表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】野生の聖女は料理がしたい!  作者: 枝豆ずんだ
第三章 トールデ街編
30/162

軟禁されてますよね、どう考えても

評価・ブクマ・感想ありがとうございます。

とても嬉しいです。あと今後の参考になります。


インド料理をご存じだろうか?


私の生きた前世の日本ではインド=カレーと思われていた部分もあるが、以前も語ったようにカレーライスはインド料理を真似たイギリス料理。


それを日本がいつもの「うちで作るとこうなりました」と、他国の料理を日本風にアレンジした結果である。


そもそもインド料理とは何か。

広いインドは、東西南北でそれぞれ食文化が異なる。


北インドはナンやチャパティといったパンが主食となり、料理に使うのもバターやチーズ、ヨーグルトなど乳製品を多く使うのが特徴である。

これはイランなど中東の食文化の影響を強く受けているためで、なるほど……国という考え方よりも、食は近しい土地同士で共有しているとわかるのだ。人類万歳。


そして南インドは北とは異なり、主食はお米である。乳製品よりココナッツミルクが多く使われ、油はゴマ油が好まれる。そしてこちらは菜食主義者が多かった影響か豆料理や野菜料理が発達している。同じ「インド」という国であってもここまで違う。


だがしかし、それでも共通点もある。

日本食を乱暴に「醤油を使う料理である」とするのなら、インド料理とは「香辛料を使う料理」であると言える。


「……っていうかあるんかい、クミン」

「お気に召しませんか?聖女様」


絨毯の上に所狭しと並べられた銀のお盆に料理の数々。


肉料理、豆料理、野菜料理、魚料理とありとあらゆる品々、その迫力もさることながら、料理人であった私の目にはそれらが全て丁寧に下ごしらえをされ、しっかりとした技術を持って調理され、その料理が最も美しいと思われる盛り付け方をされているということが分かった。


それらは香辛料の独特の香りを漂わせ、私の鼻孔をくすぐる。


……この匂い、クミンやカルダモン、つまり……カレーっぽい匂いが当たりに漂っているので、私が茫然と呟けば、真鍮の水差しから水を注いでいたモーリアスさんが顔を向ける。


どうも、こんばんはからこんにちは、この挨拶の基準って何なんだろうね、ごきげんよう、野生の転生者エルザです。


街について早速無一文になりましたが、親切な兵士さんによって街の教会に連れてきてもらえました。


そしてそこで出会ったよ異端審問官モーリアス・モーティマーさん!

あれだね!?モーティマーってなんかスレイマンが洞窟の中で言ってた名前だね!

多分スレイマンのこと洞窟に捨てた人かもしれない!!


なので私を「聖女様」と崇めるように接してくるモーティマーさんとなるべく距離を起き、明日はさっさと村長さんの親戚を見つけ荷造りをしてしまおうと、そう考えたのだけど……。


「王都への馬車を急いで用意させているのですが、何分聖女様をお連れするもの……最高のものを用意させて頂きたいので明日の朝までお待ち頂くことになり申し訳ございません」

「……いえ、あの、行くって言ってないです」


私は無駄とわかりながらも、一応自分の意見を言ってみるが、やはりモーリアスさんはその細い目でニコニコしているような顔をするばかりで私の言葉など聞いていない。

いや、耳で聞いてはいるのだろうが、考慮する気がないらしい。


簡単に言えば、私は現在軟禁されていた。


意識を失って、気付けば教会の一室で、目覚めるなり「王都へお連れするまでこちらでおくつろぎください」と言われた。

いや、王都とか行かないしという私の反論はまるで聞き入れてもらえず「真の聖女様が見つかったことを早く大神官様にお知らせしなければ。聖女様は大神官様の教えを受けねばなりませんからね」と熱の籠った目で言われ、「捕まった」のだとわかり私はゾッとした。


扉の前には常に教会の人間がおり、三十分に一度、モーリアスさんが私の様子を見に来る。

私が外に出ることは許されず、理由を聞けば「逃げますよね」と笑顔で言われた。


チッ……ここで「外に出ては魂が穢れます」とかなんか聖職者っぽいものだったら「聖女なんで大丈夫です」とか「ずっと野宿してたんで」とか反論も出来たのに、ストレートな返しに「あ、はい。そうです」としか言えなかった。


