村を発見したので移住したい、駄目?
かき氷、それは食べると頭がキーンとなり、段々なんか体温が下がってきて最終的には寒くすらなるのだが真夏にはぜひとも食べたかった子供時代の夏休み。
そもそも氷を夏に食べる、なんて発想ができるのは人類の文明の発展のたまものだろう。
冷蔵技術が存在し長期的な保存が見込める、または長期的に保存をするだけの生産力がある、もしくは今後を見越して保存しておくべきという判断のもと集団が協力しあってこそ可能となるものだ。人類万歳!
日本ではかのサバサバ系女子清少納言が枕草子にて「上品なもの」「良いもの」として記述している。
当時、真夏に氷を食べるなんて滅茶苦茶贅沢なことができるのはかなりの限られた特権階級のみだっただろうが、私の時代で例えるならイ○スタにてちょっとおしゃれなもの、と紹介するようなものだろう。違うか。
そんな特別な夏の菓子だったもの。それがどこのご家庭も冷蔵庫が当たり前のように購入できるように経済が成長し、冷蔵庫を製造する工場が稼働し、物流が滞りなく流れるようになって、どこでも当たり前に氷が作れるようになった。かき氷機さえあればいつでも簡単に作れるし、買ってきたものを冷凍庫で保存しておいて自分の好きな時にいつでも自由に食べられるようになった。
夏にあたりまえにかき氷を食べる、ということはなんと文明的なのだろう?人類万歳!!!!
「そう、つまり暑い日に氷を食べるということが文化的な生活の第一歩なのではないかと私はかんがえるのです」
「魔術で氷を出せないかと言ってきたので怪我でもしたのかと多少なりとも心配してやったこの俺に今すぐ謝れバカ娘」
こんばんはからこんにちは、ごきげんよう!野生系転生者のエルザです。
今日こそは村が見えてくるんじゃないかと出発してもう半日、お昼も食べ終えすっかりおてんとうさまが真上に来てしまって暑くて仕方ありません。
こういう暑い日にはかき氷では?と考えてしまったものだからもうしょうがない。
私は折角便利な魔力とか魔法的なものがある世界なので、こんな暑い日にも便利に氷とか出せないものか、と旅の連れであるスレイマンに聞いてみた。
私が氷が欲しいと言うとスレイマンはすぐに立ち止まり、私の体をあちこち確認するように触って「どこかひねったのか」「暑さで気分でも悪くなったのか」とぶつぶつ呟いた。それで、かき氷の話をすると髭とボサボサの髪のオッサンは顔を引きつらせノンブレスで先程の台詞を言い放ったのだ。
「そのけんにかんしましてはまことにもうしわけありません」
「普段三歳児とは思えないほど流暢にしゃべってるくせになんだそのしらじらしい発音は」
言ってる内容は幼くないぞ、とスレイマンは吐き捨てる。
「スレイマンはかき氷が食べたくありませんか?」
「氷の菓子か。氷そのものを食べる、というのは聞いたことが無いぞ」
「冷たいお菓子ならあるんですか?」
「あぁ、かなり甘いスープをできる限り冷やして小さく切った果実を浮かべたもなどが贅沢品として貴族の間で食べられている」
「ほうほう。フルーツポンチですね、それ」
嬉しいことに最近のスレイマンは私と会話をしてくれるようになった。それとなくこの世界の文化を聞いてみれば「そんなことも知らないのか」と尊大な態度を見せてからではあるけれど、あれこれと教えてくれる。
この世界の食文化は残念ながらあまり発展はしていないようだった。スレイマンがその辺のものに興味なかっただけ、という希望はまだ持てるけれど「貴族の間で出されているもの」と前置きされて語られる料理は…なんというか…多分、ソース文化だ。
素材をそのまま調理し!あとは味のついたものをぶっかける!以上!!調理方法までは確認できなかったけど多分ゆで汁とか普通に捨ててる!!確認する日が来るのが怖い!!!!でもしないではいられない!!!
