それでいいのか、いいんです
「中々、愉快な事を企んでおるではないか。白亜の若造」
さて、私がどういう反応をしようか考えていると、扉の向こうが騒がしくなり、そして周囲の制止する声を背に、なんか……偉そうなおっさんが乱入してきた。
「余に隠せると思うたか?いや、出し抜けるだとと見縊ったならこの場で殺すがそうではあるまい!」
入って来たのは、黄金を身にまとった褐色の肌の男性。
大柄で鍛え上げた筋肉は豪奢なマントと上等の布で覆われている。
ラザレフさんを軽薄という言葉を集めて人の形にしたような人と形容するのなら、このひとは尊大が服を着ているようなものだった。
誰だこの、でかいおっさん。
ズカズカと大股で私とラザレフさんに近づき、値踏みするように私を見つめた。
……あれ?
この人、なんか……似てる?
そんな筈はないのだが、私はこの威圧的な男性に……なぜだか、スレイマンに似たものを感じた。
「……」
「小娘、わかるか」
「?それはどういう、」
意味ですか、と聞こうとしたが、男性は私にはもう視線を向けず、ラザレフさんに向きなおった。
「貴様は小賢しい。百も千も考えて、自らより他人に行動させ選ばせているつもりにさせるような狐よ。あの鷹の行動、これとて貴様の考え通りなのだろう?」
「それはあまりにも、私を買い被っていらっしゃる。それでは、ハットゥシャの王がこちらにいらっしゃったことも私の考えのうちというのですか」
「余は偉大な王であるが万能ではない。ゆえに常に思考する。これは誰の夢なのか、と」
大人二人がそれぞれ真剣な顔で、いや、口元には互いにうっすら笑みさえ浮かべながら話し合う。
こういう時、私は置いてけぼりを食らうので、このままこっそり逃げられないかとそれを探るが、まぁ、無理だろう。
「小娘、で、どうする?」
会話に参加できないのなら話を聞いて情報を得ていようとしていると、突然大男、ハットゥシャの王様が声をかけてきた。
「と、言いますと?」
「余が貰ってやるのが最たる幸福だと思うが」
何がどうしてそうなるのか。
貰ってやる、というのはこの場合、私自身のことだろう。
歳を考えろ、と言いかけてなんとか無言を貫くことに成功した。
私の微妙な表情に、王様は一度眉を跳ねさせて、自分の言葉の補足をする。
「この場合、ハットゥシャが、ということだ。余に貴様は近すぎる。息子らの中から好きに選ばせてやろう」
おっと、まさかの突然、私の嫁ぎ先が決まりそうだった。
いきなり出てきて何を言っているのだこの王様。
お義父様立候補者か。
「それは、」
「口を挟むなよラザレフ。我が国は聖女候補を一人貰い受ける決まりがある。我が国が望めばそれは階位に関係なく、たとえ、魔王を孕んでいようと叶えられるもののはずだ」
これは、私の話ではない。そういう前例があった、という話だ。
魔王を孕んでいた聖女候補、あるいは聖女と決まりかけていた女性を……王様の国は貰ったことがあるということか?
私はじっと、王様を見つめる。
この尊大が人のかたちをしているような王様は、さっきなんと言ったか。
そして、あることに気付いた。
そもそも、星屑さんは私のため、と言いながら、それならどうして……私をこの国に置いていったのだろう。
星屑さんなら、私を他の場所、たとえばドゥゼ村とか他の、安全な場所に私を隠して行くことも……もし、スレイマンが同じことをするのなら、私のために世界を滅ぼすというのなら、スレイマンはきっと私を誰の手の届かないところに隠しただろう。
星屑種の思考は人間とは違う、としても、そういえば、それは妙なことだった。
そしてラザレフさんは、私をアグド=ニグル。結界システムのない外国へやろうとしている。
そこにいる皇帝が私の実母だとかそういうことはさておいて、星屑さんの行動の「理由」になっている私を自分の手の届く場所から放そうとしている。
王様は、ラザレフさんはたくさんのことを考えている、と言った。そして、王様の国に行くのが私にとっての幸福だ、とも。
「星屑さんが次に狙う場所を、決めようとしているんですか?」
ラザレフさん、そしてこの王様三人は私よりたくさんのことを知っていて、そして守らないといけないものをたくさん持っている人たちだろう。
「アグド=ニグルに私が行けば、星屑さんの結界の外になる。星屑さんは自分の目の届かない場所に私が行けば、追いかけてくる、あるいは、その間に他の星屑種の保護、強化……準備が出来る」
あわよくば、皇帝に星屑さんを倒して貰おう、というつもりもあるのかもしれない。
そっか、私が餌か!!
そしてこの王様は、ラザレフさんの思惑を知りながら、私を外にやるよりも自分の国に置いて置いた方が良いという考えがある。
この王様のことを何も知らないので、その他の意思がどんなものかわからないが。
「余は寛大である。子を産む女は国の至宝と心得ているゆえ、貴様を手厚くもてなそう」
「私がそちらに嫁ぐ利点はなんです?」
「余の申し出を不服と申すか。平伏し粛々と受け入れるのが筋であろう」
立場的には王様と、平民。私が口を開いて自分の望み通りの言葉を告げなかったことが不敬だというように顔を顰め、王様は私を窘める。
「私にそういう可愛げがあるのなら、ラザレフさんは苦労していないと思います」
「うーん、本人がそれを言っちゃうとねぇ~」
いつもの調子が出てきたのか、それとももう観念したのか、ラザレフさんが軽い調子で溜息をつく。
「私は選べるんですよね?ラザレフさんの言う通り、アグド=ニグルに親善大使として行くか、それともハットウシャの王族の誰かと結婚するか。私が、選べるんですよね?」
「まぁ、そうなるね。エルザちゃんが望む方でいいよ。仕方ない」
「っていう風に、私に選ばせてあげるって見せておいて、どっちかしか許さないってことですよね?」
先程はラザレフさんがアグド=ニグル行きを強制しているような形だったが、今は他に選択肢もあるからいいだろう、とそのような流れにしている。
私はここで、星屑さんがどうして私をおいていったのかわかったような気がした。
「私の生き方は決まっています!料理がしたい!はい、ハットゥシャの王様早かった!どうぞ!」
「余のもとならハレムがある。大人数の料理も贅を凝らした華美な料理も、貴様の好きに作れ、喜ばれるぞ」
私の思考を察知したのは王様が早かった!
ラザレフさんは「まだ言うかこの娘」というように笑顔を引きつらせたので、私へのプレゼンが遅れた!
「行先決定!ハットウシャ!!!」
今作のポケモンめっちゃ楽しいです。
今はひたすら、色違いガーディを探している。
あと、ガチャピン先生を空の旅を楽しんでいます。