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騙されるな、それは罠だ陰謀だ


私は、料理人として生きるべく色々な勉強もしたり旅行にも行った。世界各国の人間とも会ったし、作って売って買って、食べて願って、祈ったりした前の人生。


その中で、今でも忘れない恐怖があった。


一時期爆発的に流行った、モンスターを狩るゲーム。


プレイしたのはPSP版で、確か店のバイトの子達が休憩時間中に集まってやるものだから「チーフもどうですか。可愛い猫みたいなのが森の採集を手伝ってくれたり、一緒に農場作ったりするんですよ。料理も作ってくれますよ」なんて言われて次の日家電ショップに行って揃えてみた。


そしてドキドキしながらキャラメイク、からの冒険!


ゲームは一昔前のニンテ○ドーが出していたマ○オ、当時画期的にも平面から抜け出し360度動く事が出来る。テレビの中にはマ○オの世界がある!という感動と「ネッシー怖ェエエ!!!マ○オが窒息死した!!!」で止まっていた私だ。


オープニングから大興奮だった。なんだすげぇ、今のゲームはここまで進化していたのか!と。


ユ○モ村に到着し、ハンターとして登録して簡単なクエスト…。うんうん、と頷きながら少しづつ進めて行って楽しかった。まぁ、正直…バイトの子の話で思ってたイメージだと可愛い動物と一緒に温泉を楽しんだり、農場経営をするほのぼの系だったんだが、まぁいい!


広がるマップ!大自然の中で狩りをしたり!採集できる!!!とても楽しい!!!


……あの、恐ろしい事件までは、そう、思っていた。


それは…一つのクエストだった。


簡単な依頼をこなしながら農場をア○ルーと仲良く育てている私に、馴染みになった受付嬢は「雪山で薬草を取ってくるだけの簡単なお仕事」を紹介してくれた。


……気になることがなかったわけではない。


今までそういう簡単なクエストは…明るい日中だった。

だが、深夜の、雪山だった。


駆け出しハンターの私は受付嬢のその可愛い顔で出されたクエスト、依頼レベルもとても低かったしなんの疑いもなく「引き受けます」と請け負った。


自宅で出発前に装備も整えたが、薬草を取ってくるだけの簡単な仕事だ。ついでに他のモンスターの肉でも取ってこようか。いつも弓だが、せっかくだから大剣の練習でもしてこようか、と慣れてきた武器を変えた。


そして随分仲良くなって懐いてくれただろう私の可愛いア○ルーを伴って、私は雪山へ向かった。


……もう、なんとなくお分かりいただけるだろう。


私は…受付嬢にたばかられたのだ。


雪山に草を取ってくるだけの簡単なお仕事…などではなかった。


なんか真夜中だと雪山怖いなぁと思いながら、私は暖かくなる効果のアイテムを使い寒さをしのぎ…目的の薬草のある雪山の上の方を目指した。やっぱり大剣は使いづらく、しかも弓ばかり使っていて「研ぐ」タイミングが完全に合わない自分に苛々しながら…私はついに必要な薬草を見つけ…せっせと摘んでいた。

中々必要なだけの数にならず、あちこち周りを見渡す私の背後から…


やつが、来た。


雪山の寒さをものともせず、咆哮で周囲を震わせモンスターたちをまるでオモチャのように扱い険しい雪山をわが物顔で蹂躙する…あの巨大なモンスター。


「そう…草を取ってくるだけの簡単なクエスト、その実態は…駆け出しハンターに恐怖を植え付ける…轟竜との強制エンカウント。泣きながら逃げた。逃げましたとも。気付いたらネコたちが担ぐ筏の上だったよ!!!」

「なにを叫んでいるんだ、このバカ娘は」

「ジビョウらしいですよ、エルザの父ちゃん」


どうも、野生の転生者エルザです。


やってきました村の後ろの方にある深い森。私とイルクの説得により、今回の調査団には口は悪いが多分めちゃくちゃ強いぞ!私の保護者スレイマンと、元傭兵で村唯一の戦力!イルクの父ちゃんクロザさんが加わった。