「かき氷、おいしいですよ」
「ただの氷だろう」
「こう、雪みたいにするんですよ。専用のきかい…道具で削ったりして。それで砂糖蜜とか、砂糖漬けにした果物をソースにしてかけたり……もう一回ききますけど、氷、だせないんですか」
駄目だ、こう想像したらどんどん食べたくなってくる。
クイックイとスレイマンの服の裾を掴みながら見上げれば、眉間の皺が深くなった。
「俺が飲み水は魔法で、体を洗う水は魔術で出しているということはわかっているか?」
「すいませんわたしさんさいじなんでちょっと……」
「三歳児には難しい話ならここで打ち切るぞ」
「私とても賢いから大丈夫です。さぁお願いします」
歩きながらピシッと背筋を伸ばし、少し前を行くスレイマンに敬意を示した。何度目かの溜息をつきつつも、スレイマンは口を開く。
「たとえばいつもたき火に使う火があるな?あれは魔術で「火」を起こしている。魔術で生じる火は魔力のない人間が道具を使い起こす火と同じものだ」
「ふんふん、水かけると消えますもんね。薪足さないといけないし」
「あぁ。そしてお前があの森でマーナガルムにあたりまえのように出させていた火は魔法により生じるもの。聖なる炎はただの自然の火ではありえないことが出来る、ここまではいいか?」
私は頷いて、母さんの火を思い出した。
あれは私が燃えて欲しいと思ったものしか燃えなかった。
「魔術というのは魔術式を書きその式に魔力を通して発動させるもの。複雑に組み合わせれば魔法に近いものを発動させることもできるがな」
「つまり、魔術で出した水は魔術式によって空気中のすいぶんとかを変換して水にしてるものであんまり綺麗ではない?だから魔法で出せる綺麗な水を飲み水にしてる、ってことですか?」
「第一式ではなく第三式での魔術を使えば飲み水に適したものになるが、それなら魔法で聖なる水を出せばいい」
なるほどなるほど。
スレイマンは水道水を飲むならペットボトルに入ってる天然水をお金出して買う派らしかった。
「つまり魔法で出す氷でかき氷を作るべき、という事ですね?わかりました。器とソースの準備は任せてください。氷、お願いします」
「なんでそうなる」
いや、だって魔術で出すより魔法の方が良い氷だって話だよね?今の。
むしろこの流れで氷を出さない、なんて結論に至れると思っているのだろうか?
私はじぃっとスレイマンを見上げ「スレイマンはかき氷たべたくないんですか?」と聞いてみる。
「……………」
無言で見詰め合うこと暫く。
だが食に関しては私の意見が通らなかったことは一度もなく、やがてまた溜息を吐いた後、やけくそになったスレイマンが草原にクソバカでかい氷の柱(半径2メートル、高さは高すぎてわからなかった)を突き立ててくれた。
「……ゴルダガ大陸に存在する炎竜すら串刺しにしその高熱を奪い取る、高位魔法だ。削れるものなら削ってみろバカ娘が」
「なるほど!とってもありがたい氷なんですね!わかりました、レッツクッキング!!!!」
うわ、氷すごいわぁと私は月並みな感想を口にしてからもう愛用ナイフとなっている母さんの爪を持って氷の柱に近づく。
周囲には白く冷気が目に見えて漂っているが不思議と私は寒くならない。なるほど、私を害することはない不思議火と同じらしい。なので遠慮なく私は母さんの爪でガリガリと氷を削り鍋の中に入れていく。
鉄製の鍋なら冷たくなって溶けるのを遅くできるはずだ。
「……あぁ、そうか、このバカ娘にはマーナガルムの爪があったな…削れるに決まっていたな」
眺めているスレイマンはどこか遠くを見ている。なんか申し訳ない。
私は十分な量を確保し、ほくほくとスレイマンの所まで戻った。
「かき氷…ふふ、ふふははははは!!!!かき氷ですよスレイマン!!今ならあなたをスノーマンと呼び親しめる!!!!!」
ハイテンションになった私にスレイマンは無言無表情を貫く。私もそこは反応を期待していないので、ひとしきり馬鹿笑いした後、二人で木陰に腰かけ、私は小さい器に削った氷を山盛りに入れる。
やはり定番の砂糖蜜をかけた「みぞれ」にすべきか?だがスレイマンには人生初のかき氷である…シンプルなのではなくもっと豪華に…インパクトを取るべきか……?
