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ラグの木の成分、これ本当に木か?

今日は更新できないと言いましたが、仕事に行く前に短い話が書けたので更新。


子供の頃、夏休みになると図書館に放り込まれた。

私の家は母子家庭であったので、母が仕事に行っている間、子供一人だけになる。そして夏と言えば暑く、木造のアパートは日当たりが良すぎたせいで日中は室内温度37度とかあたりまえだった。


そんな私を、仕事に行く前に母は車で駅の近くの図書館に連れて行き「閉まる頃にバスに乗って帰るんだよ」と子供のバス料金(夏休みは子供は何処まででも80円)と図書館の中でジュースを買えるようにと100円を渡し、仕事に行った。


図書館なら冷房がきいているし、大人の目もある。夏休みならボランティアの読み聞かせもあるし、とそういう考えらしかった。私は最初の頃は絵本を読んで過ごしていたのだけれど、それが低学年から高学年になる頃には小説や、図鑑に変わっていった。


図鑑というものは解りやすく、写真付き、深く記述はないけれど「こんなものがあるんだ」とたくさんのことを私に教えてくれた。


もう私の時代にはいなかった恐竜を教えてくれる図鑑。みたこともない、遠くの国にいる動物たちの図鑑。綺麗で不思議な色の植物の図鑑、そして、世界の食材を載せた図鑑。


未知のものを知る時のドキドキとした心は、子供から大人まで、誰だって興奮する楽しいものではないだろうか。


「ラグの木は食用に適しているというかていで、せいぶんをしらべたらもっと可能性が広がるとおもうんですよね」


どうも、おはようからこんばんは、ごきげんよう野生の転生者エルザです。


木を食べるとかどうなんだとか、これしか大量にある食材がないのかと嘆いていましたが、しかし、忘れていました。食材というのは人間の歴史をものの形にしたもの。ただの「動物」「植物」「鉱物」などから「食材」に認識されるには、人間の思考錯誤があってのもの。


そう、かつてジャガイモは観賞用だった。花を楽しむためだけに西洋に広まり、食べても食中毒を起こすと、そういわれていた。実際にジャガイモには毒があるし、それは間違っていない。


だがジャガイモは私の時代ではなくてはならない食材だった。以前も触れたが、ドイツにて起こった30年戦争で田畑が荒れ食料が不足した時に、当時のドイツの王が「これは食べられるものだ」と民衆の前で実際に食べて見せた。王様万歳。


料理人とは食材の声を聞くこと。

まぁ、実際聞こえたら耳鼻科か心療内科への受診を勧めるし、それは「よく知る事」という意味だろう。それはさておき。


「いろんな形にきって、火で燃やしたり、水をくわえたり…あと発酵させたり、ためしてみたいんです」

「おまえ変なこと考えるなー。それより他の食べられるもん探すんじゃないのか?」

「それもいいんですけど、まずは目の前のかのうせいをと思いまして」


私とイルクは森から戻り、村の隅にいた。スレイマンとクロザさんは村長の家で村の大人たちと何か話をするらしい。たぶん、というか確実に、森で魔獣に襲われた件だろう。


朝に私たちが森に入って、昼に魔獣が待ち構えていた、というのだからこれ明らかに私の所為じゃないかと、罪悪感があった。頭は真っ白になったし「どうしよう」と体が震えたりもしたけれど「それはねぇな」と、クロザさんが否定してくれた。


気休めかと思ったが「一頭仕留めただけで引き返すのはおかしい」と続け、それ以降スレイマンと二人で何か真剣な顔で話し合っていた。聞き取れた単語には「聖女」「結界」「300年」というものがあるけれど、二人は私とイルクにはそれを説明してはくれなかったのだ。その辺りは「子供が知ることじゃない」という大人の顔である。


「そもそも、ラグの木ってなんでしょう」


見上げるのは村の伐採されていないラグの木。見かけは私の知るスギの木に似ている。太さは森の中のものは20メートル以上にもなるとかそれどこの縄文杉だと思うが、村のものは高さは30メートル、太さはせいぜい一メートル程度だ。


薪として利用できるのを見るとおり、破裂性が良い。これなら建築用の木材としても十分使用できると思うが、この村の家の作りは土なのでまだそっち方面での活躍はないようだ。


「近づくとめちゃくちゃエグイにおい…これ、抑えられたら「良い香り」になりそうなんですよね…」


杉の木に近い、ということで考えればこの強烈な香りは「特有の芳香」として見て、食材に匂いをつける…たとえば私の大好きな燻製に利用できないだろうか。


「イルクはこの木、どうおもいます?」

「どうって……燃えにくい?とか」

「含まれている水分がおおいんでしょうね。自然に乾燥させるのがたいへんそうです」


スギの木のような針葉樹ならキノコの栽培には向いていない。生えないわけではないが。だが、そのままかじってみれば水気が結構多い。


……キノコ、育てられるんじゃないかこれ。


まぁ、実際キノコを栽培するとなると一朝一夕ではいがず長期戦だ。ひとまずこれは保留にし、私はパウダー状にしたラグの木を手に取る。


おがくずはパン粉の代用品となった。だが、これがただの木だとそんなことになるわけがない。


実際、油で揚げていないだけのものを口に入れても「ッペッペ」と吐き出したくなる。


「でもあのトンカツはパーフェクトな衣だった……つまり、あの調理の中でラグの木が変化した、というほうこうでかんがえてみるとか…」


ぶつぶつとつぶやく。

油で揚げたから?パン粉と油の関係なら、パン粉の水分が油とまじりあうことによってあのサクサク加減ができる。加熱した油であったため浸透性が増したのか…?


