事情聴取、カツ丼など出さぬ!!
「さぁ、洗いざらい知ってること吐いてください」
どうもこんばんは、こんばんは、ごきげんよう野生の転生者エルザです。
料理のうんちくとか語ってる暇もそんな余裕もありません。
私はイルクの家に押しかけ、挨拶もそこそこにバンッと机を叩いてクロザさんに詰め寄った。
「そう言われてもな……。俺はクリストファ様とは一緒に戦った仲間ってだけだ。そんなに詳しいことは……マーサさんが攫われた理由だってわからねぇよ」
村は混乱していた。
今まで善良オンリー。理不尽な事があっても悲しい事があってもすぐにワカイアマジックで消されてきた村人たちだ。これまでならマーサも使者に逆らわなかっただろうし、たとえ無理矢理にマーサが連れていかれても村人たちは「春になったら帰ってくる」とだけしか思わなかった。
だが今は違う。
連れていかれた。
無理矢理に。
何をされるんだ。
なぜ嫌がるマーサを?
と、様々な憶測、からの不安が村人たちの間を走り冬支度どころではなくなっている。
私は一瞬、これなら一度くらい……またワカイアたちに村人の感情を吸い取って貰った方が良いのか、と考えかけ首を振る。
それは私が決めることではない。私はこの村の代表でもなんでもないのだから。
「クロザ……本当に何も知らないのか?何か……わしの孫娘が……なぜ……」
「村長……」
私と一緒にクロザさんの家に来た村長が、その細い体を震わせる。マーサさんの両親、村長にとっての娘夫婦は昔に亡くなっている。それであればこの村で村長の肉親はマーサさんだけだ。それがわけのわからぬ状況で不穏な攫われ方をして、不安にならないわけがない。
「村長さん、そもそも……領主さまはなぜ村の子供を?私はイルクの話から、冬の館の働き手を村から集めているのだと思いました。子供なら食べる量も少ないから負担も減るし、それぞれの村の様子を子供の素直な口から聞くためだと」
「……わしはただ、これまでずっと、それが当たり前のことだと従ってきた。他の村も同じだろう。冬になれば領主さまの館に子供が一人向かう。そして春になれば帰ってくる。子供にとっては特別な場所で、村で自分だけが過ごせる。良い子にしていれば領主さまの館で冬を過ごせるぞ、と、親が子供に言って聞かせるようになっていました」
ご褒美なのだ、村の子供にとっては。
マーサさんも去年は領主の子供に気に入られて待遇が良く過ごさせて貰えたと話していた。だがマーサさんは今年は村の事があるからと断った。
普通なら、それでいいのではないだろうか。
領主が何か打算があるにせよ、マーサさんでなければならない、何か特別な理由でもあるのか。
マーサさんは領主の子供の一人に気に入られていたというから、今年もその遊び相手にするために?その線はありそうだが、だが、だからと言って人攫いのような真似事までするだろうか?
「これまで館に行った子供の共通の特徴とか、マーサさんだけが違う場所とかはありますか?イルクもクロザさんも考えてください。どんな小さなことでもいいですから」
あの使者はマーサさんを連れて帰るよう命じられていて、そして、なぜあの騎士も来たのだろう?
ただの村娘一人を連れるためにしては、あんなに大きな獅子に乗った立派な騎士というのは大げさではないだろうか。
そして元々この村は「平穏温厚平和」というのどかな村、優しい住人達がいる場所だ。例年通りであればこんな騒動にはならなかったはずで、なったとしても使者殿だけの力づくで連れていけた。
だが、そうはならなかった時の為にあの騎士が同行するようになっていた?
空を飛ぶ移動手段を持ってきたということは、警戒されていたのはワカイア?