唯一の救いはアルパカさんが一緒だということである。部屋の隅に干し草を敷かれて一緒にいたので、私は不安になるとアルパカさんにぎゅっと抱き着いて「うっとうしい」と前足で引き離されていた。


なんでも「引き離そうとすると蹴り殺されそうな雰囲気でしたので」とのこと。気遣ってくれるとは優しい人なのか?などと思ったのは一瞬。モーリアスさんは「貴重な魔法種ですので、一頭でも減らすのはよくありませんからね」と穏やかに言った。怖い。


そして日がどっぷり暮れた深夜、私が「おなかすいた」と漏らすと、それを扉の見張りから聞きつけたらしいモーリアスさんが、こうして大量の料理を運び込んできたのだった。


「聖女様はドゥゼ村のお生まれであるようですので、あまり味の濃いものは好まれないかとも思うのですが……王都の神殿で出される料理ですので、慣れておいた方がよろしいかと僭越ながら私が作らせて頂きました」


神殿。そしてここは教会。

私はこの違いがなんとなくしかわからないが、この世界では神殿も教会も同じ宗教のもとあるものなのだろうか?

まぁ一神教かどうかもまだわからないので、今はいいとして。


「作ったって……モーリアスさん、料理出来るんですか?」

「えぇ、見習い時代には必要な技術ですから」


っていうかこの世界ってソース文化じゃなかったか?

確かスレイマンに聞いていた話だとそんな感じだが……あぁ、でもあれか。スレイマンはあまり食べることに興味がなかったから……なんでも「茹でた肉」に「味のついたソースがかかってる」という表現になったのか……?


私は目の前の料理を見て、できれば興奮しハイテンションになりたかった。


だって!!だって!!

はっじめっての!!!!(ラグのスープはノーカン)異世界料理!!!異世界の!!文明と文化が詰まった!!!お料理だーーーーー!!!!!!!


まず!私の一番近くに置かれた果物!こちらは多分「まずはこういった物から召し上がられては」という配慮だろう!小さくカットされ、冷やされたイチジクっぽいもの!!!


一口噛めばなんと瑞々しいことか!じゅわっと口いっぱいに広がる甘味と、しかし酸っぱさ!!これお酢に漬けてあるんだね!そしてその上から軽くお砂糖をまぶしてるね!!ただの切った果物じゃない!!


最初にお酢を胃に入れる事で胃袋を拡張し、たくさん食べられるようにもなる!!!そうだよこういうのだよ!!!人類愛を感じるよ!!


「うっ、美味すぎる」


ただの果物とは言えない、調理されている料理に私は涙さえ出てくる。


そしてスープ!


トマトあるんかい!!!と突っ込みたかった!!!オレンジ色のスープ!味がもうトマトスープだ!


おそらくは牛のものだろう濃厚なチーズの乗った暖かいスープ。一口飲めばほっと体が温まる。冷菜のあとのスープ。うん、定番だ。


絶妙な塩加減に、そしてカルダモンに似た香りのするスパイスが良い演出をしている。トマトを一度軽く焼いてから潰して濾しているのだろう。舌触りも悪くない。

つまり濾すための網目の細かい調理道具があるんだ!!!やった!プリンとか作れるじゃん!!!!


「美味しい過ぎる、だめだ、思考が停止しそう」


スープを飲んだ私に次に差し出されたのは、魚料理だ。綺麗に骨を取ったものが小皿に分けられているが、大皿にあるのは大きな魚そのまま。こちらは網焼きにされたのか表面に焦げと網の跡がついている。そのパリパリになった皮にかけられているソース!!!これが!!!私の料理知識の中で何を使っているのかまるでわからない!!!聞いていいかな!!?駄目かな!!?


続いて肉料理、口休めに甘く冷やした果物のスープ、ローストされた肉料理……と並び、うん、これコース料理の構成だね?と私が冷静になったのは食後のコーヒーに似た何かを飲んで一息ついた頃だった。


このコーヒーのようなものは、目の前で入れてくれたのだが、なんかこう火鉢のようなもの。その中にたくさん砂が入っていてこれが「熱いので触らないでくださいね」と注意されたほど、高温になっているらしい。鉄製のポットみたいなものの中にコーヒー豆のようなものを潰して水と一緒に入れ、砂の中に半分埋めると熱が伝わりすぐに沸騰する。それをかなり小さなサイズのカップに注いで、少し冷ましてから飲む、というスタイルらしかった。