叫ぶ私をいつものように見下ろすスレイマン。すっかりスレイマンにビビってるイルクは慣れぬ敬語を使うようになった。


「この状況で他のこと考えてられるなんて、お嬢ちゃんはすげぇなぁ」

「とうちゃん!おれも戦う!」

「下がってろって、お前は荷物持ちだろう。ちゃんと荷物を守ってろよ?」


私たちは森の入り口に入り、そこで簡単な採集をするという予定だった。クロザさんも「まぁそれなら」と渋々頷いてくれて、そして足を踏み入れた…のは、ほんの数分前だ。


「随分と数が多いな。今朝入った時は何もなかった筈だが」


森の入り口に入り、その背が木木に覆われたころ、私たちの目の前には体中を葉や蔦に覆われた森の獣が十頭以上現れた。

それらは偶然ではなく、敵意をむき出しにし私たちを待ち構えていたようだった。


私が驚きに声を上げるより素早く、一頭が最前列にいるクロザさん目掛けて突進してきたのだけれど、スレイマンが防御魔法を展開し森のなんかイノシシっぽいは一瞬で灰になった。


「草を取ってくるだけの簡単なお仕事なんか、ないんですね……」


かつてのゲームのことを思い出しながら私は悲し気に呟く。

まぁ実際悲しんでるのかと言われれば懐かしさの方が強かったし、第一今は全く、それ、関係ない。


さて、このイノシシたちの歓迎をどうするかと私はスレイマンに庇われながら考える。


クロザさんはイルクを私の方へ押しやり、槍を構え私とスレイマンの判断を待っていた。イノシシたちも敵意は変わらないが、スレイマンが明らかに自分達よりも強い生き物だと判じたのだろう。ジリジリと距離を縮めてくるだけで再度の攻撃はない。


ここは逃げるべきだろうか?

だがこの猪たちが私たちを追い森を出て村を襲う可能性もある。

そもそもなぜこの猪たちはここにいるのか。


今朝私が森に入ったことが原因か?

思い当たることがそれくらいしかない。縄張りを荒らすようなことはしていないと思いたいが、私の知る知識と魔物たちの縄張りについての決まりごとは、やはり違うだろう。


「すべて消し炭にするか」


悩む私より先にスレイマンが結論を出し物騒なことを呟く。


「この数の魔物をだぞ!!?あんた、正気か!?」


クロザさんは驚き一瞬振り返るが、その間に近づいてきた猪に向かい槍を振って距離を戻すのを忘れない。その慣れた動きは戦闘などみたこともない私でも「すごい」と思うものだった。もしかして、結構腕の立つ傭兵だったのか。


しかしスレイマンはそんなクロザさんを高評価するわけでもなく、心底愚かな生き物をみる目で「この俺がこの程度の魔物相手に手こずると思うのか?」と吐き捨てる。


本当、こいつは何なんだろう。そんな性格だから洞窟に捨てられるんだよ。

マーサさんの聖女っぷりに触れて改心でもすればいいよ。


「ちょっと待ってください。大事なことを確認したいんです」


私はすぐに何か魔法を使って解決してしまいそうなスレイマンの服の裾を引っ張る。


「……残った同種族が村を襲う可能性か?」

「いや、それよりも、なんで俺らを待ち構えてたかってのも調べねぇとな」

「やっぱり森にはいったのがいけなかったんだ…」


消し炭にするのはまだまずい、と思う私にスレイマンが問い返し、それにクロザさんとイルクが続いた。


イルクに至っては泣きそうな顔をしている。村のタブーを犯しているという罪悪感が一番強いのは幼いイルクなのだ。私の荷物を背負いながら震えている。それでも荷物を投げ捨てて村に逃げようとはしないのだから、やはりイルクはすごい。


私はゆっくりと三人を見渡し、大きく頷いた。


「一番大切なのは、この猪は食べれるかってことです」


消し炭ダメ、絶対。


「このバカ娘が」


真剣な目でいえば即座にスレイマンに頭を叩かれたが、消し炭にするなどという冷酷無慈悲な手段を提案した悪魔になぜ駄目出しをされねばならないのか。


「いつものやつおねがいします」

「……お前は本当に…魔法を何だと…」


スレイマンは私が「これは食材ですか?」と聞いたものに何やらぶつぶつと呪文を唱えて毒性やらなにやらを確認してくれる。

今回も嫌そうな顔はするが、確認のために呪文を口に乗せはじめてくれ……なぜか、クロザさんの顔が引きつった。


「とうちゃん?」

「いや…え?え??おい…あんた…え?それって…?え?」


いや、ありえないだろ?と何やら驚き慄くクロザさん。私とイルクは顔を見合わせ、スレイマンを見る。するとボサボサの髪に伸び放題の髭のみすぼらしい顔の男は面倒くさそうに溜息を吐き、呪文を完成させ「問題なく食える」とだけ私に言った。よっしゃ!