私はぐるぐると考え、しかし判断材料が少なすぎる。
「……おれは、思い当たることなんかないんだけど……でも、マーサねえちゃんだけが違うってのは、一つだけわかった」
「なんです!?イルク!!」
悩む私が頭を抱えていると、ぽつり、とイルクが呟いた。
「多かったんだ。雪が」
マーサさんと他の村の子供たちとの決定的な違いはわからない。年齢は皆近いが。村の出身という共通点は全員だし、性別も男女それぞれ。髪の色や目の色、背の高さなど個人を示すものはバラバラだった。
だが一つだけ。一つだけ、マーサだけというのがあるとしたら、それは雪だとイルクは言う。
「俺が生まれる前からずっと前まででも、あんなに雪が降ったのは去年だけだって、父ちゃんそう言っただろ?」
「あぁ……だが、それが何の関係があるんだ?」
「そんなのわかんねぇけどさ……」
確かに積雪量はあまり関係がなさそうに思える。
たとえば連れて来た子供を生贄に雪の神様とかに雪を降らさない様にお願いし、とかならわかるが……マーサさんはちゃんと無事に帰ってきているし、館での過ごし方も領主の子供の世話をしたのが殆どらしいのだ。怪しい箇所はない。
「……心配すんなって、また去年みたく春になりゃ帰ってくるさ。これまで帰ってこなかった子供はいないだろ?」
家の中の空気が重い。それを晴らすようにクロザさんがあえて明るい声を出すが、私は頷けなかった。
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ということで、私は一人ででもマーサさんを助けるために領主の館を目指すことにした。
「かの王は目覚めて貴方が自分を置いて行ったと知れば大いに怒り狂うでしょうね」
ワカイアたちの泉のほとりにしゃがみこみ、いつもより熱心にお祈りをしていると星屑さんが大量のお花を抱えてやってきた。このお花は領域の一つなので、こうして持っていればほとりや村の中くらいまでは歩けるらしい。
「できればスレイマンにも付いてきて欲しいです。でも、もしスレイマンのことを知ってる貴族だったら、たぶん、あんまり良くないなって思って」
私は振り返ってスカートについた草を払うと星屑さんの差し出してきた花束を受け取る。花は4輪。赤・白・黄色・青だ。
「私の祈りを込めておきました。捧げた相手が受け取れば、赤い花は一晩だけ貴女の虜にさせ、白い花は貴方に誠実に、黄色い花は貴方を危険から守り、青い花はそのものの悲しみを貴女に打ち明けさせます」
なんかおとぎ話のアイテムみたいなの貰った。
驚いていると、私が信じていないとでも思ったのか星屑さんが少し拗ねるようにそっぽを向く。
「結界に力を奪われた今の私でも、これくらいのことはできます」
「あ、いえ、あの、すごく助かります。ありがとうございます」
でもなんでこんなことをしてくれるのだろう。
星屑さんは人間の味方、というわけではない。
それは前回、結界が別になくなって人間の国が滅んでも構わないという価値観からもわかるもの。
だが今は、まるで友人のように気づかわし気な顔で私を見ている。
「友人だと思っていますからね。私だけですか?」
私の疑問は顔に出ていたのだろう。
星屑さんは苦笑しながらも、問うように小首を傾げる。
友人、友達……ベストフレンド。
「…………」
私は真剣に考えた。
一緒にお茶を飲んだりお菓子を食べる。
お喋りもする。
プレゼントも渡すし貰ったりもする。
頼りにしている。
「……友達かもしれない」
前世では同僚とか後輩とか上司とか部下とか……仕事での人間関係しかなかったし、旅行は好きだが一期一会だった私に、知人はいても友人はいなかった。
ぽつり、と呟き肯定すると星屑さんが「それはよかった!」と輝かんばかりの笑顔を向けてくる。まぶしい。元キラキラ輝くお星さまの笑顔めっちゃまぶしい。
目を瞬かせ私はそれをなんとかやり過ごし、抱き着いてきそうなほど喜んでいる星屑さんを押しとどめ、しかし手を握る。
「エルザ?」
「なら私は遠慮なく星屑さんにお願いしたいことがあるんですが」
「なんです?」
「私の未来のレストランでソムリエやってくれませんか」