一緒に旅しているのでスレイマンの味の好みは徐々に把握できているはずだ。甘い物は嫌いではない男……魔法で態々氷も出して貰った…ならば…私も材料は惜しまない!!
私は自分の「食材バック」と称しいつも背負っている葛籠から残り少なくなった木の実やベリーににた実と山羊の乳、と、そこから作ってみたカッテージチーズ(酢で牛乳を分離し固めたもの)、果実の汁を取り出した。
「まず、このチーズに牛乳を入れて…ソースにする…と」
そこにさっぱりとした風味の果実の汁を加えるとチーズケーキのようにさっぱりとしたソースが出来る。
器に山盛りになった氷の上にベリーに似た実を見た目よく飾りソースをかけて、簡単だが完成!!!
「さっぱりしている!でも甘い!そして酸っぱさもある!!!!冷たくておいしい」
「……なるほど、悪くはない」
木のスプーンですくって食べれば、求めていた「冷たくてあまいもの」が喉を通っていく。目を細め、満足げに頷くとスレイマンがじっと、自分の手を見つめていた。
「?どうかしたんですか?」
「……魔力が戻っている」
「へえ、よかったじゃないですか」
少し休んだからだろうか。魔力の詳しいものがよくわからないが、体力みたいなものだろうと勝手に思っているので、まぁ、戻ったならいいんじゃないか?
「……ただ回復したというだけではないようだが…」
「うん?」
「……カブラの乳に、女神イシュトハの氷柱…それにあの森の植物……」
ぶつぶつ呟き、一人で納得したらしいスレイマンは「まぁ、そういうこともあるだろう」と言ってから再びかき氷を口にし始めた。
「おいしいでしょう?」
「変わった食べ方をする」
続けて食べているとスレイマンも頭がキーンとしたのだろうか、顔を顰め目を伏せ眉間に指をあてている。それが面白くてじぃっとみていると、目を閉じたままスレイマンが「で?」と短く問うてきた。
「はい?」
「満足したか?」
「はい、とっても。ありがとうございます、スレイマン」
ぺこりと頭を下げて感謝を伝えると、スレイマンはフン、と小馬鹿にしたように笑った。
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「よそ者を受け入れる気はねぇ」
「わかりました。外側で寝泊まりします」
やっとたどり着きました初めての人里、村。山間にある、なんかいい感じにさびれた村。
木で柵が作られており、そこにいる槍のようなものを持った村人Aに宣言され私はめげずに答えた。
三歳児が口答えしたので一瞬村人Aの顔が不快だと言わんばかりに顰められるが、私の後ろにいるスレイマンの「身なりは粗末なのになんか全体的に偉そうなオーラ」に何も言わずにいる。
「我々は長く旅をしてここまで着いたのだ。俺はともかくとして、娘だけでも村に受け入れてはくれないか」
「駄目だ」
「礼はする、と言ってもか」
私とスレイマンの設定は「戦争で故郷を失った親子」である。
もう帰る場所もなく、といって大きな村や町はまた戦禍に巻き込まれるかもしれない。「だからこんなド田舎のクソさびれた村まで来てやったんだよ、わかれ田舎モノが」とスレイマンの態度が語っている。
最近ちょっとはマシになってきたかと思ったが、そうだ、この人、傲慢でロクデナシだったわ。忘れかけてた。
自分が傲慢な態度を取られたり罵倒されるのは何かなんとも思わないが、自分以外の人間がそう扱われると、改めて「うわっ、こいつだから洞窟に捨てられたんだ」と納得してしまう。
「駄目なものは駄目だ」
「なんでそこまでけいかいするんですか?」
頑なな村人Aに私は問いかけた。見るからに貧弱な子供である私に、片足の不自由なスレイマン。こんな組み合わせなら村の中で暴れたってすぐに健康な若者たちに取り押さえられてしまうだろう。
「子供には関係ねぇことだ」
しかし村人Aは取り合わない。しかし折角村についたのだ。ここを離れるにしても、せめて食料の補充とか、次の村の情報、あれこれ準備をさせてもらいたいし、何より屋根のあるところで一晩くらい寝たい。
欲を言えばここで初めて!!!この世界の!!!料理を食べれるかもしれないチャンス!!!!!!!だから誰かの家に泊めてください食事つきで!!!!!!