「ところで、なんかクロザさん驚いてるけど、スイレマンなんかすごい魔法つかったの?」

「傭兵くずれからしたら珍しいだけだろう。魔術師はともかく、魔法を使える者は希だからな」

「なるほど。やっぱりスレイマンはつよいんですね」

「あたりまえのことを今更」


フンと鼻を鳴らしスレイマンは眼を細める。


そうか、その強さに調子に乗ってなんかしちゃったんだろうな…それで洞窟に捨てられたのか…。棄てた人、出てきちゃったこと怒らないかな…。この場合、出しちゃった私も怒られるんだろうか。怒られるんだろうな。


「まぁいいか。スレイマン、便利だし」

「お前は俺を調理道具か何かと思っていないか」

「私が料理長になったあかつきには、スレイマンには副料理長の地位をあげてもいい、というくらいに信頼してます」


あと言わないが、滅茶苦茶頼りにしている。


この世界の基本的な生活レベルもまだよくわからない。あの村は絶対一般的じゃないだろうし…私はまだ一般的な火の起こし方さえ知らないのだ。

しかし私は幸運なことに、最初は母さん、今はスレイマンという魔術師が一緒にいる。なので火が必要なら起こして貰え、水も出してもらえるし、こうして守って貰えている。


異世界転生で特殊スキルとかチートとかなく、いきなり殺されかけた私だが、絶対幸運値はEXではないだろうか?

もしくは出会いの運がトップクラスのステータスとか。もしステータスが見えるゲームの世界であればそういう表示になっているんじゃなかろうか。


「いっしょにいられて、私はこの世界で一番運がいいんだと思ってます」

「おいあんたら!話してないでこいつら、結局どうするんだ!!!?」


じぃっと不気味なものを見るように私を見つめてくるスレイマンを見つめ返していると、クロザさんが緊迫した声で叫んだ。


「え?食べますけど」

「そうか!!もうなんでもいいが!!!なら仕留められるんだよな!!?あんたら!」


ギィン、とクロザさんの槍が襲ってきたイノシシの腹を薙いだ。しかし深くは入らなかったようで、悲鳴を上げることなく、イノシシの体は地面に着地し、そのままクロザさんに再び突っ込んでいく。


「っ、とうちゃん!」

「お前はそっから出るんじゃねぇ!どうせ魔術師のダンナは自分と嬢ちゃんしか守ってねぇんだろうからな!嬢ちゃんの傍から離れるなよ!!」


マジかよスレイマン、逆に器用だな。

広範囲の防御魔法でも張ってくれてるのかと思ったら個別か。

どんだけ他人に厳しいんだ。


私は呆れたが、イルクは泣きべそをかいている。

周囲には牙をむいた恐ろしい魔獣、今にも殺されそうな距離にいるイルクの父親…だというのに、私はものすごく冷静だった。だって絶対これ、スレイマンが瞬殺するだろ。


それよりも今考えているのは、あの猪の調理方法だ。


「やっぱり…諦められない、トンカツ」


呟いて、パンもパン粉もない今、どうやって衣を作るかと、その方がとても重要な問題なのだ。あとキャベツ…この森に、似たようなものがあればいいのだが…。




====




「一撃かよ…おい…本当、何者なんだよ…旦那」


転がる猪を眺め、茫然としているクロザさんの背中はなんだか哀愁が漂ってる。


さて、仕留められました猪っぽいなんか森の獣。


正しい名前をスレイマンが教えてくれ、なんと素晴らしいことにこの獣、名を「ハバリトン」というらしい。つまり…トンカツになりえるということだ!と私はイルクの手を取って踊り、怒られた。


ハバリトンは森の賢者と呼ばれる長寿の魔獣で主に草食。獰猛な爪や牙は魔獣同士の争いに負けぬためのもので、これで獲物を捕ったりはしないらしい。

多くは森にある池や沼に生息し、こうして森の入り口に出てくるような獣ではない、とスレイマンとクロザさんの意見が一致した。


一頭を魔法で捕縛し頭を槍で潰して絶命させると、あとの獣たちはその途端、これまでの攻撃性が嘘のように急に大人しくなり、すごすごと森の中に戻っていった。それがまた奇妙な変化だ。


だが、とりあえず森の外に出て村を襲うことはないだろうし、念のための見張りもかねて森からは出たが、入り口付近にて…レッツクッキング!