ずっと考えていたことだ。今この場で言うのもなんだが、もしかしたらすぐには帰ってこれないかもしれないし、こういう話は早い方が良い。
「……なんです?」
「ソムリエです。この世界のお酒がどの程度のものなのか私は知りませんが、300年、結界の中で貢物とされたお酒の数々を飲み続けてきたお酒大好きな星屑さんなら……!!きっと最高のソムリエになってくださると前々から思っていました!!」
言い切って、本当に今話す事じゃないな、とは思った。
ソムリエ、ソムリエ。簡単に言ってしまえば、ワインの専門家。
私が前世で修業したレストランにも素敵なソムリエやソムリエールの方がいた。
ワインについての知識はそれはもう豊富で素晴らしく、勉強熱心。それだけでなくどのワインがどんな料理に合うか、お客様の好み、年齢差による味覚の変化、気温湿度、状態の小さな変化を機敏に感じ取り、常に最高のワインを提案する……すごいよなぁ、かっこいいよなぁ……と全力で憧れる仕事だ。
「そむりえ」
聞きなれない言葉をおうむ返しに呟きつつ、星屑さんは「なるほどなるほど」と一人で頷いている。
私は何も言ってないはずだが……まさか私の思考が読めていたりなんてことはないだろう。
「私の乙女は変わっている」
「はい?」
「私は星屑です。神代のものであり、この力の利用方法はいくらでもあるでしょう。だというのに、貴女は私がお酒を飲むのが好きで、詳しいから、だから一緒に働いてほしい、と」
くつくつと、声に出しながら星屑さんは笑った。
別に笑うようなことじゃないだろう。適材適所。魔法と魔術を自由自在に扱えるスレイマンを副料理長兼・技術開発責任者しに、星屑さんにソムリエをお願いする。
完璧では?
いや、これにあとはやはり女主人か支配人、演奏家か歌手、給仕も必要だし……従業員だけを考えても足りないものは多い。
私の計画はまずは8歳くらいまではドゥゼ村でじっくりと魔力食材や料理についての研究をしたい。できれば適度に他の村や町を見てこの世界の料理文化も学びたい。
それを考えれば、領主の館を目指すのは私にとってかなりメリットがあった。
村の外へ出れば新たな食材、新たな村・町の出会いがある。領主の館に無事辿り着ければ……貴族の食卓も探れる。できれば厨房とかも見たいしな!!
マーサさんのことだけではなくなると、なんだかワクワクしてくる。不謹慎だろうか。
「さて、そろそろスレイマンも起きちゃいますし、私、行きますね」
荷造りはした。村長さんが路銀にしなさいと渡してくれた金貨もしっかり持っている。
「はい、どうか早く戻ってきてくださいね。待つのは慣れていますが、得意ではないんです」
そう言えばこの人は、300年間ずっと聖女が結界を維持する舞いを奉納する日だけを待って生きて来たのか。
聖女はその間に何代変わったのだろう。同じ聖女は何度、星屑さんの元へ来たのだろう。
そんなことを考え、私は星屑さんの手をもう一度握り「必ず帰って来ます」と誓い放そうとしたが、逆にぎゅっと掴まれた。
「放しましょう」
「今、生まれて初めて「寂しい」という気持ちを味わっているので、もう少し待ってください」
「放してください」
そういうやり取りをまた少しして、そしてやっと放してくれたので私はワカイアたちにくるりを振り返る。
「マーサさんの所に行きます。途中で私の非常食になる覚悟すらある方はいませんか?」
正直、ワカイアたちは一斉に引くだろうと思った。けれど一頭も怯えることなくまっすぐに私を見つめる。
……こんなにワカイアたちに好かれ慕われてるマーサさん、やっぱり本物の聖女なのでは?
私はその中で一番マーサさんにくっついていたワカイアの元に行き、自分の荷物と私を乗せて歩いてくれるかと聞く。
ワカイアはしっかりと頷き、私たちは協力者となった。
村長さんに地図も貰った!路銀もOK!携帯食料ばっちりさ!
スレイマンに書置きしたかったけどこの世界の文字書けないし!イルクに伝言したから大丈夫だよね!!!
私はワカイアの背に乗り、思ったより早いその速度に揺られながら村を出るのだった。
あ、魔物対策どうしよう。
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