と、いうささやかな願いは口に出さず、私は段々とスレイマンがイライラしてきたのを感じた。
そろそろ止めないとヤバイか。
そう思って裾を引っ張ろうと手を伸ばしかけると、村の中から誰かやってきた。
「いいじゃないですか、クロザさん。こんなに小さい子もいるんですもの…かわいそうだわ」
「マーサさん!しかしですねぇ…」
やってきたのは年頃のお嬢さんだった。
多分、14,5というくらいだろうか。上等ではない布の服だがきちんと洗われていて、長いエプロンはほつれていながらも何度もつくろわれ大切に使っていることが見て取れる。茶色の髪に優しい瞳のその人は中年である村人Aに敬称をつけられなおかつ敬語だった。
つまり…村長さんとか、それに近しい立場か?
マーサさんは私とスレイマンに微笑む。
「ごめんなさい。この辺りで最近盗賊が出るって噂になってるの。なんでも、最初は少ない人数で旅人のフリをして村に入って、村のことを調べてから襲ってるとかで…」
「貴様らはこの俺が盗賊に見えるのか?」
怒ってるスレイマンは犯罪者にしか見えないので私は頷きかけたが、なんとか堪えた。そしてマーサさんも頷くことはせず、じっとスレイマンの瞳を覗き込み、そして私を見て首を振る。
「いいえ、そんな風には見えないわ。親子だっていうのも信じられる。ねぇ、クロザさん。こんな風に優しい目で自分の娘を見てる人が盗賊だなんて思える?」
マーサさん、眼科行ったほうがいいんじゃない…?大丈夫?
スレイマンが私を見る目は「このバカ娘が」と心底軽蔑しきっている目だよ…?
私の動揺をよそに、村人Aクロザはマーサさんの言葉に私とスレイマンを見比べると、そっと槍を下してくれた。
「……俺にはこのお嬢ちゃんになんかあったら殺す、なんて目をしてるようにしか見えないが…まぁ、なら放り出してお嬢ちゃんが風邪でも引いたら仕返しが怖いわな」
「そんなことをする人じゃないと思うけど……」
いや、そっちの方が正しいと思います。
「それなら、私の家に泊まって貰いましょう?それなら私とおじいちゃんが見張るし…安心してもらえるでしょ?」
「そんな…危険じゃないか?」
「何かあったら大声を出せば隣にすぐ聞こえるし、それにお夕飯を作る手伝いをしてくれる子がいたら助かるもの」
マーサさんはさらりと素晴らしい提案をしてくれたので、私は喜びのあまり飛び上がった。
「ありがとうございます!マーサさん!!ぜひおねがいします!!!!やったぁ!!!!!!」
「落ち着けバカ娘」
そのままマーサさんに全力タックルしながら抱き着きそうだと感じたらしいスレイマンが私の襟首をつかんで止めてくれ、私はマーサさんを押し倒さずにすんだ。
やったね民家!!!
初めての!!!はっじっめっての!!!!誰かと一緒にクッキング!!!!!
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