ハバリトンのさばき方だが、私が前の世界でやってた猪の解体と同じ手順でOKだった。だが皮や骨はさすがに魔獣だけあって並の刃では駄目で、そこは活躍しました、母さんの爪と、スレイマンが出したなんかすごい魔法剣。そのたびにクロザさんが一々驚いて言葉を失ってくれたけれど、驚くより手早く解体してほしい。


指示出す係、私。

必要な水や風の魔法、スレイマン。

解体を実際に行うのはクロザさん、という役割だ。


イルクはというと、血抜き、皮を剥ぐところはなんとか堪えていたが内臓を取り出すところで吐いた。仕方ない、まだ子供だ。


それに引き換え、まるで怯えずためらわず指示を出す私をクロザさんは怖いものでも見る様な目で見てくるのがなんだか恥ずかしい…。


これは私が前世で動物でも食材として見れる目があったというだけでなく、馬車転落からずっと人間のいない世界で育った、というのがあるのだろう。

人間の世界で生きていれば魔獣は恐れるもの、だが大きな狼の母さんに育てられた私には魔獣は恐怖ではないのだ。その辺ちゃんと注意しないと痛い目を見るな、私。


そして作業は進み、内臓やら骨やら、あれこれと、枝肉になったものを一つ残してあとは村に持って帰ろうと布や皮を使いぐるぐるに巻く。


「ふ、ふふ、うふふふふ…トンカツ…そう、それは人類の文明と文化の結晶といっても過言ではない至高の料理…ついに、ついに……ついに……」


さっくりといい厚さに肉をスライスし、私は恍惚とした表情でそれを眺め、天に高く掲げる。


肉の味はどんなものだろうか?生で食べても、新鮮だから大丈夫だろうが、今はトンカツのためだけに私の胃はあけられておくべきだ。草食って言ってたから変な臭みはないだろうがクセがないか心配ではある。ならば牛乳につけておきたい…うん、ない。仕方ない。


「起きてくださいイルク!」

「ぅ…っ…あ。おれ…気絶して…?」

「いいですか、ラグの葉を摘んできて細かくちぎって、革袋の中でお肉と一緒にもんでください」

「え?なんで?」

「トンカツのためです!」


はい早く!と追い立てて、私は手頃な切り株に座っているスレイマンに火の用意を頼み、クロザさんには猪の背油を細かく切ってもらう。


「トンカツにまず必要なのは…そう、揚げ物用の油。そしてここには…最適と言われるラードを作るのに必要な…背油がある!!すごい、私勝ち組!!!」


実際には豚ではなく猪…ですらないが、解体してみた感想は完全に「うん、構造は猪!」だったので、まぁ出来るだろう。ラードもどき。


ちなみに、実際トンカツをあげる油をラードにした場合、めちゃくちゃ美味い。私も豚を解体したときはラードを作ってトンカツ油に使用した。その際は豚だけの油は重いのでサラダ油を混ぜたが。


「切ったぞ、お嬢ちゃん。これどうするんだ?」

「はい、少しだけ水を入れたお鍋を火にかけて、脂を出します」


コクを出すために動物の乳も入れたいが…都合よくカブラさんが通りかかってくれるはずもなく、コトコトと弱火にかける事30分。

その間にクロザさんは猪の解体をした跡の片付け、イルクもその手伝いをしていた。


無事に油が完成し、私は思いつく限りの神の名を讃えつつ、次の作業に入る。


そう、どうする、パン粉問題だ。


「だけど私は慌てません!なぜならこの村には!ラグの木があるのだから!!!」

「おまえ、実は木を食べるの好きなんじゃないのか?」


私はおがくず状にしたラグの木をボウル代わりの木の器にいれ、パン粉として代用できないかと試みる。


まずは肉だ。イルクに渡した肉を再度受け取り、昨日はパンケーキのため運よく全部使わず済んだ塩(代用品)の残りと、胡椒がないのでその辺になってた木の実をすりつぶしてまぶす。


……小麦粉など使い切った!!!卵もな!!!


「卵……」


トンカツには必要不可欠なのだ。

卵の存在こそ…調和の証であり、ベストアンサー。


どうする私、何かないかずっと、ラードを作りながら考えていたが、やはり卵は卵なのだ。水では駄目だ。どうする。


「一つで足りるかバカ娘」

「スレイマン!」


卵を構成する元素を思い出し始めた私の耳に、ずるずると足を引きずったスレイマンの声がかかる。


その手がずるずると引き摺っているのは……鶏?


