たぞ!
って、もう一人の同居人への挨拶か。
こたつの中から顔を出したのは、元野良の完全室内飼いのフジシロさんという三毛だ。
三毛猫なのに彼である彼は、人間の俺を追い出したい不動産屋が認めているという、れっきとした徳山シェアハウスの住人なのである。
フジシロさんは新同居人に頭を撫でさせながら、俺に対しては優越感に満ちた視線をチラリと向けた。
猫め、ムカつくと、俺もにらみ返した。
「フー!」
フジシロは体中の毛を立てて俺に威嚇し始め、辰馬は猫の急な行動の変化にうわっという風に驚いた。
するとこの一連の流れを様式美のように知っている羽戸は、脅えた辰馬の肩に腕をまわした。
「なあに、猫は気まぐれって事です。頑張って一年は住んでください。東京の一戸建てに五万円で住めるなんて絶対に無いですからね。」
だから俺は出ていくつもりはない。
貸家となった俺の元自宅。
俺を殺した女房への復讐として俺はこの家に居座り、不動産価値を下げ続けてやるつもりなのだ。