女子会、だよね一応!
ルシタリア君の案内でスレイマンと別れたという部屋まで行く途中、ザークベルム領の騎士という人たちに遭遇した。
彼らから、あのグリフィス坊ちゃんが先陣を切って街の為に今も駆け回っているという事を聞いて私は驚く。あのボンボン、やる時はやるのか。
館内には続々と魔力を持つ騎士や、グリフィスに助けられ館までたどり着けた憲兵や、町会等の責任者たちが集まり、住民たちへの対応等、現状出来る事を可能な限り行っているそうだ。
「へぇ、さすがは領主様ですねー。こんな怖いことが起きたのに、すぐに対処してくださるなんて」
現在の指揮系統のトップは誰なのだろうか?
領主の息子であるグリフィスは外に出ている。それなら領主クリストファが考えられるが、ルシタリア君の話によればスレイマンによりボッコボコにされているようだし、彼らの中で領主は不在という認識で合ってるだろうか。
「……あぁ、そうだな。領主様に任せておけば安心だ。さぁ、君たちは安全な部屋へ避難してくれ。案内しよう」
しかし、詳しい話は、さすがに女子供しかいない私たち(しかも一般人)に教えて貰えるわけもなく、騎士達は私たちを使用人たちが避難している部屋に連れて行こうとしてくれた。
「あ、大丈夫です。騎士の皆さん、大変でしょう? 自分達で行けますから」
「しかし、場所はわかるかい?」
「えぇ、もちろん」
わからない。
しかし、私にはミシュレがついているので、彼女の案内通りの道筋を騎士に言えば、その通りで間違いなかった。
私たちがその場を離れようとすると、対策本部となっている広間の方からパタパタと若い兵士が駆けてきて私たちを呼び止める。
「エルザ様……ですね!!? こちらへいらしてください!!」
息を切らしてそれだけ言う兵士さんは、私たちに何の用があるとか、誰が呼んでるのか等は言わなかったがこの場合、心当たりは一人しかいない。
案内されるままについていくと、地図や沢山の魔術式が刻まれた布などが広がったテーブルや、行きかう人、あれこれ話し合ういかめしい顔の男性たちがいる場所に連れていかれ、そのテーブルの上座(でいいんだろうか?)にいるのは、双子の金髪美女を左右に侍らせたスレイマンである。
「来たか」
なにしてんのスレイマン。という突っ込みは、場所が場所なだけに心の中にしておいて、ぺこり、と頭だけ下げる。
「異端審問官殿、そちらの少女たちは……?」
鎧姿の黒い髭の中年男性が私たちを見て眉を顰める。あとでこの男性は、街の憲兵団の団長さんだと紹介された。
異端審問官、とスレイマンが自分の身分をそうしているのは街に入る時にそう名乗ったというのもあるだろうし、現状都合がいいんだろう、とも思えた。
私たちの登場はこの場において突然で、そして不自然と受け取られたのだろう。見れば、皆、こちらへ注目している。
ゆっくりとスレイマンが溜息を吐いた。
「俺は、異端審問官としてこの街の魔女を狩りに来た。それについては説明したな? 魔女の娘の魂は、イレーネとセレーネの母親のその純粋な心によって浄化されていたが、その事実は魔女という盾を失うことにより、他領地からの侵略を恐れ隠されていた。魔女は再び、ザークベルム家を呪おうとこの館に現れ、そしてクリストファは魔女に殺された」
あ、はい、それが今回の周知されるべき設定なんですね。
私は私に向かって説明してくれているらしいスレイマンに頷く。
「イレーネとセレーネは、弟グリフィスが己の身の危険も省みず魔女の雪の下に身を晒しているのなら、弟に代わって指揮を執ると言うがこういった事に女子供は不向きだ。それゆえ、二人に依頼され俺が現在、この街の、この魔女からの攻撃に対しての防衛の指揮を執っている」
なるほどなるほど、それで……私とマーサさんのポジションはこの場合どうなるんだろうか。
続きを待っていると、そこまで言ったスレイマンは「以上だ」と言い放ち、再び地図に目を落とす。
「いや、説明しよう!!? なぜそこで終わって良いと思ったんです!!? ほら、周りの人たちすごい呆気にとられてますよ!!!? 何でこの場に私を呼んだんですか!!?」
思わずスレイマンに駆け寄って顔を見上げると、スレイマンは小首を傾げる。
「今後の対処の方向性を決めるためだ」
「私関係あるんですか!!?」
「この場に来たお前に怪我があったり、苦しんだ様子であったら街ごと灰にするが、お前が無事なら街は残しておいてやろうと思った」
しれっと答えるスレイマンに、ルシタリア君や憲兵団長さんの顔が引きつった。
そう言えば私はミシュレに呪われて悪夢に落とされ、しかも選択肢次第ではミシュレに体乗っ取られたのかー、と思い出す。
慄く周囲はさておいて、私はスレイマンの左右にいる双子に顔を向ける。
良く似ている二人だが、じっと見つめると少しずつ違う。二人セットならその差はわかるが、一人ずついた場合どちらがどちらか、を気付くのは難しいかもしれない。