とても濃い。というか濃い。だがほのかに甘みのある豆、こう……シナモンのような香りがあり、濃いがまるきり苦いというわけでもない。

私はこれが気に入って目を細めゆっくりと味わっているとモーリアスさんが少しだけ目を開いてこちらを見ていた。


「?なんですか?」

「いえ、失礼しました」


目が合うとモーリアスさんはすぐに目を伏せてしまう。

私は久しぶりに全力で食事を楽しみ、大満足だったが、だが、やはり、ハイテンションになれなかった分モヤモヤとしたものが自分の中に残る。


モーリアスさんの作った料理は滅茶苦茶美味い。

これは……私の前世での記憶を含めても、モーリアスさんは最高の料理の腕を持っている。

私が師事した料理長以上だとすら思える。


そしてこの世界の料理について学べるチャンスだ。

どんな食材が主流なのか、どういう流通なのか。

料理の文化について聞きたいし、宗教的なものもあるのか、それとも国で統一されているのか……。

調理法から何から、知りたいことは多くある。

並べられた食器にしたって、銀細工の見事なもの。そういう職人が専門にいるに違いない。食事を乗せるためだけのものにここまでお金をかけられ、職人が職人として生活できるだけの余裕がある。


あ、駄目だ。考えたら興奮してきた。


「モーリアスさん!!!」


私はもう耐えきれなくなり、がばっと立ち上がると給仕をしてくれたモーリアスさんの手を掴む。


「はい?」

「私の師匠になってください!!!!」

「……はい?」


スレイマンを洞窟に置き去りにした張本人候補だけど!

異端審問官という、なんかおっかないイメージしかない仕事してる人だけど!!

でも大丈夫!人格的にアレでも料理の腕が確かなら私は尊敬できるから!!


「貴方の作ってくれた料理の味に衝撃を受けました!その高い技術に心を揺さぶられました!!!どうぞ私を弟子にしてくださ、ゲフッアアア!!!」

「聖女様!!!!?」


興奮しモーリアスさんの手を掴んで一気にまくしたてる私の頭を、アルパカさんが顎でどついた。前足でないのは友情だと信じたい。


「……くっ、アルパカさん!!!?」


何するんだと振り返れば、冷静な黒目でじぃっと私を見降ろしたアルパカさんが「本来の目的忘れてんじゃねぇよ」と無言で訴えていた。


私はその冷たい目にシュンとして、思わず正座になった。


あっ、はい。大丈夫です、マーサさんを救出するために領主の館を目指します。はい、忘れてないです。


「あの、そういうわけで……師匠。大変申し訳ないのですが……料理を教えてもらうのは、私が目的を果たしてからでおねがいします」

「……いえ、あの、聖女様……?料理?師匠……?話がわからないのですが」


困惑するモーリアスさん。まぁ、そうだろう。

今ならちゃんと私の話を聞いてくれるかもしれない。私は自分が王都へ行きたくないこと、やりたいことがある、というのを説明しようと口を開きかけるが、教会の入り口が何やら騒がしくなった。


「なんです?」


モーリアスさんが扉の前の見張りに尋ねれば、そのうちの一人が「様子を見てきます」と走り、血相を抱えて戻ってきた。


「た、大変です!教会の前で男たちが暴れまわって……!止めに入った者や神官様がお怪我をされたようです!」


男が言い切る前に、私はびくりっと体を震わせた。

アルパカさんが警戒するようにすぐに私の隣に立って唸り声を上げる。


「……この神の家に?―――神に逆らう背徳者どもが」


話を聞いたモーリアスさんが、その瞼をはっきりと開き煉獄の炎のように揺らめく憎悪の瞳をあらわにしている。口から流れる言葉は低く、呪詛のようだった。


こっっわッ!!!!


私は顔を引きつらせ、やっぱ怖いよ異端審問官!!!と実感した。そしてゆっくりと死刑囚の元へ歩いていく死神のような男の背を茫然と眺めるのだった。


……うん、絶対……スレイマンを洞窟に置き去りにしたの…モーリアスさんだ。




Next

昨日は更新できませんでした。どちくしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] モーリアスさんを困惑させるエルザちゃん! モーリアスさんの困惑とか貴重では? アルパカさんナイス一撃! [一言] モーリアスさんを師匠にするとか副料理長がなんて言うか……!(激突必至な気が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