未葬
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観念して両手を上げたエルザを一瞥し、ラザレフは砕けていく琴の星屑種のもとに膝をついた。
この世の全ての清らかさを集めて結晶にしたら、きっとかの方のような美しいかたちになるのだろうと、思っていた。
「―――――――」
何も言わぬラザレフを、顔の半分以上が失われた星屑種は見つめ返し、人間種には金属の重なり合う音としか聴き取れぬ声を発した。
ラザレフは鷹の星屑種によって蹴り散らされた欠片を両手で地をはいて集める。鋭利な破片はラザレフの弱い皮膚を破り傷付けたが、白亜の大神官は僅かも顔を顰めることはなかった。
ただ思考する。
人間種の価値観で、星屑種は計れない。
けれどこの時、この場合、琴殿は、ラザレフを白亜の塔から連れ出し、大神官としての居場所を与えてくれた彼女は、自分に何を伝えるだろう。
(いや、そもそも、鷹の星屑はなぜ今?)
眠り続けた聖女、天狼の姿となり夢の中をさまよっていたエルザ。この迷惑極まりない聖女殿を守るだのなんだのが本当だと鵜呑みにするなら、もっと早く鷹の星屑は聖王国に降るべきだった。
琴の星屑の瞳がラザレフの思考を読み取り、小さく金属音を立てる。
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「と、いうわけでね。我々は鷹殿が他の結界を侵略し、他の星屑種を砕く前になんとしてでもかの方を止めなければならないんだけど、残念ながら僕の知る限り、鷹の星屑種と同等かそれ以上の力を持つ人間種なんて、君がスレイマンと呼ぶあの男くらいしかいなかったよ」
「だから今、星屑さんが動いたと?」
私が問うと、ラザレフさんはゆっくりと頷いた。
さて、ここ最近よく半壊する聖王国の宮殿やら神殿。現在私とラザレフさんがいるのは大神殿。
即位の儀や婚礼、その他国の重大な行事を行う場所には私たちだけしかいなかった。
真っ白い花がびっしりと敷き詰められた棺の中には水晶の欠片、琴の星屑種だったものが丁寧に置かれ、星屑さんに重傷を負わされていたはずのラザレフさんは体調が悪そうな様子もなくその棺の前に立っている。
「かの方にとってスレイマン=イブリーズがいるなら自分は行動を起こさないつもりだったか、それとも別の理由があったのかは知らないけどね。エルザちゃん、君が目覚めた、ということは君は何か、失ったんだろう?」
「寝てる間に狼になってたりして、人としての尊厳的なものは失ってた気がします」
「悪いけど、今はお互い真面目に話しをする時だ」
ふざけたつもりはないが、まぁ、そう受け取られたなら仕方ない。
私はラザレフさんの質問に正直に答える気はない、ということだけ伝えられればそれでよく、黙って次の言葉を待った。
「星屑種の力は巨大だ。けれど彼らは神じゃない。だから殺せる」
棺の中に手を伸ばし、ラザレフさんは琴の星屑種の結晶を手に取って、また棺に落とした。
「人間種には不可能だけど、可能な生き物が少なくとも二種族存在してる。わかるかい?」
「一つは、魔女ですか?」
私はこの世界について、聖女育成コースで学んだ程度のことしか知らないが、絶対的な存在、上位種といえば魔女、魔族、などそういうものだろう。魔族……私が遭遇したあのハイテンションな変質者が星屑さんより強いとか、さすがにないだろうと思って魔女を候補に挙げると、ラザレフさんは教師のような顔で頷いた。
「そうだね。天狼の骨から生じ、かつては女神であった彼女達なら星屑種と渡り合える可能性がある。もちろん彼女達の階位にもよるだろうけど」
「もう一つは?」
「アグド=ニグル皇帝クシャナ。君の母親さ」
「へぇー。私の、母親」
……。
今なんて言いました?
「私に母親が存在したんですか!?」
「生き物は必ず女の腹から生まれてくるよ。というか、いないわけがないだろう?」
まぁ、それはそうだ。
私が狼の母さんを「母さん!」と思っていようが、私を妊娠出産した女性は存在しているはずである。
すっかり忘れていたというか、正直、興味なかったのでまるで考えたこともなかったわ!
「私に母親が存在するとしても、その皇帝だっていうのはラザレフさんの勘違いでは?」
というか、なぜそんな突拍子もない話になるのか。
「決まってる。顔がそっくりだからさ。髪の色が違うくらいで、君の瞳はあの皇帝と同じ色だし、二年くらい前に皇帝の一人娘が失踪したって聞いたからね」
「それで私と結びつけるのは強引では?それに、スレイマンは何も言ってなかったですよ」
「あの男は君の顔がどうだろうが、君がどこの生まれだろうが、そんなことはどうでもよかったんだろう」
なるほど。まぁ、そう言われればそんな気もする。
「さて、話を戻そう。それで、君は聖王国に保護され聖女として教育を受ける事も出来て、とても丁寧に丁重に、手厚くもてなされたね?」
冗談を言い合う気はないと釘を刺されたので、これは突っ込みをいれたらだめなのだろう。私は「ふざけてるんですか?」と聞きそうになる自分をなんとか抑え、しぶしぶ頷く。しぶしぶ。まるで本意ではない。
私が嫌そうながらも頷くと、ラザレフさんは自分の言動の矛盾点など空から宝石が降るより有り得ないという白々しい顏をして言葉を続けた。
「君にはザリウス家の養子に入って貰うよ。そして、聖王国の立派な貴族の一員、貴族の義務として、アグド=ニグルへの親善大使となって皇帝クシャナに謁見し、星落としの御業を要請してくるように」
「ふざけてるんですか?」
駄目だ。一生懸命がんばって我慢したけど駄目だった。
辛抱たまらず真顔で突っ込み、私は次の瞬間、ラザレフさんに床に叩きつけられた。
「手土産として、琴の星屑種の欠片全てを持たせる。君が実の娘でも間違いでもどうでもいい。魔王や星屑種をたぶらかしたように、皇帝の情を得てくればいいんだ」
なるほど!あなたのお嬢さんを見つけましたよ!なんてただの口実ですか!私の出自なんぞどうでもいいが、利用できるように利用しようというその姿勢。
さすがにラザレフさんも余裕がない。
私は冷たい床にごりごりと額を押し付けられながら、これ、私が言うことを聞く理由ってあるんだろうかと、いろいろ探してみた。
……人質でも取られない限りないな!
前回の感想で「今作のポケモンの化石がやばい」って教えて貰ったんですけど、あの設定考えたやつは人の心がないんですか??吐き気を催す邪悪とはあのことでは???
※ポケモンネタバレTwitterで食らいそうなので、ちょっと一生懸命ゲームクリアしてから次回更新します。バッヂ今4つ。私の可愛いニャースが伸びた。