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【書籍化】野生の聖女は料理がしたい!  作者: 枝豆ずんだ
第五章 魔女達の舞踏会
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意地の張り合い


「私はあなたを絶対にスレイマンと混同しません。あなたの言動、あなたの姿、あなたの声の何もかもがスレイマンと“一緒”あるいは“類似”していたとしても、私は絶対に、あなたに欠片も、私が好きな人を重ねずあなたを別の生き物として肯定します」


 取引。申し出。あるいは契約。

 私は私の言葉が、目の前の魔王にとってどういう価値があるのかわかっていた。


「……」


 男が思案し、黙る。赤い目が細められ、僅かに眉間に皺が寄る。


 馬鹿なことを言っていると呆れる色は浮かんでいない。違う姿、違う声である魔王相手になぜそんな提案、取引、申し出をと、ここに別の人間がいたら不思議に思うだろうことだけれど、私は、今すぐぐちゃぐちゃに泣き出したい気持ちを堪えた。


「怖いんでしょう?」

「……」

「私だけが、あなたを弱くできる。私があなたをスレイマンだと思って、見て、扱って、触れれば、あなたは、“そう”なる。なってくれる。スレイマンはあなただった。だから、私が望めば、あなたは引きずり落とされる」


 別の存在。であったとしても。混ざりものにすることはできる。


「私だけがあなたを魔王の座から引きずり降ろせるし、あなたを魔王として肯定できる」

「貴様を今ここで殺せばよい」

「不純物のままで?」

「……」


 泥人形。その他の、なんだか湧いて出るスレイマン候補というか、魔王候補。この男は「自分は違う」と仰っているが、私に会って、見て、触れて、「自分は違う」と確信したらしいが、本当にそうなのか。


「聖女の胎の中で繰り返し弱められ続けた魔王の魂が、あなたに戻ったとして、本当に。あなたはあなたが自覚する自分自身であると確信が持てますか?」

「……」

「私はあなたの全てに注目します。あなたの姿、あなたの声、あなたの考え、あなたの行いを見て、あなたがスレイマンとは違う、唯一無比の“魔王”であると証言します」


 だから殺さないで、これから先、私とずっと、一緒にいてくれと言外に告げると、魔王が顔を歪めた。


「なぜそうする?貴様にとって利点があるか?」

「……と、仰いますと?」

「貴様の言う通り、貴様の言葉が、眼差しが、指先が、私をあのくだらない男と同期化させることができるのだとしたら、今ここで、貴様がすべきことは私をあの男の名で呼び、王の玉座から引きずり下ろすことであろう。だというに、なぜ――自ら、あの男の可能性を、痕跡を、須らく殺しつくそうというのか。世に魔王を解き放つ厄災になろうという貴様の性根がわからぬ」


 まぁ、そういうことだ。

 私は私自身で、スレイマンと「もう一度」という可能性を潰そうとしている。


「紛い物ですし、それに、コピーはコピーで、オリジナルじゃないっていう、結論が出ているので」

「……人間種の中には死者を弔うための儀式を行う者たちもいる。貴様のこれは、貴様にとっての、葬送ということか」

「そうですね。それは、そうかもしれません。あなたがスレイマンではないと確定させることで、スレイマンは魔王とはまた別の。私と一緒にいたあの人は、私だけの人だったと、これは弔いなのかもしれませんね」

「……」


 私が笑って頷くと、魔王は顔を顰めた。

 一度ぱちん、と指を鳴らす。


 すると、姿が変わる。


「これでも、貴様は私が別の存在であると思い続けられるか?」

「……」


 黒い髪に赤い瞳、背の高い、人間の男性の姿。

 角と、ヒゲがないだけでスレイマンとまったく同じその姿。


「その目」

「?」

「その目が、私を見る目に、スレイマンと同じ色が浮かんでいないので。スレイマンはもっと、優しく私を見ていましたよ」


 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] おおお!再開、ありがとうございます! お話の続きを見れるのがとても嬉しいです。
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