「…イルク、油とかほんの少しでいいんだけど……もってない?」


ひとつ、閃いたことがある。

私はこの仮説を立証すべく、イルクに「この村の人間が使う油はどんなものだ」と聞いてみた。そして、どうやら隣町から来るのは植物性のもののようで、それを少しでいいから分けて欲しい、と頼む。


「うーん……灯りようのやつが少しあるけど…食うのか?」

「調味料にちょっと」

「うげぇ、まじかよ。おれ、舐めたことあるけど臭いぞ?」


植物性の油なのに臭い?

……それ、品質悪いもの高値で買わされてないか?大丈夫か?

まぁ、灯りにつかうだけならそんなものかもしれないか?


私が頼むとイルクは「ちょっと待ってろ」と取りに家まで駆けていく。それを見送り、私は木の器の中にラグの木の粉を入れ、ラードを少しと、井戸でくんだ水をいれた物で1セット、それとはまた別に粉・ラード・スレイマンが飲む用に出してくれた(井戸の水など飲まない派らしい)魔法の水をいれたものを1セット作った。


イルクが油を持ってきて戻ってきたので、粉・油・聖なる水、粉・油・井戸水のものも作る。


「そしてこれを、よく混ぜます。はい、イルクも!」

「は?なんだこれ…」

「たぶんなんですけど…どれかで発生するんですよ、グルテン」


そもそもパン粉…いや、パン…よりも、もっと前の小麦粉、とはなんだろうか。


小麦粉にはたんぱく質があり、それをグルテンという。

グルテンは水を加えると粘り気を出すので、小麦粉でも中力粉、薄力粉、強力粉などグルテンの量の多さで使い分けるものだ。


グルテニンとグルアジンという二種類のたんぱく質が絡み合ってグルテンになっているのだが…たぶん、ラグの木にはこのどちらかが含まれている、あるいは。


「……魔力での性質変化?」


粘り気が出てきた器があった。

やっぱりというか、それは粉・ラード・聖なる水の組み合わせのものだ。こねていくと纏まってきて生地のようになってきたので、私はそれをイルクに渡し続きをお願いする。


「え?なんだこれ…?!パン、の焼く前のやつみたいだぞ!?」


驚くイルク。

私も驚きたい。


「これが異世界」


ラグの木、ラード、聖なる水の共通点は「魔力がある」ということだ。


「ふ、ふふ、うふふふふ、ふはははっははは!!!!」

「ジビョウか!!?ジビョウだな!!!?」


私は全力で笑い声をあげた。隣のイルクが先ほどの驚きとは違う意味の驚きで顔を引きつらせるが、それはどうでもいい!!


これが笑わずにいられるだろうか?


私は料理が好きだ。大好きだ。料理人だ。

だから、これが笑わずにいられるだろうか!?


「すごい!すごい!この世界、すごいですよ!イルク!!!」


塩やこしょうなどといった調味料。

小麦粉やら油やら、肉野菜、魚……そういうものは前の世界でたくさん使い、様々な利用方法を知っている。


だが、だが、これは知らない!

まったく使ったことがない!


「魔力のある食材に、魔力そのものがもたらす「変化」!!つまり!私の知らない未知のジャンル……!フランス料理やイタリア料理スペイン料理とも違う!そうこれは、魔力料理!!」


あぁドキドキする!

マチュピチュへ行ける村への留学前のような興奮だ!

未知なもの!不思議なもの!まるで予想がつかないもの!!!


「やっぱり私の幸運値はEX!」

「だめだ、聞こえてねぇ…スレイマンさん呼んでくるべきか……?」


ありがとう世界!と五体投地を始めた私に、おろおろとイルクは村長さんの家の方をうかがい見て、そして、大興奮している私の頭に、やさしい声がかかった。


「楽しそうね、エルザちゃん」


顔を上げると、そこには穏やかな微笑みを浮かべたマーサさんがワカイアを一頭連れて近づいてきていた。



Next

誤字脱字、ブクマ、評価、感想ありがとうございます。

誤字は明日の夜まとめて訂正します。いつも本当にありがとうございます。


感想にてすごく良い助言を頂きましたので、活かせるよう頑張ります。

自分ひとりで考えるだけじゃ気付かないところとかあるので、こうして頂けると本当に助かります。

未熟者ですが、せっかく面白いと読んで貰えているお話、最後まで楽しんでいただけるよう頑張りますので、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

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