双子は何を考えているのかわからない微笑を浮かべ、黙っている。
「セレーネさん、イレーネさん、大丈夫ですか? あの、スレイマンに脅されてたりしません?」
「おい、バカ娘。お前は俺を何だと……」
「スレイマンだと思ってますよ」
スレイマンが自分から望んで対策本部のトップに座っている、というのも変だと思うが、それをこの双子が望んだ、というのも変だし、スレイマンが双子のお願いを聞いたなんてのももっと変だ。
聞いてみても双子はお互い顔を見合わせ、ふふふ、と笑うばかりである。
「スレイマン様には恩があるもの。ねぇ、イレーネ」
「えぇ、セレーネ。トドメは私たちにさせてくれるって約束もしたし」
トドメって何。何の話。怖いんですけど。
この場にいない人間だと領主だろうか。え? 双子にとって父親だよね? それをトドメって物騒極まりないんですけど、っていうか、前向きに考えれば、まだ領主様生きてるってこと? ヨカッター。
私達女性陣(そう言えば全員女の子だった!!!)は対策本部になっている広間の隣の部屋に集まり、慌ただしい廊下に思わず声を潜めながら話し合いを始める。
「あの、すいません。つまり、今どうなってるんです?」
と、この言い出しっぺは私である。
私としてはミシュレを守護霊にできて、魔女の娘の呪いは一件落着……なのだけれど、そもそも、目覚めたら窓の外は雪景色って、これ凄い驚いたぞ。
領主の館はもともとか、それともスレイマンが何かしたのか、館全体が暖かい。それであるから外が雪で覆われていようが何だろうが、あまり恐ろしさを感じないけれど、この大雪の中、一般家庭はどうかと考えれば事態の深刻さがわかる。
だが、雪を降らせた張本人であるミシュレは今、私の側についているので、ミシュレに踊り子たちに雪を降らせないでくれと頼んで貰えればいいのではないか。そう考えたが、ルシタリア君がここで口を開く。
「氷の魔女ラングダが現れた。彼女はこの雪で、この街が滅びることを道理だと考えているようだが、シモン……いや、スレイマン、と言うのが正しいのか? 彼により、魔女ラングダは抑えられている筈だが……」
「逃がしてしまったのよ、残念だけれど。ねぇ、セレーネ、あれって私たちの所為?」
「そうね、イレーネ。わたし達がスレイマン様を刺したから、その隙にいなくなってしまったの。だからスレイマンさんも怒って、街ごと灰にしようかって仰ってたわ」
はい?
「……あの、スレイマンを、刺した?」
ほんわりとゆるふわな金髪美女二人の会話の中に、不穏過ぎるものを聞き私は思わず、近くにいた方、セレーネさんの胸倉を掴んだ。
(え?! ちょ、エルザ……!!? 貴方……ちょっと!! 落ち着きなさいよ!! 体から、泥が沸くわよ!!?)
頭の中でミシュレが何か叫んでいるが、それは今はどうでもいい。
私は胸倉を掴んで引き寄せた、美しい顔を睫毛の本数が分かるほどの近さで見つめ、瞬き一つでもして私から意識を逸らすなと強く睨み付ける。
「刺したんですか」
「……ええ、刺したわ。私たち、お父様をちゃんと刺せるか心配だったの。だから、無関係で見知らぬスレイマンさんをまず刺してみたわ。とても怖かったし震えた。でも、スレイマン様を刺したから、あぁ、刺してしまったんだわって思って、体が熱くなって、それで、お父様をたくさん刺せたの」
私は理由なんかはどうでもいい。そして、スレイマンは今回は無関係だったが、本来道を歩いていたら突然、かつての関係者に刺されるようなこともあるだろうと、そういう人間だと私は思っているし、実際そうなんだろうとも思う。
でも、そうであっても、私はスレイマンを傷付けた人間を憎むらしい。
ふつふつと自分の中に湧き上がる重くドロドロとした感情のままにセレーネさんを見つめ続ければ、ふわり、と私の視界は背後からの柔らかい白い手でふさがれた。
「ねぇ、待って? エルザちゃん。怖い顔、しないで?」
「マーサさん」
「そうね。お茶を入れましょう? テオさん、手伝ってくれる?」
「手伝うと言うか、僕がやるから君は絶対に、何にも触れないでくれ」
柔らかな声が私の耳に入り、体の力が抜けた。
「……スレイマンって、案外忍耐強かったんですねー」
「スレイマンさんはエルザちゃんのためにたくさん我慢してると思うわ。知らなかった?」
「知らなかったですー」
あはは、と笑いながら私はマーサさんの膝の上に乗る。
私を刺したクロザさんとか、焼いたモーリアスさんとか、スレイマンはよく許してくれたな。私は今、スレイマンを刺したという二人をどうすれば刺せるのかとそんな事ばかり考えているのに。
私はお茶を入れようとするルシタリア君を手伝い、魔法のテーブルクロスでお茶を沸かす。お茶ッパはルシタリア君が魔術式で出した……ん?