クェェエエと鳴いている、赤い鶏冠に白い羽…大きさは、私の知るものより大きいが、鶏だ。


上半身は。


「…旦那、それ…なぁ、ダンナ…それバジリ、」

「召喚術で呼んだ、卵を産む鳥だ」


身体の半分は鶏、しっぽは蛇…という悪魔の名前はなんだったか思い出せない。クロザさんが顔を引きつらせスレイマンが引っ張ってる魔物から距離を取る。

だが私は逆に喜び勇んで近づいた。


「その子卵産むんですか!?」

「産めるだろう」


聞けば私の問いに答えるというよりは、ビクついてスレイマンを見ている鶏に命令口調で言い放つ。


一瞬、それ雄なんじゃ、という疑問が浮かばないでもなかったが私はじぃっと期待を込めて鶏を見つめる。


「産めないならば肉になれ。どのみち地の国に帰す気はない」


ガッチガチに体を強張らせた鶏が何の反応もしないので、しびれを切らしたスレイマンが悪魔のようなセリフを吐くと鶏はポォンと、尻から卵を出した。


「すごい!卵ですよ!!!この子飼いましょう!!」


素早く卵を受け止め、ざらざらとした表面を撫でて私は提案する。


「鶏の飼育…安定した卵の入手……人類万歳!!!」

「いや、それ悪魔だろ…どう見ても…」


突っ込みをいれるクロザさんは放置し、私は再び料理に戻った。


卵を割り、溶く。ラグの木の粉を一度肉にまぶし、卵を絡ませる。


そして先ほどのラグの木おがくずバージョンを衣かわりに纏わせ……熱したラードの中に入れた。


……できるだろうか?うまく、行くだろうか…?

ドキドキしながら、油の温度に気をつけながら、じっと待つ。


ラードの中の肉は大きな気泡は次第に小さくなり…そして…。


「……ぅ、…う…ぅっ」

「泣くやつがあるか、このバカ娘」


十分後、敷物代わりにした布の上で、トンカツを咀嚼しながら私は大泣きした。


……おいしい。

………おいしい、おいしいよぉ…。


ハバリトンは草食、と聞いたが、多分一番多く食べているのはドングリに似た木の実ではないだろうか。肉には甘味があり…そう、スペインで育てられているイベリコ豚に近い…それ以上の肉のうまみがあった。


そして仕留めたハバリトンは雄。

しっかりとした肉だが、硬さなどない。興奮し体温が上昇していたところをしめられたためか、あるいは魔力のある魔獣だからか、その肉は細胞の一つ一つがやわらかくなっていると感じられる食感だった。


ハバリトンの油を使い、肉を揚げたのも大正解だ。

同じ生き物のものは反発し合うこともなく…肉のうまみを逃がさず包み込み…そして、いい仕事したよニワトリさん…卵液がラグの木に絡み合い…パン粉と同等のサクッとした食感を再現している。


「……ぅっう……ぅ…」


私は泣きながら食べ続ける。


おいしい。ほんとうに、おいしい。


キャベツがないから胃もたれするかな、という不安は…ラグの木が重い脂分を吸ってくれたのか…それとも魔力効果か…揚げ物なのに、お肉なのに…重くない。なのに肉を食べている、という満足感はそのままだ。


「……ラグの木、すごい…」


素晴らしい木だ。

最初は正直ドン引きだったが…村人の判断、間違ってない。ただ方法がまずかっただけかもしれない。

ラグの木は……素晴らしい可能性を秘めた食材なのかもしれない。祝福せよ。


「すっげぇうまい、なんだこれ!めちゃくちゃうまいな!!!なぁ、父ちゃん!」

「あ、あぁ…そうだな…。……バジリスクの卵…ハバリトンの肉……いくらになるんだ…これ」


感動にむせぶ私と、私の涙をごしごし拭うのに忙しいスレイマンの向かい側ではクロザ親子がトンカツを堪能している。

二人の初トンカツだ。邪魔はすまい。だがあとで感想を聞かせて欲しいな、と思いながら、私は最後の一切れを口に運び、大空を見上げた。


「この世界、おいしい」





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実際のモン○ンのクエストは草採集じゃないですけどね。あれ酷くない?

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