「……魔術式でお茶の葉が……出せる?」
「知らないのか? 商人の間では商品を魔術式に取り込んで布一枚、軽量化してるんだ。僕は普段、何かあった時の為に商品のいくつかを布に取り込んで持ち歩いている」
え、何その技術知らないんですけど。
聞けばその魔術式を発動させるには魔力がいるが、ルシタリア君は魔力を込めて貰った指輪があるので、それを使用して……ねぇ何その技術、私知らないんですけど!!!?
「魔術工房には持ち込んだ物を魔術式に収めてくれる所がある。安くはないから一般的に普及はしていないが、魔術師や商人の間ではそう珍しいものではないぞ?」
ルシタリア君は料理対決であれほど贅沢に魔法やら魔術を使った私がそういう事を知らないのは意外だったようで、不思議そうな顔をしながらも説明してくれる。
……そういえば、これまで魔術式って詳しく聞いてこなかった。何か便利なもの、ってイメージだけだったけど……魔術工房とか、一般世間に普及してる魔術の道具とか……そう言えばあるよね、うん……。
そして私は気付く。
スレイマン絶対使ってるだろ。良く考えたらラグの木の粉……料理対決用に大量に使ったけど、あれどこに仕舞ってたんだよって話だよ!!!!!
あの時はマーサさんに「助けてなんて頼んでない」とか言われたショックで細かいこと考えられなかったが……。そう言えば、籠を背負っている私と違ってスレイマンは、荷物あんまりなかったよね!!!!
「ちょっと待ってくださいよ。物を魔術式に取り込むことが出来るって……それなら出前とか簡単に出来るじゃないですかー、もう、レストランの為の外食産業開発……一気に進みますよ? これ。もう、もっと早く知りたかった!!!!」
そうか……さすが、異世界だよ、と私が今更ながらにファンタジー世界に驚いていると、マーサさんがコロコロと笑う。
「エルザちゃんはやっぱりこうして笑っている方が良いわ」
いえ、私の中では双子は刺すと決めてますが、マーサさんが楽しそうなのでそれは言わない。
さて、お茶も沸いたので、女子会というか、五人で足首まで埋もれるほどの毛の長い絨毯の上に座る。
「街への連絡や救助等はグリフィス様やスレイマン氏により行われるだろう。僕としてはルシタリア商会も倉庫を開き、街の為に使いたいと考えている」
なのでルシタリア君は私たちと話をした後、隣部屋に戻ってルシタリア商会代表として行動するつもりだそうだ。
「冬の踊り子たちはスレイマン様が半分燃やしてしまったから、今は皆怯えて動けないでいるようよ」
と、これはイレーネさんの言葉。
成程、私が見た時はもう上空にいた踊り子は半分になっていたのか。それでもかなりの人数だが。
(ミシュレ、踊り子たちは街から出て行ってもらえないでしょうか?)
私は心の中でミシュレに話しかける。
(無理ね。―――今、皆はお母様の言葉を待ってる。私の声は届かないわ)
成程。
魔女はスレイマンから逃げたと聞いている。それなら、スレイマンが探そうとしても、必死に逃げるだろうが、スレイマンが見つけ出せないわけがない。こちらの問題はもう片付いたと考えていいかもしれない。
「ルシタリア君は商会の人間として隣の部屋に行く。イレーネさんセレーネさんは、領主の娘としてスレイマンの隣に立っていると、便利……。街の事は大丈夫。踊り子たちも、何かしようものならスレイマンが燃やす……」
お茶を飲んで、ルシタリア君と双子は隣の部屋に行ってしまった。それぞれ、自分の立場や能力で出来る事をする、のだろう。
マーサさんと二人きりになり、私は唸った。
私、やる事ないな?
炊き出しでもすべきか、いや、食料が今後どうなるかわからないのでうかつに手を出すべきではない。
「ねぇ、エルザちゃん。私、会いたい人がいるの。一緒に来てくれる?」
「魔女、とか言いませんよね?」
「違うわ。ちょっと、ご挨拶したい方がいるのよ。なんていうか……私は一度、殴ってもいいんじゃないかって思うの。っていうか、殴りたいわ」
にっこりと微笑むマーサさんに、私は顔を輝かせた。
「えっ!? 誰です!? マーサさんがぶん殴りたいなんて!! グリフィスですか!! あのバカ息子ですか!!!? それともすべての元凶の領主ですか!!?」
あの大人しく聖女なマーサさんが過激発言!!
しかし、この館に無理矢理連れてこられ色々勝手に巻き込まれたマーサさんにはその権利がある!! と、私は主張したいし、そのための協力は惜しまない!!
私が嬉々としてマーサさんの手を握ると、ドゥゼ村の心優しい村娘は相変わらず優しく柔らかい笑顔で、首を少し傾けてから答えた。
「ロビン様よ」
え、誰?
Next
軟禁されてても、色んな点と点を知って最終的に結んだマーサさん。
平成最後のコミケ……行きましたか。私は仕事でした。ちくしょう。
最近夜勤とか夜勤とか夜勤とか主に夜勤でストレスが加速して課金ガッチャってます。誰も来なかったけどね。次の戦は剣メ○ブです。